LINE公式
閉じる

MENU

乳児院とは?施設の目的と保育士の役割を経験者が解説

子どもを抱えている女性
乳児院は、さまざまな家庭の事情で保護者の養育が受けられない乳幼児を保護し、養育や退院後の援助を行うことを目的とした施設。子どもにとっては、他の家庭と変わりのない生活の場となります。そこで働く保育士にはどんな役割が求められるのでしょうか。今回は、筆者が働いていた乳児院での経験をもとに紹介していきます。

乳児院とは

まずは乳児院の成り立ちや役割について見てみましょう。

乳児院設立の背景

保育士の膝に座って本を読む子ども
乳児院は、1947年(昭和22年)の児童福祉法制定を機に設立されました。その中では、「乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設」とされています。当初は、戦争孤児や栄養の問題による発育不良、衛生上の問題による感染症などさまざまな問題から子どもたちを保護する役割がありました。

現在はそれに加えて、社会情勢や家族形態、地域性、価値観など多くの視点から、家族への養育支援や病虚弱児の養育、被虐待児の保護とケア、里親(※1)への支援など、さまざまな役割を担っています。
※1 里親とは
親の病気、家出、離婚、そのほかさまざまな事情により家庭で暮らせない子どもたちを、自分の家庭に迎え入れて養育する人のことをいいます。里親制度は、児童福祉法に基づいて、里親となることを希望する方に子どもの養育をお願いする制度です。

運営主体

運営主体は、県や市などの自治体、社会福祉法人などです。筆者は社会福祉法人の乳児院で勤務していたため、法人内に保育園や介護施設などもありました。

施設数・入所数

2023年現在で全国に129施設があり、2,963人が入所しています。設備や人員配置については児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)に定められており、嘱託医、看護師、保育士、児童指導員、栄養士、調理員などが養育にあたっています。

乳児院の在所期間は、1か月未満が26%、6か月未満を含めると48%となっており、長期入所しているケースも少なくありません。

参考:社会的養護の施設等について/厚生労働省

乳児院の規模

ケープをつけて前髪をカットされている子ども
子どもに対して個別対応が求められる施設ですが、入所児童の定員が40人以上の大規模な施設もあります。近年では、より家庭に近い環境で過ごせるよう大規模施設を小規模にしていく動きが進んでいます。

小規模施設になることで、子ども一人ひとりと関わることができ、ニーズに合わせた養育ができます。私の働いていた施設は15人の小規模の施設でしたが、15人をさらに3ユニットに分けて子どもたちを養育していました。他にも、より家庭的な形を目指して「小規模住居型児童養育事業」を行っているファミリーホーム(※2)もあります。
※2 ファミリーホームとは
家庭環境を失った子どもを、里親や児童養護施設職員など経験豊かな養育者がその家庭に迎え入れて養育する「家庭養護」のこと。養育者の家庭の中で5~6人の子どもを預かります。子ども同士の相互の交流を活かしながら基本的な生活習慣を確立するとともに、豊かな人間性や社会性を養い、将来自立した生活を営むために必要な知識・経験を得ることを目的としています。

入所児童の背景

乳児院の入所理由はさまざまです。両親の精神疾患を含む病気、虐待、ネグレクトなどがありますが、近年では母親の精神疾患や父母の虐待による入所が増加傾向です。

また、子どもが心身に何らかの問題を抱えている場合もあります。低出生体重児などの病虚弱児や、生まれつき障害を持っている子どもなどさまざまです。疾病や障害などを抱える子どもは、その状態に応じて医療的・療育的ケアなどの対応をすることが求められ、入所後に医療機関への定期通院やリハビリを受けるケースもあります。

乳児院の役割

乳幼児期は、周囲の豊かな愛情と継続的な関わりを通して、大人に対する信頼を獲得する大切な時期です。乳児院は、子どもの小さな変化を見つめ、成長を一緒に喜び、子どもにとって「当たり前の生活」を 保障する場であると同時に、専門的なニーズに対応する役割も担っています。子どもたちが愛着形成を築く大切な時期に過ごす場所という点では、とても大きな役割があると言えるでしょう。



保育士の仕事内容

女性の膝に座って笑っている子ども
乳児院で働く保育士がどんなことをしているのか見てみましょう。

子どもとの関わり

一般的な保育園や幼稚園、認定こども園とは異なり、場合によっては子どもの入所から退所まで保育士1人が乳児1人を中心に対応(個別担当制)します。家庭では当たり前のように、お家で親御さんがご飯を作り、その様子を何気なく見たり、お手伝いをしたりしているかもしれません。しかし、施設によっては多くの子どもをお預かりし、危険リスクにも配慮しなければならないため、調理師さんが調理場で食事を作るなど、家庭とは異なる環境があります。そのため、どんな風に食事が作られているのかを子どもたちが知らないこともあります。

私の働いていた施設では、個別担当制を取り入れていたため、個別に関われる時は安全に配慮し1対1でゆったり昼食を作ったりしていました。お米が炊飯器で炊けることに子どもが目を丸くしてびっくりしていたこと、何気ない日常が新鮮に感じたことを覚えています。

他にも、担当の子どもだけではなく、入所しているすべての子どもとの関わりもあります。ミルクを飲ませてオムツを変えたり、お散歩やお風呂に入れたりと、24時間体制で子どもに関わっていきます。

退所後の継続的なサポート

入所していた子どもたちはその後、実の両親や親族の元へ帰ったり、里親に引き取られたりするなどさまざまです。担当者は引き続き、保護者や里親など生活のキーパーソンになる方と面会し、アドバイスや相談に乗りながら、生活ができる環境づくりのサポートも行います。子どもが施設から退所した後も、面会を重ねて生活の相談に乗ることもあります。

その他にも、児童相談所の職員である児童福祉司と子どもの発達などについての情報交換を行うなど、公的な機関との情報共有の役割もあります。

やりがいと注意点

横になった状態でおもちゃを持つ赤ちゃん
乳児院での仕事のやりがいと、気を付けておきたい点についてお伝えします。

保護者の代わりとなって子どもをサポートしていくことは責任も重大ですが、成長を間近で感じることができ、喜びや学びのあるお仕事です。「お買い物」「お出かけ」「お料理」などがあたり前にできていることは、子どもたちにとっても特別なことであり、とても大切な時間になります。筆者も、子どもとの関わりを通して得られたものは想像以上でした。

気を付けることとしては、24時間体制でのシフト勤務となるため、生活リズムが不規則になる場合もあります。体調管理をしっかりと行い、仕事に向き合うことが必要となります。

保育の仕事の選択肢として

保育士として働く場所は、保育園以外にも多岐に渡ります。子どもを保護するだけでなく、社会全体で子どもを支えていくことが求められる乳児院は、子どもの成長を間近で感じ、一緒に成長を喜び会える素敵な場所です。乳児院を知ることで、社会の現状も見つめることもでき、多くの学びを得られるお仕事の一つです。もし関心を持ったという方は、ぜひ保育のお仕事の選択肢の一つとして検討してみて下さいね。

【関連記事】

続きを読む

ほいくisメンバーに登録(無料)