日案の作成前に押さえておくこと
今回から、日案の作成についてより実践的な話をしていこうと思います。まずは全体感を掴んでもらいたいので、テーマは「作成順序」です。最初に、作成の前に押さえておきたい点を確認しましょう。
最も重要な「ねらい」の設定

日案の作成においては
、「ねらい」の設定が最も重要な要素です。ねらいは日案の軸となるため、ここが曖昧であれば子どもの活動や保育者のかかわり、環境構成においてブレが生じてしまいます。
ねらいを明確にするために、子どもの姿や経験、クラスの取り組み、園の方針などの要素を考慮しながら設定していきましょう。
日案で陥りがちな落とし穴

日案作成時に陥りやすい落とし穴として、「保育を“想像”して作成する」ということが挙げられます。
日案上では「想像≠予測」であり、似て非なる物と言えます。頭でイメージした保育の流れや保育者の援助を考えること(想像)と、実際に保育で使うものを目の前に置き、手を動かしながら考えること(予測)とでは大きな違いがあります。
想像では、子どもの活動や保育者の配慮などの
重要な要素が抜けてしまう可能性があります。そうならないためにも、「保育の予測」ができる日案の作成順序を知っておくことが重要です。具体的に紹介していきましょう。
日案の作成順序
それでは、日案の作成順序について一つひとつ見てみましょう。
1. ねらいの設定

ねらいは日案の中で重要な役割を果たします。ねらいを明確化することで保育の軸が定まり、具体的な保育者援助や環境構成が考えられます。ポイントは、保育者の主観ではなく、子どもたちの
日頃の姿から設定をしていくことです。
今回は、日案の作成順序を、乳児クラスの「着替え」を例に解説していきます。
- 2歳児:自分で衣服の着替えや片付けをしようとする
- 0歳児:着替えの心地良さを味わう
という二つのねらいに注目して見ていきましょう。 |
2歳児のねらいでは、“自分で着替えようとする”ために、保育者の声掛けや、着脱のきっかけになる援助、自分で片付けがしやすい環境構成などが必要になります。それに対して0歳児のねらいでは、“着替えの心地良さを味わえるようにする”ための着脱や片付けの援助、汗や汚れが付いた服を
新しいものに替えた時の気持ち良さを言語化する、などといった具体的な声掛けが必要になります。
このように保育者のかかわりや働きかけ、環境構成はねらいによって大きく異なります。それらを念頭に置いて作成をしていきましょう。
2. 予想される子どもの活動

日案の作成は「想像≠予測」であることを前提に、可能な限り実際に保育で使う物を用意し、
目の前に置いて流れを考えることが理想です。衣服の着脱の場合であれば、作成者自身が自分の着替えを用意することで手順を考えることができます。
想像で作成してしまうと、「衣服を脱ぎ、新しい服に着替える」とあっても、その前に「新しい服を○○から出しておく」という重要な活動が抜けてしまうことがあります。
活動内容によって用意が難しいこともありますが、例えば製作なら材料や道具を用意し、実際に作りながら考えると、保育者自身が予想される子どもの活動を把握し、保育を進める確認にもなります。
3. 環境構成
環境構成の欄は屋内外の配麗図だけではなく、人的、物的、自然・社会など、子どもをとりまく全ての物事が環境になるため、とても広い捉え方ができます。
具体的な環境構成を箇条書きで記述することにより、
保育者の援助に関する文章の省略が可能になります。
例に挙げた着替えで考えると、環境構成の欄には…
- 着替えの補助、着替え後の子を見る保育者の役割分担とその配置
- 脱いだ服を片付ける袋やカゴの事前確認とその設定
などといった内容が記入できます。そうすることにより、保育者の援助欄にあるような「着替えの補助と着替え終わった子の遊びを見る役割分担を行い、声を掛け合いながら連携を図る」といった文章の省略ができるのです。
4.保育者の援助や配慮

予想される子どもの活動と環境構成に基づいて、保育者の援助や配慮を具体的に記入します。ねらいに対して
どんな援助や声掛けが必要かを考えます。
「2歳児の自分で着替えようとする子への援助」を例に見ていきましょう。
- 自分で着替えようとする子の姿を認め、着替えを見守る。
という文章があったとします。この場合、着替えに対しての意欲を認めていますが、それ以上の保育者のかかわりをこの文章から読み取ることはできません。見守る時の留意点や、着替えようとする気持ちに寄り添う声掛けなどが具体化できると良いです。
- 服の前後が分からず保育者に援助を求めた時は、向きや持つところを一緒に確認し、自分で着る達成感が味わえるように援助していく。
という文章にしてみます。すると、“援助を求めた時には”という言葉からは保育者の見守る姿勢が分かり、具体的な援助方法はねらいに沿った達成感を味わえる働きかけをしていることが読み取れます。
5.時間の予測、配分

活動の始まりと終わりの時間は
作成時に設定をしておきます。ここで示す時間とは、活動中の細かな時間配分のことです。子どもの活動時間として十分な時間が確保できているか、保育者のかかわりや援助にはどれくらいの時間が必要か、などを踏まえて考えます。年齢や発達に応じて、活動の時間が適切かどうかも確認できると良いでしょう。
広がる日案の可能性

基礎を理解した上で順序立てて日案を作成すると、丁寧な保育者のかかわりや配慮を考えることができ、
それに必要な環境構成までもが見えてくるようになります。今を生きる子どもたちにとって、あそびや生活、活動に取り組むためには保育者がどのようにかかわり、どんなきっかけを作ることが必要かを考えていきましょう。
“日案を作成できること”が最終目標ではありません。多角的に保育を捉え、丁寧なかかわりや子どもたちの真の姿を引き出す環境を構成できる保育者になれることを目指しましょう。
また丁寧な保育を考えて作成する日案は、保育学生が作成する実習日誌と非常に多くの共通点があります。日案の基礎を学ぶことで、
実習日誌を添削したり、指導したりすることができるようになるため、日案を導入していない園でも、丁寧な保育や人材育成の一環として学ぶことは大きなメリットとなるでしょう。
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