メンタルヘルスケアとは

予防では、精神的な問題を引き起こす可能性のあるリスク要因(遺伝、環境、心理的要因など)や労働環境を適切に把握し、これを管理することで問題の発生を未然に防ぎます。そして、個人が自分の精神状態を適切に把握できるようにストレスチェックなどを取り入れ、精神状態の悪化を早期発見できるよう努めていきます。その際、メンタルの不調が生じていれば、その原因に応じて環境の調整や心理カウンセリング、薬剤治療などさまざまな手段で早期治療介入を行っていきます。
不調になるとどうなるか

最初は、気分の落ち込みに加えて、寝つきが悪くなり熟睡できない状態となっていきます。その後、さらに進行すると、楽しかった趣味や友だちと遊んだりする事が億劫になったり、集中力が無くなったりしていきます。集中力や判断力が失われていくと、仕事でのミスが目立つようになり、それにより自己肯定感は低下し、自己否定的な考え方が強くなります。
また食欲不振から体重の減少や、人によっては頭痛、腹痛など身体的な症状に悩まされることもあります。そして、これらは急速に進行する場合や緩やかに進行する場合などさまざまです。
主な不調の原因

考えられる原因として多いのは、ストレスへの脆弱性などの遺伝的要因、人間関係、経済困難、仕事量過多、失職などの社会的要因、健康問題などです。その中でも今日、特に大きな問題となっているのが人間関係による社会的要因です。
保育士がメンタルヘルス不調になる理由
ここからは、保育士の場合について見ていきましょう。メンタルが不調になる原因

保育業界は需要と供給がアンバランスになっている業界の代表例であり、常に人手不足に悩まされています。そのため、しばしば長時間労働となり、十分な休息時間も確保できません。
保育士は高いプロフェッショナリズムや成果を求められる仕事です。しかし、労働量が多いにも関わらず、それに対する給与・待遇などの評価は低く、保育士の自己評価は次第に低下していきがちです。求められるスキルに対して、その価値が社会的に過小評価されることで、職業的な満足感が低下する要因となります。
職場環境の観点からは、どちらかと言うと閉鎖的な空間であることから、職場になじめないと相談相手が見付からないことから孤立し、どんどん自らを追い込んでいく傾向が見られます。
不調になると現れる症状

同じようなことを何度も考え続け、不安だけが雪だるま式に大きくなってきます。そうすると、上述した興味や関心の低下、集中力・判断力の低下や食欲不振、自責感へと繋がっていきます。
不調になりやすい人の特徴
不調になりやすい人の性格としては几帳面、責任感が強い、完璧主義、他人に気を遣い衝突を避ける方に多いです。これを「メランコリー親和型性格」と言ったりもします。不調になった際の対処方法

多くの場合、不安や、苦しんでいる内容は漠然としています。それを人に話そうとすると、自分が今、何に対して悩み苦しんでいるのかをある程度まとめる形になります。その結果、不安内容が明確になり、何が自分にとって辛いのかが次第に見えてくるようになります。自分の考えを口に出し、それを自分の耳で聞くと、自分を客観視することができるようになり、冷静に悩みを分析することができたりもします。
また、相手に話を聞いてもらう事による安心感や、相手から得られたアドバイスで思いがけない答えが得られることもあります。もちろん、これだけで解決しないことは多くありますので、その場合はやはり環境の調整が必要となってくるでしょう。

精神状態に応じて、労働時間、仕事内容の調整で改善が得られるのか、それとも休養や薬剤治療が必要なのかを判断し、適宜必要な措置をとってくれます。精神科や心療内科などの、いわゆるメンタルクリニックを受診することに対する心理的なハードルは高いかもしれませんが、「なんだか眠りにくくなってきた」「なんだか不安」など、漠然とした内容でも良いので、勇気を出して受診するようにして下さい。受診後はプロ集団がメンタルを安定させるために全力でサポートしてくれます。
メンタル不調の予防法

完璧主義者の場合
完璧主義の傾向を持つ方は、非常に高い向上心と、それに向かっていく集中力、持続力を持ち合わせています。責任感をもって仕事に取り組むため、職場のクオリティを向上させ、同僚や上司から信頼される存在となることが多いです。一方でこの傾向が強すぎると、不完全な仕事内容となることを恐れるあまりに、長時間労働を自らに課し、自分でも気付かないうちに疲弊していきます。また、取り組もうとする仕事を完璧にこなせないかもしれないという強迫的な考えが頭の中に芽生えてしまい、仕事から逃避してしまうこともあります。
このような方の予防法としては、まず目標設定を自分目線で行うのではなく、自分で「この人みたいに生きる事が出来たら良いのにな」という人を想定し、「その人であればどの程度の目標設定にするのか」を考えるようにしてみましょう。
その結果、目標の8割しか達成できなかったしても、自らをとにかく褒めるようにして下さい。はじめは無理やりで、不自然と感じても良いです。そうしていくうちに自らに寛容になり、メンタルも安定し、一定水準のパフォーマンスを常に発揮できるようになります。
人の目を気にして行動しがちな方の場合

多くの場合、自らがした行動、発言などを職場の人が批判的に捉えているのではないかと考えてしまうことから生じてきます。ただし、これについては、考え過ぎてしまっていることが多いのが現状です。まずは、そのことを客観的に認識できるようにする必要があります。
最初に日々自分に批判の矛先が向いているのではと思ったことをノートに書くようにして下さい。具体的には、「どういう状況だったのか」「それに対して相手がどのように思っていると自分は考えたのか」「そして自分はどのように感じたのか」といった内容です。
次が最も重要なステップです。例えば、「自分がこうなりたい」という相手を想定し、「その人だったら自分が遭遇した状況をどのように思うのか」を考え、紙に書くようにして下さい。最初は面倒かと思いますが、これを続けていくうちに自分が理想とする人の考えが、まるで自分の考えのようにさっと出てくるようになります。これを繰り返して、自分の考えの癖を修正していく方法は非常に有効です。
その他の予防法

アロマはティッシュに垂らし、ポケットなどに入れておくと常時香ることができ効果的です。
呼吸法にはいろいろな手法がありますが、まずは簡単に、吸う息より吐く息を長くなるよう意識してみて下さい。寝起きなどがそうであるように、人はリラックスしているときは吐く息の方が長くなります。
まとめ

湯地 義啓
精神科専門医、産業医、日本精神神経学会認知症診療医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
東京DPAT(災害派遣精神医療チーム)隊員
日本精神神経学会 日本神経薬理学会 日本産業保健法学会 日本老年精神医学会
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