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不適切保育を知る|定義・実態・原因・対策・チェックリストを解説

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バツのプラカードを挙げている女性
2022年(令和4年)に報道された事件をきっかけに、「不適切保育」という言葉が広まっています。「私の保育は不適切保育に当たらないか」と不安に感じたり、「どんな保育をしていったら良いのだろう」と悩んでいる保育士さんも少なくないでしょう。今回は、不適切保育の実態と園内研修に活用できる動画を紹介します。
>>「不適切保育」研修動画はこちら

不適切保育とは

新聞に書かれた「不適切」の見出し
2022年(令和4年)12月、静岡県裾野市の保育園で発生した園児虐待事件が大きく報じられました(※1)。これをきっかけに全国各地からも報道が相次ぎ、「不適切保育」という言葉が広まりました。

このことを受けて、こども家庭庁は保育施設への緊急調査を実施し、2023年(令和5年)5月に調査結果を公表しました。また同時に、「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン​​」を作成して周知する対応が行われました(※2)。

このガイドラインでは、不適切保育を「虐待等と疑われる事案」と位置付け、ここには「虐待等も含まれ得る」としています。また「虐待等」の定義については、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4つの類型に加えて、「このほか、こどもの心身に有害な影響を与える行為」も含まれているとしています。

※1 出典:保育士3人を暴行容疑で逮捕、宙づりなど園児虐待の保育園 静岡県警​​/朝日新聞 >>詳細はこちら
※2 出典/保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン(令和5年5月)/こども家庭庁 >>詳細はこちら

不適切保育の実態

調査データのグラフと虫眼鏡
前述した、こども家庭庁による「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」によると、2022年(令和4年)4月~12月の間に、保育施設(保育所、地域型保育事業、認可外保育施設、各種認定こども園)全体で1,316件の「不適切保育」があり、そのうち122件が「虐待」と確認されました。

この調査を行う上では、「不適切な保育」についての明確な定義がなく、回答内容にばらつきがあったことが指摘されています。しかし、子どもを守る保育施設で、決して少なくはない数の不適切保育が発生していたという事実に変わりはありません。調査結果は関係者にも重く受け止められ、園の運営について再点検をするきっかけにもなりました。

出典:「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果について(令和5年5月)/こども家庭庁 文部科学省 >>詳細はこちら
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不適切保育の原因

不適切保育が発生する背景には、さまざまな要因が考えられます。ここでは、一つひとつ見ていきましょう。

多くの人は「子どもが好き」で保育士になります。それにも関わらず、不適切な保育を行ってしまうのは、「心と身体のゆとり」が無くなってしまうことに原因があると言えます。なぜ心身の余裕が無くなってしまうのでしょうか? その要因を3つ挙げました。

保育現場の人手不足

「人手不足」「求人中」と書かれた積み木とグラフ
人材不足のため、国や自治体の定めた基準ぎりぎりの保育士しか配置できない園も多くあります。限られた人数の中で、子どもたちの安全を守りながら生活支援や教育的配慮を行なっていくことは、難しい場合も多いでしょう。

人員にゆとりがないため、休憩がとれなかったり、体調が悪くても休めなかったりすることも少なくありません。人手不足は精神的にも身体的にも負担となり、気持ちのゆとりが無くなる要因となります。

業務過多

保育士の仕事は子どもと直接関わるところだけではありません。事務仕事や環境整備など、それ以外の業務もたくさんあります。

保育園はその施設の性質上、一日を通して子どもが園にいるため、子どもから離れてその他の業務とすることが難しい場合が多くあります。そのため、休憩時間や退勤後に仕事をしている保育士も多く、大きな負担となっています。

保育士の仕事が、目の前の子どもと向き合うだけだったら、少しはゆとりが生まれるかもしれません。しかし現実では、「あれもしなきゃいけない。これもしなきゃいけない」といった焦りが、子どもの行動を否定したり、急かしたりする行動に繋がってしまうこともあります。

人間関係

腕を組んで考え事をしている保育士
保育士同士の人間関係が、心理的な負担となる場合もあります。実際に、「人間関係」に悩んで退職を選ぶ保育士も多く、大きな課題と言えるでしょう。

保育士も子どもと同様に、一人ひとり個性があったり、価値観が異なったりします。本来であれば、園の保育理念を元に協力して保育をすべきですが、気持ちのすれ違いが重なると、チームワークが機能しなくなることも、現実としてよくあることです。

不適切保育を防ぐ対策

ゆとりのある保育士の配置は心の余裕を生むことに繋がりますが、人材不足の現状では、早急な対策が難しい状況です。不適切保育を防ぐために、今、保育現場ではどのようなことに取り組むことができるのでしょうか。

ここからは、不適切保育を防ぐための対策について見ていきましょう。

子どもが主体的に生活できる環境を作る

ままごとのおもちゃで遊んでいる男の子
保育士の指示によって子どもが動くのではなく、子どもが自分で考えて行動できる環境を作りましょう。そのためには、さまざまな玩具や道具を子どもたちが手に取れる場所に配置することが大切です。

子どもが主体的に生活したり、遊んだりできる環境であれば、保育士は子どもに指示を出す必要が無くなります。それに伴い、子どもに「〇〇させなきゃ」という焦りも無くなるので、不適切な保育を防ぐことに繋がるでしょう。

保育士同士のコミュニケーションを大切にする

コミュニケーションを取り合っている保育士たち
保育士同士の関係性が良くないと、その苛立ちが子どもに向かってしまうことがあります。そのような事態に陥らないためにも、コミュニケーションを大切にし、お互いを認め合う雰囲気を作っていくことが大切です。

保育士もさまざまで、コミュニケーションが得意な人もいれば、不得意な人もいますね。園によっては、なんとなく会話し辛い雰囲気が漂っている場合もあります。

そのため、園長や主任などのマネジメント層が、コミュニケーションを取りやすい雰囲気や仕組みを作っていくことが大切です。保育士の何気ないやりとりや笑い声が広がることで、連携が深まり、不適切保育を防ぐことに繋がります。

保育者の間で共通理解を持つ

子どもたちが描いた絵を見ている保育士の手元
保育士は専門職として、子どもたちに適切な言葉かけや支援を行う必要があります。そのためにも、職員が園内研修などを通じて不適切保育について知り、日々の保育を振り返ることが大切です。

こども家庭庁の「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」や、全国保育士会が公表している「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト​​」などを活用しながら、自分たちの保育を振り返り、保育のあり方について考えていきたいですね。

出典:保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン​​/こども家庭庁 >>詳細はこちら
出典:保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト~「子どもを尊重する保育」のために~/全国保育士会 >>詳細はこちら

不適切保育への対策で見ておきたい研修動画

ノートパソコンで研修動画を見ている保育士
職員全体で不適切保育についての共通理解を図るために、「ほいくisオンライン研修」の活用をおすすめします。ここでは、保育業界の有識者の先生方が、不適切保育の背景や対策についてお話している研修動画を紹介します。

いずれの動画も、ほいくisメンバーに登録(無料)すれば、無料で視聴いただけます。

汐見稔幸先生|不適切な保育を考える


※こちらの動画は試聴版です この動画では、保育分野の第一人者である東京大学名誉教授の汐見稔幸先生が 、「不適切な保育」が起こる背景や保育者が置かれている現状、そして「こども主体の保育」への展望についてお話しています。

不適切保育を無くすためには「保育の専門性」が不可欠で、そのためには、日本の保育業界における構造の見直しも必要だと、汐見先生はお話しています。現場で始められることとして、子ども主体の保育が行える環境作りや、振り返りの時間を持つことの重要性が挙げられています。

動画を見て、「自分たちの園ではどんなことができるんだろう」と職員同士で考えるきっかけを作ることができるでしょう。

汐見稔幸先生 セミナーの視聴はこちらから

柴田愛子先生|不適切な保育ってなに?

※こちらの動画は試聴版です  「子どもの心に寄り添う」を基本姿勢としたりんごの木代表の柴田愛子先生が登壇。PART.1では不適切な保育が起きる背景を、PART.2では「主体性」と生き生きと保育するために大切なことをお話しています。

柴田先生が「配置基準の中で保育していくことの難しさ」を、現場目線で言語化して下さっています。「そうそう、そうなんだよね」と、保育士の皆さんも共感が止まないのではないでしょうか。

保育を楽しむ余裕がない現状の中で、行政や世間から求められることも増えていきますが、私たち保育士は、目の前にいる子どもたちの育ちから目を離さないことが大切だということを再確認できます。

この動画を通じて「保育を楽しむためにできることは何だろう?」というテーマについて考えてみたいですね。

柴田愛子先生 セミナーの視聴はこちらから

大豆生田啓友先生|保育の質から考える「不適切な保育」

※こちらの動画は試聴版です この動画では、大豆生田啓友先生が不適切保育のガイドラインやチェックリストを元に、問題が起こる背景や、園でできる取り組みについてお話しています。PART.3の動画では、Q&A形式で具体的な解決法を学ぶことができます。

子ども一人ひとりの興味関心に寄り添い、保育士自身もワクワクすることが大切だと大豆生田先生は語ります。そのワクワクを職場の同僚や他園の職員と共有していくことが、結果的に不適切保育を防ぐことに繋がるというお話もありました。

子どもだけでなく、保育士も、保護者も、みんなで保育を通じてワクワクする。そのためにはどんなことができるのだろうか? と考えてみたくなる動画です。

大豆生田啓友先生 セミナーの視聴はこちらから

 

関山浩司先生|ハラスメント予防のための職場づくり

※こちらの動画は試聴版です この動画では、保育施設を専門とした園運営やマネジメント支援のプロ​​である関山浩司先生が、園で起こりうる子どもへのハラスメントについて紹介すると共に、それを解決するための方法をお話しています。

子どもよりも年上で、経験もあるという理由だけで、大人の意見を通そうとし過ぎていないか、振り返ることが重要であると関山先生は語ります。子どもを信じて、無理のない保育をすることが大切だということを学ぶことができます。

子どもに対するハラスメントを防ぐためにはどうしたら良いのか? そんなことを考えるきっかけになる動画です。

関山浩司先生 セミナーの視聴はこちらから

 

不適切保育を防ぐ方法を考えてみよう

不適切保育を防ぐためには、その問題が起こる背景を知り、対策を考えていくことが大切です。ガイドラインやチェックリストなどを活用しながら、自園でできることを探っていきたいですね。

不適切保育について園で考えていきたいと感じている方は、参考にしてみてください。

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佐野 きこ(さの きこ)

この記事を書いた人

佐野 きこ(さの きこ)

現役保育士。
現在は子どもだけでなく、保育士や保護者など、子どもに関わる人をサポートする仕事がメイン。子どもも保護者も保育士も、みんなが笑顔になれる保育を目指している。
座右の銘は「保育士は、保育のプロである」
保育の専門家として、わかりやすく保育を語れるよう奮闘中。
家庭では、2人の息子のお母さん。

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