不適切保育とは

このことを受けて、こども家庭庁は保育施設への緊急調査を実施し、2023年(令和5年)5月に調査結果を公表しました。また同時に、「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」を作成して周知する対応が行われました(※2)。
このガイドラインでは、不適切保育を「虐待等と疑われる事案」と位置付け、ここには「虐待等も含まれ得る」としています。また「虐待等」の定義については、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4つの類型に加えて、「このほか、こどもの心身に有害な影響を与える行為」も含まれているとしています。
※1 出典:保育士3人を暴行容疑で逮捕、宙づりなど園児虐待の保育園 静岡県警/朝日新聞 >>詳細はこちら
※2 出典/保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン(令和5年5月)/こども家庭庁 >>詳細はこちら
不適切保育の実態

この調査を行う上では、「不適切な保育」についての明確な定義がなく、回答内容にばらつきがあったことが指摘されています。しかし、子どもを守る保育施設で、決して少なくはない数の不適切保育が発生していたという事実に変わりはありません。調査結果は関係者にも重く受け止められ、園の運営について再点検をするきっかけにもなりました。
出典:「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果について(令和5年5月)/こども家庭庁 文部科学省 >>詳細はこちら
不適切保育の原因
不適切保育が発生する背景には、さまざまな要因が考えられます。ここでは、一つひとつ見ていきましょう。多くの人は「子どもが好き」で保育士になります。それにも関わらず、不適切な保育を行ってしまうのは、「心と身体のゆとり」が無くなってしまうことに原因があると言えます。なぜ心身の余裕が無くなってしまうのでしょうか? その要因を3つ挙げました。
保育現場の人手不足

人員にゆとりがないため、休憩がとれなかったり、体調が悪くても休めなかったりすることも少なくありません。人手不足は精神的にも身体的にも負担となり、気持ちのゆとりが無くなる要因となります。
業務過多
保育士の仕事は子どもと直接関わるところだけではありません。事務仕事や環境整備など、それ以外の業務もたくさんあります。保育園はその施設の性質上、一日を通して子どもが園にいるため、子どもから離れてその他の業務とすることが難しい場合が多くあります。そのため、休憩時間や退勤後に仕事をしている保育士も多く、大きな負担となっています。
保育士の仕事が、目の前の子どもと向き合うだけだったら、少しはゆとりが生まれるかもしれません。しかし現実では、「あれもしなきゃいけない。これもしなきゃいけない」といった焦りが、子どもの行動を否定したり、急かしたりする行動に繋がってしまうこともあります。
人間関係

保育士も子どもと同様に、一人ひとり個性があったり、価値観が異なったりします。本来であれば、園の保育理念を元に協力して保育をすべきですが、気持ちのすれ違いが重なると、チームワークが機能しなくなることも、現実としてよくあることです。
不適切保育を防ぐ対策
ゆとりのある保育士の配置は心の余裕を生むことに繋がりますが、人材不足の現状では、早急な対策が難しい状況です。不適切保育を防ぐために、今、保育現場ではどのようなことに取り組むことができるのでしょうか。ここからは、不適切保育を防ぐための対策について見ていきましょう。
子どもが主体的に生活できる環境を作る

子どもが主体的に生活したり、遊んだりできる環境であれば、保育士は子どもに指示を出す必要が無くなります。それに伴い、子どもに「〇〇させなきゃ」という焦りも無くなるので、不適切な保育を防ぐことに繋がるでしょう。
保育士同士のコミュニケーションを大切にする

保育士もさまざまで、コミュニケーションが得意な人もいれば、不得意な人もいますね。園によっては、なんとなく会話し辛い雰囲気が漂っている場合もあります。
そのため、園長や主任などのマネジメント層が、コミュニケーションを取りやすい雰囲気や仕組みを作っていくことが大切です。保育士の何気ないやりとりや笑い声が広がることで、連携が深まり、不適切保育を防ぐことに繋がります。
保育者の間で共通理解を持つ

こども家庭庁の「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」や、全国保育士会が公表している「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト」などを活用しながら、自分たちの保育を振り返り、保育のあり方について考えていきたいですね。
出典:保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン/こども家庭庁 >>詳細はこちら
出典:保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト~「子どもを尊重する保育」のために~/全国保育士会 >>詳細はこちら
不適切保育への対策で見ておきたい研修動画

いずれの動画も、ほいくisメンバーに登録(無料)すれば、無料で視聴いただけます。
汐見稔幸先生|不適切な保育を考える
※こちらの動画は試聴版です この動画では、保育分野の第一人者である東京大学名誉教授の汐見稔幸先生が 、「不適切な保育」が起こる背景や保育者が置かれている現状、そして「こども主体の保育」への展望についてお話しています。不適切保育を無くすためには「保育の専門性」が不可欠で、そのためには、日本の保育業界における構造の見直しも必要だと、汐見先生はお話しています。現場で始められることとして、子ども主体の保育が行える環境作りや、振り返りの時間を持つことの重要性が挙げられています。
動画を見て、「自分たちの園ではどんなことができるんだろう」と職員同士で考えるきっかけを作ることができるでしょう。
汐見稔幸先生 セミナーの視聴はこちらから
柴田愛子先生|不適切な保育ってなに?
※こちらの動画は試聴版です 「子どもの心に寄り添う」を基本姿勢としたりんごの木代表の柴田愛子先生が登壇。PART.1では不適切な保育が起きる背景を、PART.2では「主体性」と生き生きと保育するために大切なことをお話しています。柴田先生が「配置基準の中で保育していくことの難しさ」を、現場目線で言語化して下さっています。「そうそう、そうなんだよね」と、保育士の皆さんも共感が止まないのではないでしょうか。
保育を楽しむ余裕がない現状の中で、行政や世間から求められることも増えていきますが、私たち保育士は、目の前にいる子どもたちの育ちから目を離さないことが大切だということを再確認できます。
この動画を通じて「保育を楽しむためにできることは何だろう?」というテーマについて考えてみたいですね。
柴田愛子先生 セミナーの視聴はこちらから
大豆生田啓友先生|保育の質から考える「不適切な保育」
※こちらの動画は試聴版です この動画では、大豆生田啓友先生が不適切保育のガイドラインやチェックリストを元に、問題が起こる背景や、園でできる取り組みについてお話しています。PART.3の動画では、Q&A形式で具体的な解決法を学ぶことができます。子ども一人ひとりの興味関心に寄り添い、保育士自身もワクワクすることが大切だと大豆生田先生は語ります。そのワクワクを職場の同僚や他園の職員と共有していくことが、結果的に不適切保育を防ぐことに繋がるというお話もありました。
子どもだけでなく、保育士も、保護者も、みんなで保育を通じてワクワクする。そのためにはどんなことができるのだろうか? と考えてみたくなる動画です。
大豆生田啓友先生 セミナーの視聴はこちらから
関山浩司先生|ハラスメント予防のための職場づくり
※こちらの動画は試聴版です この動画では、保育施設を専門とした園運営やマネジメント支援のプロである関山浩司先生が、園で起こりうる子どもへのハラスメントについて紹介すると共に、それを解決するための方法をお話しています。子どもよりも年上で、経験もあるという理由だけで、大人の意見を通そうとし過ぎていないか、振り返ることが重要であると関山先生は語ります。子どもを信じて、無理のない保育をすることが大切だということを学ぶことができます。
子どもに対するハラスメントを防ぐためにはどうしたら良いのか? そんなことを考えるきっかけになる動画です。
関山浩司先生 セミナーの視聴はこちらから
不適切保育を防ぐ方法を考えてみよう
不適切保育を防ぐためには、その問題が起こる背景を知り、対策を考えていくことが大切です。ガイドラインやチェックリストなどを活用しながら、自園でできることを探っていきたいですね。不適切保育について園で考えていきたいと感じている方は、参考にしてみてください。
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