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専門家に聞いた保育施設のクマ対策|侵入防止・避難方法・遭遇した際の対応

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「クマ出没注意」の文字とクマのイラスト
2025年(令和7年)は全国各地でクマの出没と被害が急増し、大きなニュースとなりました。中には保育施設での目撃情報もあり、クマの生息地に隣接する地域の園では子どもたちを守るための対策が必須となっています。今回は、野外における危険生物対策の研究や指導をされているセルズ環境教育デザイン研究所 代表理事の西海太介さんに、保育施設でのクマ対策についてお聞きしました。

クマ被害の現状と今後の予測

さまざまなデータを示したグラフ

2025年は全国各地でのクマ被害が非常に増え、報道も相次ぎました。その原因について教えてください。


クマによる事故が多いのは事実で、2008年(平成20年)以降で見ると2025年が最多、2023年(令和5年)も被害が多い年でした。クマの事故件数は昔から波があり、大体3年周期ぐらいで増減しています。背景には大きく3つの理由があります。まずは、クマの個体数そのものが増えていること。次に、クマが町に近付きやすい環境になっていること。そして、エサの問題です。

クマが食べるどんぐり類やサルナシ、ナナカマド、ヤマブドウなどの植物は豊作の年と凶作の年があり、複数の植物の凶作が重なる年も出てきます。エサが少ないと、結果として野生動物の数は減ります。逆に毎年豊作だと増え過ぎてしまうので、エサの状況が野生動物の数をコントロールしている面もある訳です。

エサが少ないことでクマの事故が増えるのは事実ですが、それ自体は昔から見られる現象です。最近の状況は、クマの数が増えたことや、町に近付きやすい環境ができてしまったことといった他の要因と重なって起きている影響が大きいというのが実情です。そこにエサの問題が重なり、結果として人里での遭遇や事故が増えていると考えられます。
道路を渡る野生のクマ

複合的な要因があるということですね。2026年(令和8年)のクマ被害の数はどうなると予測されますか?


ピークが2年続くことも過去にはあります。ただ、2025年並みにはならないと思います。植物の豊作・凶作の具合で言うと、そんなに凶作が続くことも考えにくいので。

クマの頭数自体が増えているので、2025年に比べて件数が下がったとしても、過去の少ない年に比べると上回ってくると予測されます。もう少し暖かくなると、2026年が豊作寄りか凶作寄りかが見えてくるので、もう少し具体的に分かるかなと思います。

2026年も油断できないとお考えでしょうか?


「2026年も」というより、数が少ない時であっても油断した行動を取っていると、その後何年か経って数を増やすことに繋がる可能性があるので、クマ対策はコンスタントに皆が意識して、継続的に行っていくことが必要です。

環境省が公表しているデータ(※)で、若干古くはありますが、平成15年度(2003年度)から平成30年度(2018年度)を比較したものがあります。この時点でも近畿とか、中国地方に関しては3倍近く、その他の地域でも1.3倍くらい伸びています。
日本全国のクマ類の分布をまとめたデータ図
※出典:クマ類の生息状況、被害状況等について/環境省 >>詳細はこちら

人里に出るという行動は、すべてのクマがする訳ではないんです。しかし、仮に5%のクマが人里に出るとして、100頭の5%と1,000頭の5%だったら、そもそも個体数が違う。やはり事故件数として伸びるじゃないですか。そういう状況が、頭数の増加で起きていると考えられます。

ただし、クマの目撃数自体は、個体数の増加傾向の強い中国地方よりも東北地方の方が多くなっています。そのため、個体数だけがすべての要因となっている訳ではなく、山や町の環境など、他の要因も複雑に絡み合っていることが推測されます。
 
西海 太介さん
西海 太介(にしうみだいすけ)
神奈川県横浜市生まれ。『危険生物対策』や『アカデミックな自然教育』を専門とする生物学習指導者。
昆虫学を玉川大学農学部で学んだ後、高尾ビジターセンターや横須賀2公園での自然解説員経験を経て、2015年「セルズ環境教育デザイン研究所」を創業。
危険生物のリスクマネジメントを専門とし、近年はマダニ対策の研究を行うほか、マムシ抗毒素(血清)の生成事業にも関わっている。
その他「生物学研究教室」の開講、メディア出演や執筆・監修などにも幅広く携わり、「危険生物対策」と「生物学」の普及に取り組んでいる。
監修書籍に『毒のある生き物図鑑』(理論社)。著書に、『身近にあふれる危険な生き物が3時間でわかる本』(明日香出版社)など。
HP https://cells-lab.com/


クマ鈴の効果はある?クマの習性の基礎知識

クマの習性について知っておくべきことを教えてください。


クマは非常に頭が良く、鼻も良い動物です。僕はよく、「山に住む先住民族だと思って接した方がいい」と言っています。それくらい賢い動物です。

特に学習能力が高く、たった1回の経験でも覚えてしまう可能性があります。過去に、北海道の知床で観光客がヒグマにソーセージを与えてしまった結果、人の近くに頻繁に現れるようになり、最終的には小学校に出てしまい駆除される事例がありました。ペットと同じ感覚で野生動物を見るのはとても危険です。かわいいと思う気持ちは大切ですが、エサを与えてしまうと人にもクマにも不幸な結果を生む可能性があります。

基礎知識としてお聞きしたいのですが、クマ鈴に効果はあるのでしょうか?

クマ鈴
例えばクマ鈴を着けた人が毎回エサとなる生ゴミを捨てたりすると、鈴が聞こえた後、「その場所に行けばご飯があるぞ」とクマは思ってしまう可能性があります。前提として、クマ鈴が効くように人間側が学習させなきゃいけないものなので、クマ鈴単体で効果を考えるものではないんですよね。これは、誰か一人がやればいいのではなく、皆が共通の理解をもって行っていく必要があります。

その上での話ですが、クマ鈴がずっと聞こえていてだんだん近付いてくると、クマからしたら人が徐々に近付いていることを事前に理解できる状態になっているので、いざ人が見えたとしても、パニックになりにくくなることが考えられます。クマがパニックになると、攻撃に繋がる恐れが出てきます。

また子連れの母熊は、子どもを守るために、人間が近付いてくることが分かったらあらかじめ離れておくことができます。クマとの突発的な遭遇は、大きな事故の元です。そのため、「クマとの突発的な遭遇を防ぐ」という意味で、クマ鈴は着けた方が良いと考えることができます。
クマの親子

クマスプレーは携帯した方が良いですか?


携帯した方が良いです。今は安価なものも出てきて入手しやすいので、山に行くとか、近くに住んでいる方は持っていた方が絶対に良いです。

使う機会がどこまであるかは別として、いざという時、やっぱりこれがある・ないで変わってきますから。また、万が一事故になってしまった際、「クマスプレーは持っていなかったんですか」と問われる可能性はありますよね。

組織として、やるべきリスクマネジメントを重ねておくことも、社会的責任を果たす上で大切です。使う状況にならないようにするのが大前提ですが、いざ攻撃を受ける状態になったときは、命を守る最後の命綱になる可能性もあります。そういう意味でも持っておく方が良いと思います。
クマスプレーのイラスト
もし、普通のスプレー缶タイプ(トリガーではないタイプ)でホルスターもないものであれば、すぐに取り出せるよう巾着袋などに入れてリュックに下げておきましょう。蓋が取れたりして誤発射してしまわないよう注意も必要です。

でも実際は、園児さんの遠足だったら気配があまりにも強いから、クマの方から離れていくことの方がほとんどでしょう。クマの事故は基本的に1人でいる時に起こりますから。クマ鈴もクマスプレーも、遠足の下見の時の方が、必要性が高いかもしれません。
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保育施設での対策

保育施設での対策についてお聞きします。例えば、園がある地域がクマの生活圏に近い場合、侵入を防ぐために日頃からどのような工夫や取り組みがポイントになるのでしょうか?


「呼ばない工夫」をすることですね。ゴミや食べ物の管理です。具体的には、ゴミ箱などを屋外に置く場合でも、野生動物が簡単に荒らせる状態にしないこと。例えば、北海道では高速道路のサービスエリアのゴミ箱が室内にあることがほとんどです。このような管理をしっかりとすることが大事です。

また、遠足で山に行く際、「これは自然に分解されるから大丈夫」と思って果物のヘタなどを捨ててしまう例もありますよね。でも、それもクマにとっては食べ物になります。「山に持ち込んだものはすべて持ち帰る」。そういう意識を持つことも大切だと思います。
ヤマブドウを食べたクマのフン※ヤマブドウを食べたクマのフン。生息域近隣の園の関係者は、講習会などでこういった知識を得ておくことも重要

クマと遭遇してしまった際の対処についてお伺いします。クマが園内に入ってきてしまった場合や、目の前に現れた時はどのように対応すれば良いでしょうか?


園庭に出た場合は、とにかく全員を室内に入れて鍵をかけることです。警察に連絡することは必要ですが、先生がクマに対して何かしようとする、戦おうとするような行動は絶対に止めた方が良いです。

もし倉庫などにクマが入ってしまった場合は、鍵をかけて閉じ込められれば、そうする方法もあります。ただし状況によるので、必ずそうしてくださいとは言えません。

避難させる際に子どもたちが大声を出してしまうことも考えられます。大きな声で誘導するのが良いのか、それとも合言葉などで静かに動く方が良いのか。どのように考えれば良いでしょうか?


合図を決めておくでも声で伝えるでも良いのですが、とにかくパニックにならないこと。人がパニックになると、クマもパニックになります。

よく「走って逃げない方が良い」と言われますが、これも急な動きがクマにとって刺激になるからなんです。動きはゆっくり、堂々としていることが一番良い。「そこにクマはいるけれど、自分は慌てていない」という態度ですね。

もちろん子どもたちにそれを求めるのは簡単ではありませんが、走って逃げるなどの急な行動は避けた方が良いです。園で訓練をしておくと良いかもしれません。
電柱に貼られた「熊出没注意」の看板
POINT

保育施設におけるクマ対策に関しては、こども家庭庁より、「クマの出没に対する保育施設等の安全確保について(令和7年10月31日付事務連絡)」が発出されています。こちらも参考にしながら、園におけるクマ対策の検討を行っていきましょう。
>>詳細はこちら

クマスプレーを使う具体的なタイミングはありますか?


クマスプレーは極めて近距離に来たり、威嚇、突進してくるような状況だったりしたときに使います。噴霧距離は5m~10mなので、本当に最後の最後の手段です。

使う場合は、子どもたちにその瞬間息を止めて目を閉じさせるとか、後ろを向かせる、姿勢を低くさせるなどをすると良いでしょう。要は、風向きでスプレーの中身が自分たちの方に来たとしても、目や口、鼻に当たらないような状態にして吹く方が安全ですね。

山で出会った時も、クマに背中を向けて慌てて走って逃げないようにしましょう。転んでしまって円滑にその場から離れられなくなってもまずいですし、子どもたちを先導する先生が前を向いて歩かせて、後ろ向きにクマ対応・監視の先生がいるという状況が良いと思います。

園ではこういったクマ対策を取っているということを保護者に伝えておくのも大切ですね。


そうですね。私も環境教育の立場からよく話すのですが、園外活動や自然体験には、どうしてもリスクが伴います。極端な話、遠足に行かなければ事故のリスクはゼロになります。でも、それでは外で学ぶ価値のある経験も失われてしまいます。
遠足中の児童
大切なのは、きちんと必要な対策を取って、事故リスクを管理して活動すること。リスクは排除できないので、管理するから「リスクマネジメント」なんです。その上で、保護者にもどんな安全対策をしているのかを普段から伝えておくことも重要だと思います。

本日はどうもありがとうございました。

 
POINT

クマを含めた危険生物に関する知識を学んでおくことは、遠足や自然体験などの戸外活動におけるリスクマネジメントの観点からも重要です。セルズ環境教育デザイン研究所では、「安全管理研修に最適な 組織を守る 危険生物のリスクマネジメント」として、過失や労災にならないために、リスクを学んでおき、事故予防や、いざというときに適切な応急処置を速やかに対応できるようにすることを目的とした講習会を実施。保育者にとっても役立つ内容となっていますので、チェックしてみてください。
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