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【小児科医が解説】「発達障害(神経発達症)」の基礎知識|保育士が知っておきたいASD・ADHD・LDの特徴と基本の対応

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【小児科医が解説】「発達障害」の基礎知識
現場で「もしかして?」と悩む保育者さんへ。日々子どもたちと向き合う中で、対応に迷うことはありませんか?今回は、子どもの心身の発達を見つめてきた小児科医の視点から、ASD・ADHD・LDの正しい基礎知識と、明日から園で実践できる「具体的な言葉かけ・対応のコツ」を分かりやすく解説します。先生の「困った」を「安心」に変え、子どもたちの個性を輝かせるヒントが満載です。

1. はじめに:「困った子」は「困っている子」 

保育士のみなさま、毎日子どもたちの命と笑顔を守るお仕事、本当にお疲れ様です。小児科医の武井です。日々診察室で子どもたちを診ていると、保育園という集団生活の中で、先生方がどれほどきめ細やかな配慮をしてくださっているか、その様子をうかがえます。 

さて、クラスの中にこんなお子さんはいませんか?

「何度同じことを言っても伝わらない」、「お集まりの時に立ち歩いてしまう」「お友だちとのトラブルが絶えない」…

先生方としては、「私の伝え方が悪いのかな」「保育の引き出しが足りないのかな」と、ご自身を責めてしまうこともあるかもしれません。あるいは、「どうしてこの子はこんなに困った行動ばかりするのだろう」と頭を抱えてしまう日もあるでしょう。 

でも、どうか先生ご自身を責めないでください。それは先生の指導力不足でも、保護者の方の育て方のせいでもありません。実はその行動の裏には、生まれつきの脳の特性、つまり「神経発達症(発達障害)」が隠れている可能性があります。 

大人の目線から見ると「困った子」に映るかもしれません。しかし、視点を少し変えてみてください。

一番困っているのは、うまく適応できず、怒られることが増えてしまっている「子ども自身」なのです。「困った子」は、実は「困っている子」であり、先生に向けて「助けて」というサインを出している状態です。この記事を通して、先生方の肩の荷を少しでも下ろし、目の前の子どもの「困っているサイン」に気づくための温かい視点を持っていただけたら嬉しいです。 

2. 発達障害(神経発達症)とは何か? 

「発達障害」という言葉を聞くと、何か恐ろしい「病気」のように感じてしまう方もいるかもしれません。しかし、医療の現場では、これを「病気」というよりも「脳の働き方の違い」や「得意・不得意の凸凹(でこぼこ)」と捉えています。

現在、国際的な診断基準であるDSM-5(現在は改訂版のDSM-5-TR)というマニュアルでは、これらをまとめて「神経発達症」と呼ぶようになっています。生まれつきの脳の神経ネットワークの働き方の違いによって、行動や情緒に特徴が現れる状態のことです。
 
発達障害は、薬を飲んだり厳しい訓練をしたりして「治す」ものではないということです。私たちが目指すべきは、その子を「普通」の枠に当てはめることではありません。

視力が悪い人がメガネをかけたり、身体が不自由で車椅子の人のためにスロープをつくるように、その子の脳の特性に合わせて周囲が環境を整えて過ごしやすくしてあげる「合理的配慮」が必要となります。先生方が保育の中で「どうすればこの子が活動に参加しやすくなるかな?」と工夫することこそが、最大の支援なのです。 
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3. 代表的な3つの発達障害と特徴 

発達障害(神経発達症)には、いくつか代表的な種類があります。ここでは、保育現場で出会うことの多い「ASD」、「ADHD」、「LD」の3つについて、そのコアとなる特性と、園生活で見られる具体的なサインをご紹介します。もちろん、一人の子が複数の特性を併せ持っていることもよくあります。 

3-1. ASD(自閉スペクトラム症):対人関係とこだわりの特性 

ASD(Autism Spectrum Disorder)は、主に「コミュニケーションや対人関係の難しさ」と「興味・関心の偏りやこだわりの強さ」を特徴とします。

園でのサイン

  • 名前を呼んでも振り返らない、目が合いにくい。 
  • お友だちと一緒に遊ぶより、一人で同じ遊び(ミニカーを一列に並べ続けるなど)に没頭することが多い。 
  • 特定の音(椅子の引きずる音、笛の音、ピアノの特定の高音、お遊戯会のスピーカー音、掃除機の音、子どもの大きな泣き声など)を極端に嫌がり、耳をふさぐ。 
  • 「いつもの」ルーティンに強くこだわり、急に予定が変更になるとパニックを起こして泣き叫ぶ。 
ASDのお子さんは「見通しが立たないこと」に強い不安を感じます。「ダメ!」と叱るのではなく、「次はこれをするよ」と絵カードで視覚的に伝えてあげるなどの工夫が助けになります。 

​▽▼武井先生によるASDの詳しい説明はこちら▼▽

3-2. ADHD(注意欠如・多動症):行動コントロールの難しさ 

ADHD(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)は、「不注意(集中できない)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(考えるより先に動いてしまう)」の3つを主な特徴とします。自分の行動や感情にブレーキをかけるのが苦手な状態です。 

園でのサイン 

  • ブランコや滑り台の順番が待てず、横入りしてしまう。 
  • お集まりや絵本の読み聞かせの時間に、興味があるものを見つけると立ち歩いてしまう。 
  • 持ち物の忘れ物や落とし物が極端に多い。 
  • おもちゃを取られたときなど、言葉で伝える前にカッとなって手が出てしまう。 
ADHDのお子さんは、わざとやっているわけではなく、脳のブレーキ機能が未熟なために「わかっていても止められない」のです。叱られる機会が多くなりがちなので、まずは「〜したかったんだね」と気持ちを受け止め、短い言葉で具体的にどうすればよいか(「順番ね」「座って聞くよ」)を伝えることが大切です。 

​▽▼武井先生によるADHDの詳しい説明はこちら▼▽

3-3. LD(限局性学習症): 特定の学習領域における困難 

LD(Learning Disability)は、全般的な知的な遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」などの特定の分野だけが極端に苦手な状態を指します。本格的な学習が始まる小学生以降に診断されることが多いため、幼児期の診断は非常に難しいです。しかし、保育園時代にもいくつかのサインが見られることがあります。 

園でのサイン

  • 絵本の読み聞かせに全く興味を示さない、または文字に全く関心を持たない。 
  • 数を数えることや、形の認識(丸・三角・四角)がなかなか定着しない。 
  • 「しりとり」などの言葉遊びが理解できない、自分の名前の文字を覚えようとしない。 
幼児期は「無理にやらせない」ことが鉄則です。苦手なことを強要すると劣等感につながってしまいます。遊びの中で楽しく指先を使ったり、読み聞かせも耳から聞いて楽しむなど、その子が「できた!」と思える経験を積むことが優先です。 

​▽▼武井先生によるLDの詳しい説明はこちら▼▽

3-4. グレーゾーンへの理解 

現場の先生方が一番悩むのは、「明らかに発達障害の特性はあるけれど、病院で診断がつくほどではない」、いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる子どもたちの存在ではないでしょうか。 

私たち小児科医や児童精神科医も、医療の現場で「診断基準をすべて満たすか」どうかだけを見ているわけではありません。最も重視しているのは「今、本人がどれくらい日常生活で困っているか(生きづらさを抱えているか)」です。診断名をつけることがゴールではなく、その子への支援のスタート地点にすぎません。

保育士の先生方も「この子はASDなのだろうか、それともADHDなのだろうか」と枠にはめる必要はありません。診断の有無に関わらず、目の前のその子が発している「困っているサイン」をキャッチし、各記事で紹介する対応策を柔軟に試して、その子が安心できる環境を見つけてあげてください。

4. なぜ「保育士の気づき」が一生を左右するのか 

保育士と子どもたち

なぜ、幼児期に関わる保育士の先生方の役割がこれほどまでに重要なのでしょうか。それは、早期に特性に気づき、適切な環境を整えることで、「二次障害」を防ぐことができるからです。 

二次障害とは、発達障害の特性に周囲が気づかず「どうしてこんなこともできないの!」、「また怒られた」というネガティブな経験が積み重なることで、自己肯定感がどん底まで下がり、うつ病や不安障害などの精神疾患、さらには不登校やひきこもり、非行といった深刻な問題へと発展してしまった状態のことです。 一度二次障害を起こしてしまうと、そこから回復するには非常に長い時間とエネルギーが必要になります。 

保育園での時間は、子どもにとって初めての「社会」であり、自己肯定感という心の土台をつくる最も大切な時期です。「先生は私のことをわかってくれる」、「ここには自分の居場所がある」と感じられる環境があれば、子どもたちは自分の特性を「個性」として前向きに捉え、力強く成長していくことができます。

先生方の「もしかして、この子困っているのかも?」という小さな気づきが、子どもたちの一生を明るく照らす光になるのです。 

5. 保育園でできる「ユニバーサルデザイン」な保育 

「発達障害の子への対応って、なんだか特別扱いのようで他の保護者の目が気になります」「マンパワーが足りなくて、一人につきっきりにはなれません」という現場の切実な声もよく耳にします。 

そこで意識していただきたいのが「ユニバーサルデザインな保育」という考え方です。ユニバーサルデザインとは、障害の有無に関わらず、誰にとっても使いやすいデザインのことです。保育で言えば、発達障害の子にとって分かりやすい工夫 は、定型発達(一般的な発達)の子を含めた「クラスのすべての子」にとって過ごしやすい環境につながる、という考え方です。 

例えば、次のような工夫です。 
  • 「片付けなさい!」ではなく「おもちゃを箱に入れます」と短く具体的な指示を出す。 
  • 言葉だけでなく、絵カードや写真を使って「次は何をするか(視覚支援)」を見せる。 
  • おもちゃの場所がわかるように、棚に写真を貼っておく。 
  • 教室の壁面装飾を少し減らして、情報量をスッキリさせる(気が散るのを防ぐ)。 
これらは決して「特定の子への特別扱い」ではありません。どの子にとっても「何をすればいいか分かりやすい」環境です。結果として、クラス全体が落ち着き、先生方ご自身の保育もぐっとスムーズになります。クラス全体の保育の質を上げる工夫として、ぜひ取り入れてみてください。 

6. 保護者・専門機関とのチームプレイ 

保育の中で工夫を重ねても、やはり集団生活に大きな困難がある場合、保護者に伝え、専門機関(小児科や療育センター)に繋ぐ必要が出てきます。この「保護者への伝え方」が、先生方にとって最もプレッシャーのかかる業務の一つだと思います。 
 
小児科医からのお願い

「診断をつけるのは医師の仕事です。先生たちは、診断名にこだわる必要はありません。」 

保育士の先生は、診断を下す立場ではありません。ですから、保護者に対して「〇〇ちゃんは発達障害かもしれません」、「ADHDの疑いがありますよ」と病名や診断名を直接伝えるのは避けてください。保護者はショックを受け、心を閉ざしてしまうことがあります。

先生方にお願いしたいのは、「家庭での様子も教えていただけますか?」と親御さんに質問しながらも、日常の「具体的なエピソード(事実)」を記録し、客観的に伝えていただくことです。 

「〇〇ちゃん、お歌の時間はとっても楽しそうに参加しています。ただ、どうしても急に予定が変わると、不安になって涙が出てしまうことが多いです。私たちもこうしてサポートしていますが、一度、専門の先生(かかりつけの小児科や地域の相談窓口)に相談してみませんか? 私たちが気づかない良いアドバイスをもらえるかもしれません。」 

このように、「園での事実(困りごと)」と「園での対応」を伝え、保護者と一緒に悩みを共有する「伴走者」としてのスタンスを取ることが大切です。 

先生方一人で抱え込む必要はありません。私たち小児科医、保健師、療育の専門スタッフは、皆さんの応援団です。保育園と家庭、そして医療・福祉などが連携する橋渡し役として、先生方が記録した「日々の具体的な事実」は、診察室で子どもの状態を正しく評価するための、何よりも貴重な情報源となります。 

小児科医から保育士さんへのメッセージ 

毎日、朝早くから夕方遅くまで、さまざまな個性を持つ子どもたちと最前線で向き合ってくださっている保育士の皆さんに、私は一人の小児科医として、そして一人の親として、心からの敬意と感謝の気持ちを持っています。
 
「この対応で合っているのだろうか」と悩む日もあるでしょう。うまく言葉が伝わらず、一緒に泣きたくなる日もあるかもしれません。しかし、先生方が「この子はなぜこんな行動をするのだろう」と立ち止まり、考え、寄り添ってくれるその時間こそが、子どもたちにとって最高の「療育」になっています。 

発達障害についての正しい知識を持つことで、先生ご自身の保育士としての専門性がさらに深まります。医療と保育の視点は違いますが「子どもたちの笑顔と未来を守りたい」という想いは同じです。どうか一人で悩まず、私たち専門家や周りのスタッフを頼ってください。

目の前の子どもたちの「できないこと」ではなく、「できること」「輝いているところ」を見つける先生方のまなざしが、これからも多くの子どもたちを救っていくと信じています。 

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武井 智昭(たけい ともあき)

この記事を書いた人

武井 智昭(たけい ともあき)

医療法人つばさ会高座渋谷つばさクリニック 院長(内科・小児科・アレルギー科)。小児科専門医、指導医。2002年慶應義塾大学医学部卒業。同年から慶應義塾大学病院小児科研修医。その後、関東県内の医療機関を経て、2020年より現職。小児精神保健分野の診療経験を年余をかけて学習をし、診療にあたってきた。

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