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自閉症スペクトラム障害の子が、好きな遊びを見つけるには?【保育者の関わり講座】

積み木とぬいぐるみ
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラム。保育士であれば知っておきたい「気になる子」への関わり方について解説していきます。>>連載の記事一覧はこちら

「自閉症スペクトラム障害」の対応についてのお悩み

今月から3回にわたって、加配保育士へのアンケートで挙がったお悩みに答えていきたいと思います。
<今回のお悩み>
「重度の知的障害で、自閉症スペクトラム障害のアオト君。ブロックや人形を渡してもぽいっと放り投げてしまうなど、なかなか園生活で好きな遊びを見つけられません。どのように園の指導内容を考えればいいでしょうか?」
床に散らばった積み木とぬいぐるみ
この質問について考えていきます。

定型発達の子どもを含めて、「遊び」をみつけられないでいる子どもが「遊び」を獲得できるよう支援するときのヒントになればいいなと思います。


これから「遊び」をみつけるにはどうしたらいいかについてお話するわけですが、それとはまた別に、すべての子どもの「遊び」において常に配慮してほしい2つのことを先にお伝えします。

●安全安心を確保すること
●集中できる環境を整えること


この2点はいつも頭において、「遊び」をみつけるための検討をしながら折に触れて確認してほしいと思います。

「安全安心」を確保する

不快だったり緊張している状態では「遊び」はできません。

「安心できる空間」を整えることは「遊び」においてとても大事です。次のようなことに配慮しましょう。

①感覚過敏のチェック
●発達障害のある子の多くは、感覚過敏などの感覚調整障害があります。嫌な音、嫌な視覚刺激、嫌な触覚、不快な関わり方は何かを確認し、不快な刺激があれば取り除きます。

●強い光が嫌ならカーテンを閉め、大きな音が苦手ならば太鼓などの活動を避けます。

②「遊び」をする場所を固定する
発達障害のある子は「何が起きるか予測できない」から安心できないことがありますが、遊ぶ場所を固定すると、ここではこれをして遊ぶ、これをして遊ぶ以外のことは起きないとわかって安心できます。

しかし、遊びをする場所を固定するには、そもそも何をして遊ぶかがはっきりしていないといけません。

これから「遊び」を検討していくわけですが、その結果、子どもが楽しむことができる「遊び」がみつかれば、その「遊び」をする場所を固定することで子どもは「ここは楽しいこの遊びをする場所、ここでは他のことは起きない」とわかり、安心できます。

アオト君のような重度の知的障害がある場合「わかっているのか?わからないのか?が、わからない」と保育士から聞くことも多く、これからお話するような検討を通じて「遊び」をみつけることも容易ではありません。
 
しかし、「遊び」がみつかると、上記のようにそれが「安心」にもつながるのです。発達障害のある子にとって「安心」はとても大事なことです。

ですから、これからお伝えすることを参考に、どうか根気強く、子どもの「遊び」を見つけ出してほしいと思います。

③保育士との間に安心できる関係をつくる
保育士との間に「この人は安心できる」「この人のことを見ていると、おもしろいことがある」という関係があることも大切です。

先月のコラムでお話したように「子どもの今の状態に‟ガツッ”と踏み込まない」「関わりを強要しない」というようなことに気をつけながら、少しずつ子どもに安心してもらえる関係を目指したいです。
山の景色

集中できる環境を整える

発達障害のある子の場合、何かの刺激があるとそこに意識がむいてしまい、「遊び」に集中できないことがよくあります。

例えば、「チャイム」が聞こえると「チャイム」の音に意識が集中してしまい、それまでやっていたことが止まってしまう。

遊んでいるときに他のおもちゃが見えるとそれが気になってしまい、今している「遊び」から気持ちがそれてしまう、手に着いた汚れが気になって遊びをやめてしまうというようなことがおきます。

集中できる環境を整えたら、落ち着いて遊べるようになるという子どもはたくさんいます。

気になる周囲の子ども、気になる音、気になるおもちゃ、気になる振動、手に着いた気になる汚れなどの刺激をできるだけ取り除き、集中できる環境を整えることは、子どもの「遊び」を見つける上でとても大切な工夫です。
木でできた壁紙

「遊び」はどのように成立するか

前回、「遊び」とは①自分から②満足するところまで③楽しむことができるという3つの要素を満たすものである、という話をしました。

では、子どものそのような「遊び」はどのようなプロセスを経て成立するのでしょうか。

次の「春樹君」の例で考えてみましょう。
タンバリンを叩く子どもの手
春樹君は遊戯室で、タンバリンを見つけました。
春樹君はタンバリンを手に取って右手で叩いてみました。
春樹君は叩いた右手にタンバリンの革の感触を感じました。手で叩いたとたん「パン!」という音が聞こえます。「叩く」と「バン!」というんだなと思った春樹君は、今度は2回、タンバリンを叩きました。「パン、パン」と2回音が聞こえます。
春樹君はこの音が気に入って、色々なリズムでタンバリンを叩きました。
①「遊び」(おもちゃや活動)を認識する
=タンバリンを「見つける」

「遊び」が成立するにはまず子ども自身が「遊び」になりうるもの、刺激を認識できなければなりません。どれほど、たくさんの「遊び」になりうるもの(おもちゃや活動)や刺激が身の回りにあっても、「それがある」ことがわからなければ「遊び」になっていきません。

②子ども自身が働きかける
=タンバリンに手を伸ばして取って叩く

次に、子ども自らが能動的に働きかけることが必要です。タンバリンを「叩かせられる」のではなく、自分で手に取って叩くという能動性が「遊び」にはとても重要なのです。

③働きかけによって起こった変化を認識、理解し、自分の行動との因果関係を理解する
=タンバリンの革の感触を感じ、叩くと音が出るとわかる

次に、自分の行動によって起こった変化を、子ども自身が認識、理解すること、そして「その変化は自分自身が起こした」という因果関係を理解することが大事です。

春樹君は叩くことによって革の感触(触覚からの刺激入力)音(聴覚からの刺激入力)を感じています。また、春樹君は「叩く」→「革の感触を感じる」「音が出る」という因果関係も理解しました。

④その「遊び」を自分でコントロールできているという感覚 
=いろいろなリズムでタンバリンを叩く
春樹君は自分が叩こうと思って叩く、つまり、自発的・能動的な自分の行為によって、「音がでる」「手に触覚刺激が入る」と理解しました。その上でいろいろなリズムでタンバリンを叩いています。そこには自分が「音がでる」「手に触覚刺激が入る」という変化をコントロールできているという感覚が生まれています。

この、「今起きている変化を自分がコントロールできているという感覚」は、自分自身で楽しみを作り出すことができるという「自由さ」「楽しさ」「効能感」をもたらします。
それは「遊び」を楽しい、もっとやりたいと思う気持ちの源になります。

コントロール感を感じられるようになることで、「遊び」は完成するのです。

以上を整理すると、子どもの「遊び」が成立するには、この4つのポイントが必要だということがわかります。

①おもちゃや活動(刺激)を認識する
②子ども自身からそれに働きかける
③働きかけによって起こった変化を認識・理解し、自分の行動と変化との因果関係がわかる
④その「遊び」を自分でコントロールできているという感覚を持つ


子どもの「遊び」を支援するときには、子どもが①~④が得られるようにサポートすることを考えます。

この点を頭において、次回は、子どもが「遊び」を見つけられるようにする方法について具体的にみていきましょう。(次回は2021年9月下旬に公開予定です)
黄色い花


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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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