どうしたら好きな遊びを見つけられる?
前回に引き続き、園生活で好きな遊びをなかなか見つけられない「知的に重度で自閉症スペクトラム障害のアオト君の指導内容」について考えていきます。 子どもの「遊び」が成立するには、①おもちゃや活動(刺激)を認識する
②子ども自身からそれに働きかける
③働きかけによって起こった変化を認識、理解し、自分の行動と変化との因果関係がわかる
④その「遊び」を自分でコントロールできているという感覚を持つ
この4つのことが必要でした。
子どもの「遊び」を考えるときは、この4つのポイントそれぞれを支援することを考えていきます。
一つずつ見ていきましょう。
1、おもちゃ・活動(刺激)の認識
まずは、子どもが認識できる活動(刺激)を探します。アオト君のような、「重度の知的障害や自閉症スペクトラム障害のある子ども」にとって、認識しやすい刺激、好む刺激を認識しやすい順に並べてみると、このような感じになります。
- 揺れや傾きや回転などの揺れ/前庭刺激と、関節や筋肉への刺激/固有覚(例:ブランコやシーツブランコなど)
- 触れる、触るなどの皮膚を通しての刺激/触覚(例:スキンシップ、一本橋コチョコチョなどの手遊び、粘土や泥遊びなど)
- 聴覚、視覚(例:楽器遊び、絵本読み、ボールを入れたり、ボールが転がり落ちるおもちゃ、動くおもちゃなど
体の近くで感じる感覚→遠くで感じる感覚の順、と覚えます。
つまり、身体の内部で感じる感覚(揺れなど)→体の表面で感じる感覚(触覚)→感覚器官が外部からの刺激に反応して感じる感覚(視覚・聴覚)ということです。
はじめは、これなら認識できるだろうという「遊び」を先生がやって見せます。
そして、子どもがその「遊び」(活動やおもちゃ)に近づいたり、保育士がおもちゃなどを子どもに近づけると興味を示すなら、「この刺激が好き」と考えられるので、少しずつ活動へと誘います。

その際、不安そうな声を上げる、目を閉じる、背を向けるなどの嫌がる行動が見られたら止めるなどに配慮し、安心感を補償することには気をつけてください。
嫌いな刺激(感覚過敏)がある場合も多いです。いくら認識できても、嫌いな刺激は活動として選ぶことはやめましょう。
2、子ども自身からの働きかけ
次に、子ども自身が働きかけできるようになるように工夫をします。子ども自身がおもちゃで遊ぶ場合
活動がうまくいかず、自分の想像した結果と違う(失敗する)とわかると、子どもはその「遊び」は自分には「できない」と判断してしまい働きかけをやめてしまうことが多いです。ですから、やろうとした「遊び」を子どもが楽しめるようにサポートすることが大事です。その活動がうまく行くように、さりげなく手伝います。
例えば、室内遊具用の大きなブロックを積み上げてそれを倒す活動ならば、子どもが少しでもブロックを触ったら、本当はそれだけでは倒れないところを、さりげなくサポートして「ドーン」と倒れるようにする、という感じです。
また、活動が成功するポイントをわかりやすく指示することも大切なサポートです。穴にボールを入れる遊びなら、子どもが穴をジロッとみたら、「入れます」と言ってあげます。
見せる→活動に近づいてもらう→興味を示したらさりげなくサポートして成功するように導くことがコツです。
関わり手を必要とする遊びの場合
手遊びや「バスに乗って揺られている」や「ぞうきん体操」など、関わり手がいる「遊び」は、関わり手(保育士などの大人)が主導する形になりがちです。しかし、子どもの「遊び」が成立するには子どもの能動的な行動や働きかけが欠かせないことを考えると、なんとかして子どもに能動的に働きかけをしてほしい。
「子どもの合図があってから活動を始める」、「子どもの要求があったらもう一回やる」ようにして、子どもが能動的な働きかけをする場面を意識的に作るようにします。

3、働きかけと結果との因果関係を理解する
働きかけによる変化と「働きかけと結果との因果関係」を子どもが認識、理解できるような工夫をします。活動の全体に注意を払うことができない場合
「遊び」の因果関係を理解できない場合には、ことばがけと「ポイントに注意を向けさせる」ことで本人に自分の働きかけと結果の間の因果関係がわかるようにします。例えば上の穴からボールを入れると下から出てくるおもちゃであれば、「ここから入れたら下から出るよ。」とことばがけをし、入れるとき、出てくるときに、入れる場所、出てくる場所を指さすなどして注目させます。

活動そのものがうまくできない(ボールが入れられない)と因果関係も理解できないので、活動がうまくいくポイントをわかりやすく伝えて、活動がうまくいくように助けます。
目と手を協力させることが難しい場合
ボールを穴に入れるときは、①ボールを手に持って、②手に持ったボールと穴を見て③ボールを持っている手を穴に近づけてボールを離します。「ボールと穴を見る」という目の働きと「ボールを持ち、離す」という手の働きが協力して初めて「ボールを穴に入れる」ことができます。しかし、重度の知的障害の子どもや自閉症スペクトラム障害の子どもは、穴やボールや手を見ないことがあります。
見ないのでまず、ボールを穴に入れることが難しい。
そして、なんとかボールが穴に入ったとしても、見ているもの(「ボールを持っている自分の手」「入れる前のボール」「出てきたボール」)と「自分がボールを持っている感覚」「自分が手を離したという感覚」が結びつかないので、自分の行動とボールが下から出てくるという結果の関係を結びつけることができません。
ですから、行動によって起きた変化を認識・理解し、「行動と結果の因果関係」を理解するには、「目と手が協力する力」を育てることがとても大事になります。
手元が視界に入るようにおもちゃの位置を工夫したり、手元に注意が向くようにボールを握っている子どもの手を保育士が支えながら「ブルブルッ」と振動させるなどのサポートをします。
このようなことを続けることで少しずつ目と手を協力させて活動する基礎ができてきます。
目と手の協力ができるようになると、遊びの幅がぐんと広がりますし、「自分の行動」と結果が結びついていることを実感できるようになってきます。
4、「遊び」を自分でコントロールできているという感覚
最後に、「遊び」を自分でコントロールできているという感覚を得られるよう工夫します。自分が起こす行動で「遊び」が始まり、自分がそれを自由に終わりにできる、と感じることで子どもは「自分で「遊び」をコントロールできている」という感覚を持てます。
定型発達の子どもでも「やりたい!」と自分で言える子ばかりではありません。

「やりたい!」を表明できない子の場合、「その子の意志で遊びを始める」には、その子が自分の「やりたい」「やりたくない」という気持ちを周囲の人に表す機会を意識して作り、また、意志を表すのに必要な時間を十分にとることが大事です。

アオト君のケースは、どうする?
自閉症スペクトラム障害のアオト君のような場合、「やりたい」を周りの大人が知るのはさらに大変です。1、本人の行動を待つ方法
まず、「やりたい」という指向性を示す行動が現われるのを待ちます。例えば、おもちゃに自分から近づいたり、視線を向けたりする行動です。そのような行動が見られたら、「近づいたね」「見たね」と子どもの行動をことばにします。そしてさらに「やりたいんだね」と声をかけます。
「近づいたり見たりしたこと」であなたの「やりたい」気持ちがわかった、と伝えるのです。例えば、「ブロックを見たね」「わかった。やりたいんだね」のような感じです。
2、少しだけヒントを出す方法
大人がやっている活動を見せながら「やりたい?」と聞く方法もあります。興味がありそうなおもちゃを2つ、子どもの目の前に出して、選んでもらうのもひとつの手です。
2つのうち、手を伸ばしたり、見たりする方がやりたいものであることが多いです。
どちらかを選んだと思ったら「こっちが好きなんだね」と声をかけます。「選んだ」ことで「こっちがいい、こっちをやりたい」という意志が伝わったことを子どもに伝えます。
ただ、2つのおもちゃを出すと、両方のおもちゃに手を出してしまう子どもがいます。迷うのかもしれませんし、両方ほしいのかもしれません。
そのような場合は、まずは選ばせる2つを「興味がありそうなおもちゃ」と「本人にとって絶対に興味がないもの」にします。これだと選べます。
このような工夫をすることで子どもは「選ぶ」ことができるようになり、さらに「選んだものに手を伸ばす」ことで自分の意志を示すことができます。
そして、自分の選んだものを手に入れられることをだんだんと学んでいきます。
①~④の支援によって子どもが何かの「遊び」ができるようになったら、「楽しいね」「うれしいね」と子どもと一緒に喜んであげてください。
それによって子どもの「遊び」の楽しさは大きくふくらみ、子どもは意欲的に「遊び」を広げていけるようになります。
次回は、①~④の支援の方法を使って、「アオト君」の「遊び」を一緒に見つけていきましょう。

▼ほかおすすめの記事はこちら