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<前編>5歳の自閉スペクトラム症の子の「こだわり」への対処法【加配保育士さんからの相談】

自閉スペクトラム症の子の「こだわり」への対処法ー前編ー
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラムです。加配保育士さんへのアンケートで挙がった「気になる子」への関わり方について解説します。>>連載の記事一覧はこちら

今回の加配保育士さんからの相談 

保育士に抱っこされる赤ちゃんの画像
 今回は、加配保育士さんへのアンケートで相談のあった「“赤ちゃん”にこだわりがある5歳の自閉スペクトラム症の潤太郎くん」について考えていきます。 

まず「こだわり」の種類を考えてみる

「こだわり」には、変えなくてもいいこだわり変える必要があるこだわりがあります。 

子どもには、大人の目から見ると「なぜ?」と思うような「こだわり」があることはよくあります。 
 
そして、発達障害のある子の場合、その「こだわり」が特に強いことがあります。その種類には、次のようなものがあります。 

 「こだわり」の種類一覧  

常同行動 手指を奇妙に動かしたり、くるくる回るなどの全身運動を繰り返す 
自傷行為 自分を傷つける 
強迫行動・儀式的行動  特別に決められたやり方や順序でものごとをしないと気がすまない 
同一性保持  日課やスケジュールの変更を嫌がる 
持ち物の位置や家の様子、人の髪形など環境の細かい部分が変わることに抵抗を示す 
興味の限局  奇妙なものに興味を示す、 
ものに対して異常に強い興味や愛着を持つ 

具体的な行動を種類分けすると?

上の表を参考に、よく見られる行動を種類分けしてみましょう。 

【行動とこだわりの種類分けの例】 
  • 手をひらひらさせる行動を繰り返す→常同行動 
  • 怒った時、拳で鼻を強く叩く→自傷行為 
  • ミニカーが大きい順に並んでいないと怒る→同一性保持 
  • 特定のキャラクターのスプーンでないと食事を食べない→強迫行動・儀式的行動 
  • くるくる回るミニカーのタイヤに固執する→興味の限局 
車を並べている子どもの画像

複数種類の「こだわり」の組み合わせも

なかには、複数の種類のものが組み合わさっている「こだわり」の行動もあります。 
 【行動とこだわりの組み合わせの例】 
  • 夜中に長時間のドライブをしたがる→強迫行動・儀式的行動+同一性保持 
  • 特定の子どもと遊びたがり、相手が嫌がって泣いても、その子の手を引っ張って遊ぼうとする→強迫行動・儀式的行動+同一性の保持+興味の限局 
  • 保育園のドアの開閉ばかりを気にして、室内にいることができない→強迫行動・儀式的行動+同一性保持+興味の限局 
扉が開いているイラストの画像

発達障害の子にとっての「こだわり」を知る

タオルを抱きしめる男の子の画像
「こだわり」が通らないと泣いたり頑として動かなかったりするので、保護者や先生が困っている…という話はよく耳にします。 
 
確かにいずれも大人にとってはなぜこだわるのかわからないし、それで泣いたり動かなかったりされるのは困るわけです。 
 
しかし、これらのこだわりは全部やめさせる必要があるのか、というとそうではないのです。  

発達障害の子の目線で考える 

こだわり行動は、特に発達障害のある子にとっては「いつもと同じ状態」「わかっている状態」が安心につながるという側面がありますし、その状態がその子にとって心地いいということもあります。 
 
さらに、「こだわり」から出発して本人の興味が深まり、ひとつのことを追求する中で、その「こだわり」が本人の「強み」になったり、趣味の世界で他の人とつながれたりする可能性もあります。 

「こだわり」が大人になって発展する例

例えば、空を飛ぶものや機械への「こだわり」が高じて、ドローン操縦の名手になり、それを仕事にするようになることもあります。 
 
列車が好きでたまらない子どもが成長して鉄道好きの人たちのコミュニティに参加するようになることもあるのです。 
 
ですから、こだわり行動は基本的にやめさせなくてもいいものと私は考えています。

発達障害の子にやめさせるべき「こだわり」とは?

バツマークを持つ女の子の画像
ただ、中には、どうしてもこれは止めさせないといけない、というこだわりもあります。 
 
それは、 
  1. お金や時間があまりにもかかるもの
  2. 他の健康や安全を脅かすもの 
  3. それをやってしまうと様々なことを学べない・参加ができないもの
こういったものです。(参照:『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』2018年/原哲也)これらはいずれも子どもの心身の成長を妨げます。 
学校の廊下の写真

判断基準の具体例 

例えば最初に挙げた例を1~3の基準に当てはめてみると、 
■決まったコンビニの唐揚げしか食べない
→(1.お金や時間があまりにもかかるもの)お金もかかりますし、栄養的にも問題があります。 
■夜中に長時間のドライブをしたがる 
→(2.自他の健康や安全を脅かすもの)睡眠時間が少なくなり、健康を害す可能性がある。 
■保育園のドアの開閉ばかりを気にして、室内にいることができない 
→(3.それをやってしまうと様々なことを学べない・参加ができない) 園の活動に参加できない。 
 
このようなこだわり行動は、子どもの心身の成長を妨げるので、その行動を止めさせるか、違う行動に置き換えるようにしなくてはなりません。 

今回のケース「赤ちゃんへのこだわり」を考える 

赤ちゃんを見つめる幼児の写真
では、自閉スペクトラム症の潤太郎くんの場合はどうでしょうか。 
 
この子を担当する加配保育士さんからの相談で挙がった話では、 

「赤ちゃんの頬を触りたがり、頭を叩くこともある」 
これは(2.自他の健康や安全を脅かすもの)となり、赤ちゃんにとって危険です。 
 
従って、この行動は、止めさせる・違う行動に変えていく必要がある「こだわり」です。

やめさせるべき行動の判断ができたら? 

【ステップ1】いつから?を見極める 
その行動は、いつ頃から見られるようになったでしょうか? もし最近始まったばかりであれば、このような行動を繰り返させないようにして、赤ちゃんを見ると叩くという行動が「こだわり」として定着しないように予防することがとても大切です。 
 
【ステップ2】行動の理由を分析する 
子どもは自分なりの理由があってその行動をしているので、行動を変えさせるには、「なぜこのような行動が起きるのか?」を分析する必要があります。 
 
この連載では、これまでに、子どもの行動の理由を考えるための方法を紹介してきました。 

「だから、だってフォーム」で仮説を立てる

まず、“叩く”など困った行動が起きたときにその理由を考える手法、名付けて『だから、だってフォーム』を実践してみましょう。 
ケンカしている女の子と男の子イラスト
1、フォーマットで考える 
「僕、〇〇だから(困った行動)しちゃうんだ。だって(困った行動)すると●●だからね」 
 
これをフォーマットにします。 
  • 〇〇に困った行動をする理由を入れます。 
  • ●●には困った行動によって子どもが得られるものを入れます。 
 これによって、子どもの行動の理由を考えていく手法になります。 
 
2、〇〇と●●に入るものを考えるコツ 
①静かに ②その行動だけでなく普段の様子を観察する ③対象となる子どもの気持ちを想像しながら理由を考える、この3段階です。 
 
3、子どもの気持ちを考えるコツ 
助けになるのが、「子どもの困った行動を成立させている4つの要素から検討する」方法です。 
 4つの要素とは、こちらです。 
  1. それまでの経緯
  2. きっかけ
  3. 行動の理由
  4. 得られるもの
この4つの要素によって、人の行動は成立します。 

行動と子どもの気持ちを考える練習 

それでは、ここまでの話を踏まえて以前挙げた事例で練習をしてみましょう! 
「蛇口を見ると…どんなときでもお構いなく手を洗って、先生に注意されてしまう正太郎君」
正太郎君は4歳6か月になる自閉症スペクトラムの男の子です。衝動性と多動性の高いADHDの傾向もあります。正太郎君は蛇口の水でを洗うのが大好きで、蛇口を見かけるとどんなときでも手を洗おうとします。何度注意しても、やめることができません。
この例で、子ども=正太郎君の気持ちを考えてみましょう。①それまでの経験/②きっかけ/③行動の理由/④得られるものを分析していきます。 
水道の蛇口の写真

1、それまでの経験 
例:「蛇口を見たときに、手を洗うと安心する」という経験をたくさんしていて、 
(その子は、さまざまな経験を経て、今、ここにいて) 
2、きっかけ 
例:蛇口を見た(その行動が起こるきっかけがあり) 
3、行動の理由   
例:手を洗うと安心する/感覚刺激(その行動の理由やその行動によって得ようとするものがあり) 
4、得られるもの 
例:水を触ることでよく知っている安心できる感覚を感じられる(行動の結果、得られる具体的な結果があり) 

1~4の結果、正太郎君は「(蛇口を見ると)手を洗う」行動をする、と考えるのです。 
補足:行動の理由・得られるもの
「1、行動の理由」には、要求/注目/拒否・回避/感覚刺激、この4種類があります。
「4、得られるもの」とは、「ない」状態にあるものが、その行動をすることで「あり」に転じる(獲得できる)からその行動をするものです。

対応方法・解決策は?

洗い出した①~④の要素のうち、変えられることにアプローチすることで、子どもの困った行動に対応できる、ということになります。 
 
今回の正太郎君の例で対応方法を導いてみると、 
  1. きっかけへのアプローチ→蛇口を見せない 
  2. 行動の理由へのアプローチ→安心でない=不安だから安心したくて手を洗うので、原因である不安が軽減するよう、これから起きることをわかるように伝える。 
  3. 得られるものへのアプローチ→手を洗う以外の方法で、安心感なし→安心感ありの状態になるようにする。        
こういったことが考えられます。 

それでは次回は、この練習をもとに「赤ちゃんにこだわりをもつ」自閉スペクトラム症の潤太郎君のケースを考えていきましょう。 

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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