「敏感期」をさらに深掘り
前回は、子どもの不思議な行動の謎を解くカギ“敏感期”についてお話させていただきましたが、いかがだったでしょうか。みなさんの園の子どもたちの行動の謎は解けましたか? 私が0・1歳児クラスを担当していた時、絵合わせカードやパズルなどが紛失する事件が多発していました。掃除してたら見つかることが多いのですが、ある日クラスの先生方と雑談していて、ある傾向に気が付いたのです。それは、棚の隙間にカードが入れられているということ。「これはまさに運動の敏感期の姿だね!」と気付いて、私たちもスッキリしました。この事件は、「薄いものを差し込む」「狭いところに落とす」ことをしたい子どもたちが犯人でした(笑)。
こんな風に、園で起きる不思議な事件の謎も解いてくれる敏感期。今回は、その中から、乳幼児期に現れる敏感期の一つ、「運動の敏感期」について深堀りしていこうと思います。保育室の環境設定や、おもちゃ選びにも役立つ内容になっていますので、チェックしてみてください。
運動の敏感期(運動発達)とは
最初に、“運動”とは、跳び箱や鉄棒などの体育的なことではなく、「握る」「つまむ」「座る」「歩く」など、動きそのもののことを言います。そして「運動の敏感期」とは、一つひとつの動きを獲得し、自分の意志通りに体を動かせるようになることに強い興味を持つ時期のことを言います。
誕生したばかりの赤ちゃんは、自分が意図した方向に首を向けることすらできません。それが、1歳を迎える頃には自分の行きたい場所に自分で移動することができるようになるのですから、ものすごいエネルギーが働いていることが分かりますよね。そうやって、一つひとつの動きを獲得していくと、できることが増えて自立に繋がっていきます。
運動の種類とメカニズム
運動は、まず随意運動と不随意運動に分類されます。不随意運動は、心臓など意志と関係なく行われている運動、随意運動は手足など意志によって行う運動です。この随意運動には2種類あって、大きな体の動きを粗大運動(そだいうんどう)、手指を使う細かな動きを微細運動(びさいうんどう)と言います。ところで皆さんは、一つの動きができるようになるまで、どんな過程を経ていると思いますか?
簡単に言うと、まずは感覚器官(目など)が情報をキャッチして、それが脳に行き、脳からの指令が運動器官(腕など)に流れます。これを運動のメカニズムと言うのですが、この信号の流れをスムーズにするために、子どもたちは何度も何度も同じ動きをくり返すのです。
それを保育者が知らないと、「同じことばっかりやって」となって止めちゃったりするんですよね。ぜひ、子どもが動きを獲得している時期には、思う存分くり返すことができるようにしてあげて欲しいなと思います。
運動の敏感期(運動発達)に合わせた保育室の環境設定
運動の基本的なメカニズムが分かったところで、具体的に保育の環境設定でどう活かせば良いのか見ていきましょう。今回は、主に0・1歳児クラスの子どもたちが過ごす環境について、粗大運動の発達順にポイントを紹介していきます。ごろごろ・寝返りの頃
安心してごろごろできる場所を確保しましょう。この時期は、視覚の発達も重要な課題であり、「見る」ことも立派な運動の一つです。低い位置に鏡を置くことで、そこに写る人の動きを見たり、弱い視力に合わせて低い位置にモビールを吊るすことで興味を持って見たりするので、視覚の発達を促すことができます。
また、手のひらで「握る」ことも少しずつできるようになるので、持ち手の細いものや指が引っかかりやすいものなどを用意しておきます。寝返り練習中の頃には、寝返りする方向で音を鳴らしたり、玩具を見せたりすることで動きを促してあげましょう。
おすわり・ずりばい・はいはいの頃
ずりばい全盛期には、肘や膝を使って動きます。そんな時期には、フローリングのような床で肘膝が出る衣服がおすすめ。衣服も環境の一部ですから、発達に合わせて動きやすいものを選んであげたいですね。さまざまな種類のボールや転がるものがあると、それに触ろうとして手を伸ばすことで動きのきっかけを作ることができます。また、おすわりが安定してくると、両手を使えるようになるので、ボールを口の広いものに入れるような活動もできるようになってきます。
つかまり立ち・つたい歩きの頃
つかまり立ちが始まると、どんな場所にもつかまろうとするので、危ないと感じることも増えますよね。そんな時には、子どもたちに人気のつかまり立ちスポットを作っておくと、少しだけ安心して保育できますよ。背の低い棚(床から30cmくらい)やクッション性のあるスツールなどを設置して、その上から引っ張れるものを吊るしたり、立ったら触れる場所に立ちたくなる仕掛けを作ったりします。 棚の上には手を使う玩具を置いたり、鏡や身近なものの写真、音の鳴るものを壁に貼ったりする。そうすると、あちこちでつかまり立ちをされるよりは安全です。
伝い歩きをしたい時期の子には、押して歩ける段ボールがおすすめです。手を動かすことにも興味を持つので、ピンポンサイズのボール落としから、図形の型はめパズルなどもあると良いですね。
歩行が完了した頃
子どもたちが歩けるようになったら、お部屋の中に粗大運動の環境を特別に設置する必要はなくなりますが、お散歩に行った時には階段や坂道、でこぼこ道なども歩かせてあげてくださいね。また、できれば遊びの時間でも机と椅子、そして子どもの背丈にあったオープン棚を設置してほしいです。物を持って運ぶことも、椅子に自分で座ることも、簡単な動きではありますが、子どもにとっては十分な運動です。くり返し経験することで、粗大運動の洗練を助けることもできます。
さぁ、歩けるようになったら、いよいよ微細運動が楽しい時期です。棚の中には、子どもの手の発達に合わせて、さまざまな動きを経験できるような玩具や、手作りのおもちゃ(おしごと)を作って置いてもらえたら嬉しいです。
そうすると、自分で遊びを選ぶことも経験できるので、大人が付きっきりで相手をしなくても満足に活動できるようになります。
保育室の環境を見直してみよう
さてさて、主に0・1歳児クラスの保育環境についてお伝えしてきましたが、皆さんの園の保育室はいかがでしょうか? 以下の順で、ぜひチェックしてみてください。- 【前提】そのお部屋で過ごす子どもたちの月齢と運動発達はどのステップですか?
- 【状況の確認】そのお部屋でよく起きる問題はありますか?
- 【粗大運動】運動発達に合った、やりたい動きができるような環境になっていますか?
- 【微細運動】子どもの手の発達に合ったおもちゃが用意されていますか?子どもが自分で手に取れる場所に、おもちゃがありますか?
その時、そのお部屋で過ごす子どもたちに合った環境を
チェックしてみて、「今の子どもたちに合っていないな~」と感じたら、ぜひポイントを参考に環境を変更してみてください。1年間、同じお部屋で同じ子どもたちが過ごすのならば、3カ月に1回くらいは環境を見直す必要があると思います。その時、そのお部屋で過ごす子どもの発達に合った環境、興味のあることが満足にできる環境にするだけで、過ごしやすい(保育しやすい)保育室になりますよ。個人的には「移行」というシステムの導入もおすすめです。年度を待たずにその子の発達に合わせて上のクラスに進級していく仕組みなのですが、保育室の環境はある程度一定のまま、子どもたちが移動してくことで、発達に合った環境を提供することができます。移行を導入することのメリットはたくさんありますよ。
モンテッソーリ教育の園で働くまで、「1年の間に保育室の環境を変える」という思考がなかった私ですが、その重要性を知ってからは環境の変更も楽しめるようになりました。ちょっと労力はかかりますが、みなさんもぜひチャレンジしてみてください。
保育室の環境設定や「移行」については、私の「モンテッソーリほいくのたね」のWebサイトやInstagramの投稿も見てみてくださいね。より詳しく知りたいという方はお問い合わせください。
『モンテッソーリほいくのたね』 https://montessori-hoikunotane.com/ <Instagram> https://www.instagram.com/montessori_hoikunotane/ |