今回のお悩み:お友だちを叩く、押すが見られる1歳児への対応
りくりんさん(クラス担任(リーダー) /18年目)さんからの質問
私が担当している一歳児のクラスに気になる行動をする児が在園しています。その子は性別は男児です。こちらでは、Tくんと提示して相談内容を記入させて頂きます。
Tくんは、日常的に衝動的に近くにいる友だちを叩いたり、押したりすることがあります。時には、持っている玩具で叩いたり、投げたりと突発的にすることもあるため防げない事もあります。危ないことをした時は、その都度話をしているのですが、周りをキョロキョロしたりフラフラしながら、ほとんど話を聞こうとしません。
時には、注意されて泣き出す事もありますが、泣き続けて、保育者が諦めるのを待っている事もあります。謝る事も直ぐには実施せずに知らないふりをする事もあるため、私たち保育者も、注意する事が精神的に疲れてしまう事もあり、どのように対処するべきか、日々の保育の中で考え毎日を送っています。
Tくんは、人数が多くなると落ち着かないようで少人数体制だと落ち着く事もあるため、人数が少ない保育の日は、友だちとのトラブルもあまり見られません。なので、行動に注意が必要な時は、一対一で関わる事もありますが、いつも対応出来るわけではないので、どのように対応していくべきか是非相談に乗っていただけると、とても助かります。
どうか、Tくんにとっても、私たち保育者にとっても良きアドバイスを頂けると嬉しいです。宜しくお願い致します。
専門家からりくりんさんへの回答
日々の保育の中でどのように対応すればよいのか? 保育者の関わり方に疑問を持つことはとても大切な視点です。先生方から見て困る行動に対して、現在の関わり方で対応していても、その困る行動に変化が見られない場合は、先生方の関わり方がお子さん本人に合っていないからだと考えられます。行動の理由を考えてみよう
Tくんが日常的に突発的、衝動的に叩く、投げる、という行動について、まず行動の理由から考えてみましょう。ご質問いただいた先生の情報から、
- 突発的であり前後関係の繋がりはなさそうであるということ
- 少人数の環境であれば、トラブルはあまり見られないということ
Tくんの、感覚面の発達は他のお子さんよりも少し未熟で「感覚統合」がうまくいっていないことが考えられます。
私たちは視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚といわれる皆さんが一般的によく知っている五感プラス前庭感覚、固有受容覚という感覚を無意識に働かせながら生活しています。
Tくんはまだ1歳児ですので、この感覚の発達段階は発達の途中だとは思いますが、その中でも触覚の感覚において、原始系から識別系への発達状態の未熟さが大きいことが考えられます。
原始系、識別系とは?
原始系というのは、感覚に対して本能的に反応していることです。例えば、私たち大人でも真っ暗なお化け屋敷の中で身体に何か触れたとき、それが何の物体か分からないと瞬時に払いのける、走って逃げ出す、大きな声を出すなど反射的に防衛または攻撃するような行動が見られます。これが原始系の働いている行動です。
しかし、同じ状況で「これから、スライムを腕につけるよ」と言われて触れられるとしたら、きっと防衛や攻撃的な行動は出ないのではないでしょうか? これが識別系の働いている行動です。
1、2,3歳児くらいのお子さんは、お散歩中によく塀を触りながら歩いたり、先生の顔に触れたり、何でも触れてみるという行動が見られます。このように目で見たものを触れてみることで、触覚と視覚のネットワークを繋げながら識別系を育てていると言われています。そして、この識別系が優位になっていくことで原始系が目立たなくなっていくと言われています。
Tくんの場合、この感覚的な発達の未熟さから識別系が育ちにくいことで、原始系がなかなか抑えられずに、周囲から身を守るための防衛や攻撃が行動として表出されていると考えられます。
以前のコラムでも取り上げましたが感覚は生理的欲求と同レベルであることから、それを我慢させることは出来ません。人が多い集団は、私たちがお化け屋敷でいつどこから何が自分のもとにふりかかってくるか分からない状況と同じです。Tくんにとっては不安で仕方がないでしょう。ではどうすれば良いのでしょうか?
集団の中にいながらも安心できる環境づくり
少人数であればトラブルは少ないということですので、出来るだけ少人数の環境が整えられればベストだと思いますが、園生活でそれを毎日整えることは現実的ではありません。それなら、今までと同じお部屋でも、大部屋の中に個室をつくるイメージでパーソナルスペース、パーソナルルームを設定すると良いでしょう。
パーソナルスペースは、そのお子さんが一人で遊べる広さと周囲の大人が外からでも見守れる状況を設定することが大切です。私がさまざまな園を訪問していてよく見られるのは牛乳パックを使ったパーテーションやカーテン式のタイプなどさまざまなものがあります。
また、お子さんの状態によってはパーテーションを使用しなくても、床に貼られたテープやジョイントマットだけで自分の空間が分かり安心できるお子さんもいます。Tくんに合わせて設定してみると良いでしょう。他のお子さんと空間を共有しないことで、安心でき遊びに集中し安定した情動も育まれるでしょう。
井上さんよりアドバイス
感覚面での困りごとは、本人が自分の力でコントロールすることは難しいです。そのため、先生方がその行動を注意し、謝ることを求めることは、私たちにお化け屋敷で得体の知れない何かが身体に触れた際に、払いのけたら怒られ払いのけたことを謝りなさいと言われていることと同じです。しかし、園生活の場合はその行動に相手がいる場合、押されてしまった、叩かれてしまった側の傷ついた、驚いた気持ちがあります。これに対しては、先生が相手のお子さんの気持ちを代弁し、Tくんの代わりに謝ってあげると良いでしょう。
Tくんには感覚の発達が原始系から識別系が優位になるよう、安心出来る環境の中でさまざまな感触あそびやふれあい遊びなどの経験を積み重ねていくと良いでしょう。Tくんは、まだ1歳児で生まれてこの短い期間を不安な日々を過ごしていたことに想いを寄せて、相手視点に寄り添った保育をしていただければと思います。
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