MENU

お遊戯会の在り方について考える【主任コラム】

1
お遊戯会の在り方について考える【主任コラム】
認定こども園で全体主任を担当されていた筆者による、主任だからわかる、主任にしかわからない視点からのエピソード満載のコラムです。今回はコロナ禍を経て変わったお遊戯会の在り方、その判断に至った経緯や保育者の葛藤についてに主任という立場から振り返っていただきました。

お遊戯会の在り方について考える

2月になると卒園が近づいて、この時期は、各園でも1年の集大成に位置付けられている行事がある園も多いのではないでしょうか。また、1年間の振り返りに入る時期でもありますね。

私が働いていた園ではコロナ禍をきっかけに年長児の「お遊戯会」をなくし「チャレンジ活動」というものになりました。今回は、年長児の今までの「お遊戯会」の在り方と行事が変化した経緯、それに伴う保育者の葛藤などをお伝えしていきます。

① 1年間の集大成「お遊戯会」

かつてのお遊戯会

かつてのお遊戯会の具体的な方法

私が働いていた園では2月にお遊戯会という行事がありました。 

年少児は、『ブレーメン』や『三びきのやぎのがらがらどん』などのオペレッタで、役になりきって歌ったり踊ったりセリフを言ったりするものでした。 

年中児は子どもたちに親しみのある絵本を題材として、担任のナレーターと子どもたちの短いセリフでやりとりをしながら劇が進んでいくものでした。 

年長児はというと、年中児同様、子どもたちが親しみのある絵本を題材にし、子どもたちのセリフのみで劇を進めていくというものでした。 

クラス数の多い園だったので「年少・年中・年長」でひとブロックに分けて2日間に分けて開催していました。保護者は各ブロックの3学年の演劇を観るため、学年による完成度の違いや子どもたちの姿に涙を流して感動していたものでした。 

保育者の負担も多い

私自身も全学年のお遊戯会を経験してきましたが、特に年長児は子どもたちと話し合いをしながらセリフや動きを考えます。それを担任が台本に起こし、子どもたち自身がカラービニールを使用した衣装を作ります。 

年長以外は保育者が衣装を作るためこの時期は特に持ち帰りの仕事も多く精神的にも肉体的にもとても負担が大きかったです。 

しかし、子どもたちも自分のセリフと動きを覚えるために毎日練習をします。本番では途中でセリフや動きを忘れそうになっても、仲間が助けてくれたり一生懸命取り組む姿に、感動はもちろん、保育者としての達成感や感動はひとしおでした。 

子どもの声を拾い、お遊戯会の練習期間中も自由遊びの時間をたっぷり保証し、子どもたちが主体的に取り組めるように工夫していました。その反面、クラス数も多いことから他クラスと比べられてしまうのではないかというプレッシャーがあり、保育者側からの一方的な指導になっていないか悩むこともありました。 

 しかし、「私の園のお遊戯会とはこういうものだ」と受け継いできた行事を私自身も一生懸命取り組んできました。 
パーソナライズ_9万件訴求

② 行事の改革期 

「お遊戯会」から「劇遊び会」、「劇遊び会」から「チャレンジ活動」へ 

各学年のお遊戯会の内容は上記で記載した通りですがその他にも、どの学年の劇でも全職員で協力をして「裏方」の役割をするのです。 

裏方は担任が作成した台本に基づいて大道具を動かしたり、子どもたちに小道具を持たせたりするのですが、自分のクラスの劇に加え裏方として他のクラスの動きを把握して動くことはとても負担がありました。 

そこで、いろいろな園への勤務歴があり当時は担任の現副園長が、劇のシンプル化を提案しました。 

具体的には、今までは大道具で表現していた部分を、実際に子どもたちが動くことで表現できるのではないかということです。 

例えば、舞台の上で本当に子どもたちがボールを投げたり、縄跳びを飛んだり、実際に体を動かし楽しみながら表現を引き出していくというものでした。

これは現場にいる先生は想像がつくと思いますが、年中児でこれをやると、永遠にボールを投げたりわざと友だちに当てたり縄跳びを跳び続けたり...と、担任の悩みが生じてくるのも現実でした。 

しかし、保育者の大道具ありきで話が進んでいくお遊戯会ではなく、子どもたちの普段の姿や遊びを取り入れて楽しんでいる様子を保護者にも見てもらう劇遊び会へと変化していったのです。 

「お遊戯会」から「劇遊び会」と文字での変化はあまりないかもしれませんが、保育者の心持ちが変わった出来事でした。 

日々の遊びにも変化が 

立派な大道具を制作し、物語がスムーズに進むことに意識を向けた劇の練習という感覚ではなく、「遊びや生活の延長に劇としての表現がある」という意識を持ち取り組んでいくと、日々の生活の遊びの展開の仕方も変わってきたことも大きな変化でした。 

例えば、乙姫役の女の子たちはオシャレが大好き! そこで、「オシャレ」に着目して、衣装や小道具を作る際に針と糸を使って作ってみる。 

絵本「ぶたのたね」に出てくるオオカミ博士役の子どもたちとは、実際に遊びの中で様々な実験(スライム作りや色水実験など)を楽しんできました。 

 そうした日々の生活や遊びを劇に繋げていくことで、「セリフを間違わないように」「失敗しないように」という気持ちが子どもたちからも保育者からもなくなっていきました。 

この年は、他園で「お遊戯会の進め方」に悩んでいる先生方から自園での実践をお伝えすることも多く、どの園も悩みながら工夫して取り組んでいることを知りました。 

コロナ禍を経験して生まれた変化 

そんな中、コロナ禍をきっかけに大人数が一度に室内に集結する劇遊び会の開催が難しくなりました。コロナ禍がきっかけではありましたが、劇遊び会での保育者の仕事の負担感や子どもの主体性、さまざまな見直しがありました。 

活動内容が大きく変化したのが年長児でした。

「劇」という形をなくして「チャレンジ活動」というものにするというのです。チャレンジ活動とは何をするかというと、3年間の園生活で子ども自身が得意なこと、好きなことを深め挑戦する時間を設け発表する機会を設けるというものです。 

 具体的には、こま回しが得意な子は今までできなかった技や新しい技に挑戦したり、歌を歌うことや踊りを踊ることが好きな子はグループを結成して自分達で振り付けを考えてコンサート開催したり。

また、新たな挑戦としてノコギリやトンカチを使って木工作品を作ったりと「チャレンジ活動」は、今までの「お遊戯会」「劇遊び会」とは全く違う活動になりました。 

③常に変化が求められる現場

今までの「劇」を辞めることへの葛藤 

「チャレンジ活動」の案が副園長から提案された際、長く勤務していた私は意見を求められました。

実際、劇遊び会での仕事の負担量は大きくそのことが新人保育者の負担になっていることもありましたし、病欠で担任が休んだり学級閉鎖になると長期間練習が進まなくなったりとコロナ禍で今までのようなやり方は現実的に難しいということ受け止めなくてはいけませんでした。 

お遊戯会でしか味わえない達成感、充実感や保護者と涙ながらに感動を分かち合うことがなくなるのだろうと考えるととても複雑な気持ちでした。 

絵本に親しみを持つことやストーリーの世界に浸ること、友だちと一緒に何かになりきったり、声を合わせてセリフを言うことを楽しんだりすること、当日たくさんのお客さん(保護者)の前で味わう緊張感、終わった後の達成感、これは劇遊び会だからこそ経験できるのも事実です。

また、保護者からも「年長の劇遊び会を楽しみにしていた」「劇という形が全くなくなることは寂しい」といった声も多数挙がりました。 

「劇」を辞めたから見えてきたもの 

何より子どもにとってどちらがワクワクするか考えた時に自分が好きなこと、得意なことをもっと追求できるのは楽しいだろうと考えました。 

実際、最初の一年は本当に手探りで、職員間で何度も話し合いを重ねていきました。年長児のチャレンジ活動の具体的な内容や方法はまた別の機会にお伝えしたいと思いますが、このチャレンジ活動に変化したことで、今まで以上に子どもひとりひとりの取り組み方や成長に目を向ける視点が保育者に培ったことが大きな変化でした。 

今まではどうしても劇の完成度や他クラスの進行具合などに少なからず意識が向きがちでしたが、こま回しのチャレンジでは、自分のことだけでなくうまく回せない友だちにやり方を教えてあげたり、少しでも時間があると新しい技の練習に励んだり、家でも練習する姿が見られたり。

そして、その様子を保護者と共有することで、保護者も「結果」よりも「過程」に目を向け子どもの成長を喜んでいる姿が増えていったのです。 

私が印象的だったのは、普段自分の気持ちを表出することが苦手で、年少、年中児の劇遊び会では恥ずかしさから舞台上で泣いていたA君。チャレンジ活動ではこま回しを選びいろいろな技ができるようになりたいと練習に取り組んでいました。

みるみるうちに上達していくA君はついにはこまの手のせ技にも成功! 他の子からも一目置かれる存在になり、自信をつけていくA君の姿に保護者も驚いていました。 

子どもたちのために前向きな変化は必要 

チャレンジ活動は毎年振り返りと見直しをし、年々より良いものになっていっていますが、上記でも記載したように、劇を通して子どもたちに得てほしいこと、経験してほしいことはできる範囲で積極的に日常に取り入れました。

年長児の劇遊び会という行事はなくしましたが、大切なのはその行事で子どもたちはどんな経験ができて、どんな力がついたのか、どのような学びが必要なのかということ。

「良い」「悪い」で判断するのではく、時代に流れや園の環境と共に変えていくこと、変えない方がいいことを職員間でたくさんコミュニケーションをとり、そのことを前向きに捉えていく視点が私たちにとって必要なことだとこの経験から学びました。 


▼一緒に読みたい!おすすめ記事はこちら

ほいくis会員登録はこちらから

article_15
鈴木 友佳

この記事を書いた人

鈴木 友佳

短期大学卒業後、幼保連携型認定こども園に入職し、現在14年目になります。
6年目からは担任を持ちながら学年主任を経験し、現在は全体主任として乳児、幼児クラスのフォローや、会議や園内研修でファシリテーターの役割もしています。

主任視点から見た保育関連記事
ほいくisメンバーに登録(無料)