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過去の災害から学ぶ保育者の準備と心構え【保育防災コラム】

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東日本大震災の慰霊記念碑
『保育防災』をテーマにお届けしている、「保育の寺子屋」提供の連載企画。今回のテーマは、過去の災害から学ぶ、保育者としての心構えについて。東日本大震災や能登半島地震など、過去の災害の事例と、そこから得られた教訓について解説します。

過去の災害事例から学ぶ

「防災対策」と書かれた積み木
子どもたちを災害から守るためには、保育者としての災害時の対応力を養うことが重要です。では、そのためにどのような取り組みが必要となってくるでしょうか?

例えば、日本は地震や津波、台風など、多くの自然災害が発生する地域であり、過去の災害からも多くの教訓を得ることができます。

特に大きな被害をもたらした災害の事例を振り返ることで、どのような対策が効果的か、またどのような準備が不足していたのかを学ぶことができます。

今回は、このような振り返りをしてみたいと思います。また同時に、保育者としてどのような心構えが必要かをお伝えします。

地震と複合災害の事例

最初に、過去に発生した地震と複合災害の事例と、そこから得られた教訓について見てみましょう。

1.東日本大震災(2011年3月)

東日本大震災から3か月後の被災地・大船渡の様子
2011年(平成23年)3月11日午後14時46分。ほとんどの保育園が保育中の時間帯でした。

東日本大震災は、東北地方だけでなく、関東地方など広範囲にさまざまな影響を及ぼしました。そして今までこれほど大きな地震が保育中に起こった例はなく、保育現場における防災対策の必要性を強く認識させられた出来事でした。

東北地方では多くの保育施設が被害を受ける中で、避難訓練の重要性や備蓄の実施が重要な教訓として浮き彫りになりました。また、都心部では公共交通機関が使えなくなり、帰宅困難者が続出したことで、保育施設にいる子どもたちを翌日まで迎えに行くことができないという事態になりました。

このような経験から、多くの保育施設ですぐに見直されたことがあります。それは、『お昼寝にパジャマを着ない』ということです。

東日本大震災が発生した時間は、ちょうど午睡中の時間帯でした。そのため、子どもたちが園庭や高台に避難する際、パジャマで避難しなければならなくなりました。3月と言っても東北地方はまだ雪がちらつくような寒さ。そんな状況の中、パジャマで避難することに躊躇し、コートを取りに行くことで避難が遅れてしまったという施設もありました。このような教訓から、全国の保育施設でもパジャマを着ずに普段着でお昼寝をする施設が増えました。
震災で園舎の周囲の建物が倒壊したイメージ
また、東日本大震災では津波によって多くの命が失われました。その中には小さな子どもたちも含まれています。ある保育施設では、日頃から津波を想定した避難訓練を行っていました。そのおかげで遠く離れた高台の避難場所まで誰一人犠牲を出さずに避難することができたという事例があります。

その一方で、高台にあった幼稚園にも関わらず園バスで海の方へと走ってしまい、津波の後の火災で子どもたちが犠牲になってしまったという悲しい事例もあります。この園では、津波の避難訓練を行っていませんでした。また、園バスの災害対応について誰も判断ができなかったそうです。

災害はいつどこで起こるか分かりません。大地震であれば、大きな余震が来る可能性もあります。だからこそ、保育者は子どもたちを迅速かつ安全に避難させるための手順を熟知し、日常的に避難訓練を行うことがとても重要なのです。

2.令和6年能登半島地震(2024年1月)

能登半島地震で倒壊した輪島市の街並み
能登半島地震は、お正月ということもあり、ほとんどの保育施設が休園していました。そのため園での人的被害は無かったものの、地震により多くの建物が被害を受け、一部の施設では長期間の休園を余儀なくされました。

また、園舎の被害が少なかった施設は、自主避難所として運営されていたところもあります。その際に役に立ったのが『備蓄品』でした。

実際に発災翌日から自主避難所として運営された認定こども園では、日ごろから水や食料を備えていたおかげで、すぐに避難者を受け入れる体制ができたそうです。また、避難所を運営するにあたり、日々の保育の延長として行っていた衛生管理のノウハウのおかげで感染症が流行せずに済んだというのも保育施設ならではないかと思います。

備蓄品で役に立ったものを挙げておきますので、参考にしてみてください。
ウエットティッシュ/紙皿/紙コップ/非常用飲料水/ポータブルトイレ/カセットコンロ/缶詰(ツナ缶やフルーツ缶など)
非常用飲料水のペットボトル
飲料水は足りなくなることも想定し、非常用水袋を用意しておくことをお勧めします。通常のポリタンクやビニール袋、空のペットボトルなどは、給水車から水をもらったとしても衛生面が保証できません。この場合は飲料水として使用できないことを覚えておきましょう。

参考:令和6年能登半島地震に関するこども家庭庁からのお知らせ >>詳細はこちら
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台風・豪雨対策の事例

続いては、過去に発生した台風・豪雨災害の事例と、そこから得られた教訓について見てみましょう。

平成30年7月豪雨(2018年7月)

平成30年7月豪雨(西日本豪雨)で冠水した住宅と車
平成30年7月豪雨(西日本豪雨)は、西日本を中心に甚大な被害をもたらしました。この災害を通じて学んだことは、保育施設の立地環境の確認や、浸水リスクの高い場所での対策の重要性です。

災害時には「自分のところは大丈夫」という正常バイアスがかかりやすくなります。「まさかここまで水が来るなんて…」と思うことになるかもしれません。施設周辺のハザードマップは必ず確認し、最悪の場合どのくらいの被害が想定されるのか、そのような場合にはどこへ避難するのかをあらかじめ職員間で話し合っておくことが大切です。

また、保護者にも園の対策と対応方針について理解してもらうことも重要です。大雨や台風の際にはできるだけ早く迎えに来てもらえるよう伝えることや、連絡手段の再確認などを普段から行っておきましょう。

水害は、地震とは異なり、突然来るものではありません。天気予報や自治体のホームページなどで情報を得ることで、事前に対策を講じることも可能です。「まさか」の事態を避けるためにも、さまざまな想定をしながら準備をしておきましょう。

いま保育者にできること

ハートを包み込んでいる子どもの手と大人の手
能登では、今なお仮設住宅での生活が続き、地割れの状態がそのままの道路も多くあります。街には半壊の建物も立ち並ぶ中、子どもたちを外で安心して遊ばせることができないまま1年が過ぎました。

そのような環境の中で、保育施設は子どもたちが唯一自分らしくのびのびと遊ぶことができる場所でもあるのです。

私たちもいつ能登と同じような状況に陥るか分かりません。過去の災害を教訓として、「保育者としてできることは何か?」を日々考えること。それが、子どもたちを守るためにいま必要とされていることなのではないでしょうか。

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藤實 智子(ふじみ ともこ)

この記事を書いた人

藤實 智子(ふじみ ともこ)

保育の寺子屋 代表
女性消防官(防火・災害予防にも尽力)を経て、保育士に。私立の認可保育園園長、小規模認可保育園の運営などの経験から「子どもたちの命を守る保育士たち」に寄り添いサポートすることを目指し、一般社団法人保育の寺子屋を立ち上げる。

現在は保育防災コンサルタント®として保育防災ハンドブックの制作、保育士向けの防災講座を行うと共に、現場の保育士たちと保育防災を一緒に考える場として「保育防災オンラインサロン」を毎月開催している(無料開催)。

<HP>
https://hoikubousai.com/
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