今回のお悩み:ASD(自閉スペクトラム症)の4歳男児とのかかわり方について
くまさんさん(一般保育士/19年目)さんからの質問
ASDの4歳児男児8月下旬に入園して来ました。午後は療育へ行く為9時半〜12時半までの登園です。2歳児から送迎付きの療育に通っていたそうです。
クレーン現象、空いているドアを見たら必ず閉める、オウム返し。癇癪。絵カードも使いながら対応しています。
まだオムツで、尿意はわかりません。家庭ではいっぱいになると替えているとの事でした。(時間で連れて行くと良いですよとは伝えていて、園でも連れて行くとトイレで排尿出来ましたよ、と伝えると家でもやってみたようです)
ストロー付きの水筒で水分を取りコップでは飲めません。温めた牛乳は哺乳瓶で飲むそうです。食事も食べさせて貰う事が多かった様です。カレーやビーフシチューなど茶色の物又はトーストのよく焼いた物や特定のスナック菓子などしか食べないと言った強い偏食傾向があります。
子どもに興味があり自ら近寄って行きます。私と手を繋ぐのは好きで自分から繋いで来ます。後ろからハグをして来たりもします。ただ、クラスの子や他の人が触れようとすると逃げる事が多いです。
くすぐって遊んだりすると声を出して笑って何度もリクエストして来ます。保護者は、この2ヶ月で本児がとても変わったので驚いているようです。
・私との信頼関係は取れていますが少し依存が強いとも感じるので、距離感はどんな風にしたら良いのでしょうか?
・身辺自立は少しずつ伝えて行こうと思いますが、やる気が出る様なやり方があったら教えて頂きたいです。
・コップを使用出来るようにするよりも、ストローや哺乳瓶で無理をしない方が良いでしょうか?
(編集部注:いただいたご質問のうち、個人を特定できる情報を除いてご紹介しています)
専門家からくまさんさんへの回答
毎日の保育の中でお忙しいにも関わらず、ご質問をいただきありがとうございます。また、文章の内容を読んでいると、お子さんの情報が丁寧に書かれていて、苦手なところだけでなく、今できていること、芽生えているところが書かれていて、ぜひ先生のご質問にお応えさせていただきたいと思いました。子どもとの関わりのいいポイント
まず先生の関わりで、とても良いなぁと感じた部分は、・排泄部分の保護者支援
・保育園で定時排尿でトイレに行くと成功している
という今できている部分を肯定的に決して押しつけずに伝えられているところが素晴らしいと感じました。
お家でトイレに連れて行くかどうかは別にしても、保育士さんから我が子の出来ていることを伝えられたことは、保護者の立場からするととても嬉しかったことでしょう。
北風と太陽のお話の様に、行動(やるかどうか)を決めるのは保護者。いかにそう思えるような気持ちにさせるかは周囲にいる人の関わり方だと私は思います。
先生のお子さんに対する関わり方が本人にとって安心出来るものだからこそ、きっと先生を求めることが多いのでしょう。まさにこれが幼児期に大切な、「人が安心できるものである」ということを日々の関わりからお子さんが学んだ結果ではないのでしょうか?
少ない情報の中から、お子さんの発達段階にとって今必要なことは1対1での安心出来る関わりの積み重ねだと感じます。先生という安心できる核となる存在がいることで、この先生がいるのであれば○○くんが近くに来ても大丈夫、また、先生と手をつないでいるのであれば○○ちゃんと手をつないでも大丈夫という、先生を軸にした拡がりが出てくるのを気長に待つと良いでしょう。
発達はお子さん自らのタイミングで芽生えます。その為にも、安心できる人を含めた環境を整え、無理のないその子自身の発達のスピードに合わせていくとよいでしょう。
個別の質問への回答
この考えを元に3つの質問にお応え致します。①先生との距離感について
先生との距離が近いとのことですが、本人が安心出来る数少ない大人であるなら、無理に距離をとる必要はないと思います。先生を軸にして、人の拡がりがでるのを待ちましょう。②身辺自立について
身辺自立に関しての情報が少ないので、なんとも言えないところですが、まずは本人が楽しみにしている場所につながる身辺自立からが良いかと思います。例えば、外遊びが好きなようでしたら、靴の着脱から始め、足を入れるところは先生がお手伝いをして最後のマジックテープをぺたんと貼るところはお子さんが行う。このように達成から逆算的な支援を行うことをおすすめします。
次のことが楽しみであり、本人の発達の段階に合わせた内容であれば負荷をかけずに日々の積み重ねから、着実に積み重ねていくことが出来るでしょう。
食具の取り扱いについて
水分は、ストロー飲みのままで無理にコップのみを進めるのはやめましょう。こだわりからきているのか、道具の操作性が難しい運動、感覚発達段階からきているのかは今回の情報からは分かりませんが、食事場面で食べさせてもらっていることが多かったという情報から、自分の口がどこにあり、直接でない(手づかみ食べ)食具を使用しながら間接的に口までの距離を無意識に感じて食材を運び入れるということは難しいように感じます。そのため、まずは、身体を使った遊びや感覚を使った遊びを十分に行い、遊びの中で道具を使用するような遊びがたくさん出来るのを待ちましょう。遊びの中から自分の身体部位の見えない部分を感じる経験をたくさんすると良いでしょう。
例えば、先生とであればくすぐり遊び等のふれあい遊びも出来るとのことなので、声を発しているところに手で口元を触れて音の変化を楽しむ「チョチ、チョチ、あわわ」等、先生とのあそびの中で身体部位を感じる遊びが出来ると良いでしょう。
次第に、道具を使用してバケツからバケツに水や砂を入れ替える、おままごとでフライパンで炒める等、本児の好きな遊びを通して道具の使用の経験を積み重ねられると良いでしょう。
井上さんよりアドバイス
お子さんを支援する際には、実際の年齢に惑わされずに、その子の発達の段階を見て、焦らず下から支える関わり方をすることが、一番の発達の近道です。素敵な先生の支援を応援しています。井上さんに直接聞いてみたい発達支援のお悩み募集中
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