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「キー」、「キャー」と奇声をあげる子ども...その理由と支援方法|発達支援の現場から

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「キー」、「キャー」と奇声をあげる子ども  その理由と支援方法
児童発達支援管理責任者/保育士/発達支援専門士として自治体とともに現場の保育士さんと一緒に発達支援を考える井上さんが、子どもがあげる”奇声”について専門的な立場から理由とすぐに実践できる対応、支援の方法を解説します。>>連載一覧はこちら

子どもがあげる”奇声”には理由がある

子どもたちが出す甲高い「キー」、「キャー」という“奇声”は、周囲の人たちからすればとても不快なものとなり、文字通り耳の痛い話です。しかし、表出している本人にとってはさまざまな理由があり、理由によって保育士さんの対応方法も変えていく必要があります。

今回は、子どもが奇声をあげる理由とその対処方法についてご説明します。

①奇声がコミュニケーションの手段

想いが叶わなかった際のコミュニケーション

想いが叶わなかった際のコミュニケーション手段として使用する場合

社会の中で生活していると、自分の思い通りにならないことはたくさんあります。

お庭での遊びが充実していて、まだ室内に入りたくないのに切り替えるよう促される、お友だちが遊んでいるおもちゃが魅力的で自分も使いたいと思い、手を伸ばしたらダメと言われた、など社会性の育ちが未熟であるほど、日常の生活は本人にとって困ることだらけかもしれません。

そんな時に自分の気持ちを言葉で伝えたり、イライラした感情の対応方法が上手く出来れば良いのですが、幼児期ではまだまだ難しいお子さんもたくさんいます。

そんな時に、「イライラするー!!」という気持ちの表現方法として奇声を表出することで発散していることが考えられます。

このケースの対応方法

イライラした際に自分の気持ちを落ち着けることの出来る「安心ボックス」を使用してみましょう。スクイーズや、ドロップモーション、トレーニング用のゴムバンド等むしゃくしゃする気持ちを奇声以外の方法で外に出すことができるグッズです。そうすることで、思いが叶わなかったときの事後の対応ができます。

しかし、奇声を上げた後の対応方法だけではなく、そうならないために未然に防ぐという支援も同時に行っていただきたいと思います。

例えば、他児とおもちゃを共有することで取り合いになりいつもトラブルが起きるのであれば、まだ並行遊びの段階ではなく、ひとり遊びの段階です。遊びを共有せずにひとりでじっくり遊べる空間を作りましょう。

また、やりとりのコミュニケーションを知らないという段階であれば、大人が仲立ちに入り「かして」や「だめよ」、「あとでね」、「いいよ」等自分の気持ちを表出しやりとりとして使えるコミュニケーション手段を伝えていきましょう。

自分を見てほしいというコミュニケーション手段として使用する場合

「自分を見てほしい」という理由は、後ほど紹介する③の遊びの充実が難しいというお子さんの理由にも共通する部分です。

何かのきっかけで奇声を偶発的に出した際に、その声を聞きつけて保育士さんや保護者の方が近くに来てくれた、または話しかけてくれたという経験が、「こうすれば、先生が僕/私のところに来てくれるんだ」という誤学習をし、先生や保護者は止めにきているにも関わらず、本人にとっては、呼ぶという手段が叶ったという成功体験になっています。

このケースの対応方法

先生や保護者の方を呼ぶ手段を身につけられるように支援しましょう。

言葉の表出をもっているのであれば、「せんせいって呼んでね」等の声かけをして、出来るだけ呼ばれた際には優先して本人のもとに行くようにして定着につなげます。手段を伝えても、使う本人にとって便利でなければ定着はしません。

また、言葉で伝えることが難しければ、手を挙げてもらう、先生の顔写真をカードにしておき、先生のもとに渡しに行くという手段も良いかもしれません。どれも注意喚起というスキルで、自分が何かを伝えたいために自分のもとに来てほしい、またはこちらも見てという意味合いです。
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②感覚遊びとして取り入れている

②	感覚遊びとして取り入れている

この理由もまた、③の遊びの充実に関わってきてくる部分です。子どもたちの行動の中にはくるくると回転する前庭感覚を取り入れて楽しんでいる感覚遊び、トランポリンを跳び続けることで得られる固有受容覚、また前庭感覚を取り入れている子、ボールプールの中でゴロゴロと激しく動き回ることで触感覚を堪能している子など、さまざまな感覚を能動的に取り入れて遊んでいる子がいるかもしれません。

それは、その子が感じる内的な感覚を欲している行動で脳からの指令にそって起こしている行動です。このさまざまな感覚を自ら取り入れることが難しく“奇声”として自分の声自体を感覚あそびとして使用している場合があります。

このケースの対応方法

このような場合には、粘土やスライムなどの感覚遊びや重さのあるベスト、重さのあるブランケットを使用するなど、奇声以外の感覚を取り入れることで気持ちが落ち着く支援を行うと良いでしょう。

特に固有受容覚にはリラックスできる効果もあります。野球選手がガムを噛むことで固有受容覚を取り入れリラックスし、本来の能力を発揮出来るきっかけ作りとしているというのもこういった理由が考えられます。

感覚の偏りをもつ子どもが、適正な感覚を取り入れることで、情動が安定し奇声が消えたというケースも多く見られています。

③遊びの一つとして表出している

①や②にもつながる理由です。遊びが持続しないことや遊び自体を自ら選択し自由時間が充実することが難しいために奇声を発する=遊びとする行動がでることがあります。

このケースの対応方法

その子の興味や遊びの発達段階を把握し、遊べる物を準備することが大切です。刺激の調整が難しくひとり遊びの持続が難しい場合には、エリアを区切る、イヤーマフを使用する、壁向きに机を設定して遊ぶなど、余計な刺激が本人の遊びの邪魔にならない様に環境を整えましょう。

感覚遊びが好きなのであれば、感覚遊びをたっぷりと堪能できるよう環境を整えると良いでしょう。

井上さんからアドバイス

私のコラムでいつもお伝えしてますが、子どもの行動には必ず理由があります

奇声という表面的なものを「静かに!!」と押さえつけるのではなく、なぜその表出がおきているのか、普段の行動をよく観察し、学んできた知識とつなぎ合わせて支援の方策を考えて見てください

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井上 綾乃(いのうえ あやの)

この記事を書いた人

井上 綾乃(いのうえ あやの)

合同会社シャインキッズ 代表
管理者兼児童発達支援管理責任者/保育士/発達支援専門士

発達支援センターでの実践や短大非常勤講師の経験を積み、自ら法人を立ち上げ、児童発達支援管理責任者(保育士と)して療育の現場で活動中。子どもをプログラムに合わせるのではなく、子どもに合わせた療育プログラムを行いながら、「楽しい」と感じる事で発達する支援を実践。現在では自治体の保育園巡回相談、保育ゼミ講師、依頼を受けての保育園、幼稚園研修講師等人材育成も行っている。

<シャインキッズホームページ>
https://shine-kids.com/
<遊んで発達 シャインキッズ井上チャンネル>
http://www.youtube.com/@user-nt6dp8ji5c/

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