正しい量で指示を出していますか?

みなさんは子どもたちに何かを伝えるとき、どれくらいの情報量であれば正しく伝わっている感覚がありますか?
例えば製作の場面で「画用紙を丸く切って、顔を描いたら、先生に持ってきて、ロッカーにクレヨンを片付けましょう」。
このように長い指示を出したとしたら、クラスの中でどれくらいの子どもが理解し、記憶し、必要な段階でその情報を取り出して行動に移すことができるでしょうか?
また、それができていなかったときに「さっき先生、何て言った?」などと伝えてはいませんか?
子どもの発達と記憶の仕組み

そもそも記憶の量や扱い方は、子どもの発達段階によって異なります。
よく使われる「記憶」にはいくつかの種類がありますが、その一つに「ワーキングメモリ(作業記憶)」があります。
例えば誰かの電話番号を聞いたとき、メモをするまでの数秒から数十秒間、頭の中に番号を留めておくこと、これがワーキングメモリの働きです。
5歳児のワーキングメモリは「2つ」ほど
このワーキングメモリには個人差がありますが、一般的には5歳児では2つ程度と言われています。これを聞くと、「では朝の身支度は、2つ以上のことを一度に言われなくてもできるのはなぜ?」と思うかもしれません。それは、毎日繰り返して行うことで身体が覚え、習慣化された行動だからです。
これは一時的に情報を保管するワーキングメモリではなく、長期記憶と呼ばれる仕組みが働いています。長期記憶の保持期間は数年から数十年とも言われています。
私たちがパソコンのタイピングをスムーズにできるのも、何度も繰り返し練習したことで身体が覚え、無意識に指が動くようになったからです。これが長期記憶の働きです。
指示の量を調整する工夫
ワーキングメモリが5歳児で2つ程度であれば、指示の量を意識的に調整する必要があります。とはいえ、日々の保育の中で毎回二つずつに分けて伝えるのは難しいですよね。そんなときに役立つのが、イラスト・文字・写真などの視覚情報です。言葉は発している間しか耳から情報を得られず、その時間は一瞬で消えてしまいます。記憶に留めることが苦手な子どもは、次々と情報が右から左に抜けていってしまうでしょう。
しかし、視覚情報であれば、先生が伝えたあとでも子どもが「何するんだっけ?」と思ったそのときに見て思い出すことができるのです。
しかも、子どもたちの「思い出すタイミング」は一人ひとり違います。それぞれのタイミングで確認できる視覚情報は、とても有効なサポートになります。
苦手を補う工夫を伝える
「苦手なこと」や「できないこと」を嘆くよりも、子ども自身が自分の苦手を補う方法を知ることが大切です。そうすることで、その子は“ありのまま”の自分で、自信をもって成長していけるのではないでしょうか。井上さんからアドバイス
誰にでも苦手なことはあります。記憶に関しては、年齢を重ねるにつれて苦手と感じる人も多い分野です。そんなとき、「また忘れちゃったの?」と責められる社会ではなく、「こうすると忘れずにすむよ」と優しく教え合える社会であってほしいですよね。
それは大人だけでなく、子どもも同じです。自分の苦手を優しくサポートし合える社会であるために、幼児期からの丁寧な支援が大切です。
優しくされた経験は、やがて別の誰かへの優しさにつながり、あたたかな世の中をつくります。そのスタートを切るのは、このコラムを読んでいる先生方であってほしいと願っています。
井上さんに直接聞いてみたい発達支援のお悩み募集中
普段の保育で感じている発達支援のお悩み、井上さんに質問してみませんか? このコラムも実際に寄せられた質問にお答えしています。ほいくisでは、保育者のみなさんが抱える発達支援のお悩みを募集し、児童発達支援管理責任者/保育士/発達支援専門士として自治体とともに現場の保育士さんと一緒に発達支援を考える井上さんに回答いただく企画が好評です。あたたかい目線でいつも保育者に寄り添う井上さんのコラムは、現場の保育者の方からも非常に好評です。ぜひみなさんが感じていること、相談したいことがありましたら下のボタンをクリックして相談内容を教えてください。
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