「殺す」「死ね」と乱暴な言葉を使う子ども
保育の現場では、お友だちと仲良く遊んでいたかと思えば、互いの思いがすれ違ったことをきっかけに、トラブルへと発展する場面が少なくありません。そのようなとき、「殺す」「死ね」など相手に対して乱暴な言葉を言ってしまう子はいないでしょうか。その都度、先生が注意をしても、次に同じような場面になると再び乱暴な言葉を使ってしまう。この繰り返しが続き、なかなか行動が改善されず、対応に悩んでいる先生方も多いのではないかと思います。
では、このような子どもの脳の中では、どのようなことが起きているのでしょうか。人は、他者との関係の中で自分の思いが通らないと、「イライラする」という感情が生じます。この感情には、主に三つの脳の働きが関係しています。
乱暴な発言が起きる脳の働き
では、このような子どもの脳の中では、どのようなことが起きているのでしょうか。人は、他者との関係の中で自分の思いが通らないと、「イライラする」という感情が生じます。この感情には、主に3つの脳の働きが関係しています。① 扁桃体
扁桃体(へんとうたい)は感情の処理を担う部分で、恐怖や不安を察知したり、怒りやイライラといった感情を生み出したりする役割があります。② 前頭前野
前頭前野(ぜんとうぜんや)は感情をコントロールする司令塔のような役割を持っています。扁桃体から生じた怒りや不安を抑えて冷静にさせたり、相手の気持ちを想像したりする働きも、この部分が担っています。③ 神経伝達物質
神経伝達物質には、気分を安定させたり、心身をリラックスさせたりする働きがあります。子どもは前頭前野がまだ発達の途中にあるため、イライラした感情を自分でコントロールすることが難しいという特徴があります。この点を、まず大人が理解しておくことが大切です。イライラした時は乱暴な言葉を使う=スッキリする
また、乱暴な言葉を使ったことで気持ちがすっきりしたり、相手が黙って自分の思いが通ったりした経験を重ねると、「イライラしたときは乱暴な言葉を使う」という脳の回路が強化されていきます。その結果、同じような場面になると、脳が無意識のうちにその方法を選択するようになります。これは、嫌だった感情とその解消方法が、扁桃体を中心に記憶として結びついている状態だと考えられます。乱暴な言葉を使わなくなるためにできること
では、どのように関わればよいのでしょうか。大切なのは、イライラしたときの解消方法を、「乱暴な言葉」という既にできあがっている回路とは別に、新たな回路として育てていくことです。具体的な対策
例えば、イライラしたときに冷たい水を飲む、クッションを叩く、おしぼりで顔を拭くなど、その子に合った「気持ちが切り替わる方法」を、乱暴な言葉以外で一緒に見つけていきます。どうしても言葉にしたい場合には、相手に直接向けるのではなく、特定の箱の中に向かって言うなど、別の手段を用いることも一つの方法です。このように、乱暴な言葉以外でも気持ちを解消できる経験を積み重ね、周囲が意識的に支援していくことで、新しい脳の回路は少しずつ強くなっていきます。その結果、乱暴な言葉ではない行動として定着していくことが期待できます。
井上さんからアドバイス
今日のコラムでは、イライラが生じる仕組みと、その対応方法についてお伝えしました。ただし、友だちとの関係の中で、あまりにも頻繁にイライラする出来事が起きている場合、その子にとっては強いストレスがかかり続けている状態とも考えられます。そのような状況では、イライラがさらに起きやすい脳の状態になってしまいます。
その場合は、無理に集団で遊ばせるのではなく、遊びを分けて一人で遊ぶ時間を確保し、「一人で遊ぶ充実感」や「情動の安定」を優先することも大切です。まずは、安定した心の状態で一日を過ごせる環境を整えることをおすすめします。
お友だちと遊ぶことはもちろん大切ですが、安定した気持ちで一日を過ごすことは、それ以上に重要です。物事には順序があり、まず情動の安定があり、その土台の上に他者とのやりとりが育っていきます。
先生方もご自身に置き換えて考えてみると、子どもの気持ちがより理解しやすくなるのではないでしょうか。
日々、大変な保育環境の中で働いておられる職場も多いかと思いますが、「〇歳だから〇〇ができる」という発達の基準にとらわれすぎず、一人ひとりに合った環境を整えることが、柔軟な保育につながります。それは、子どもの心の安定にもつながっていきます。
焦らず、思考を狭めず、子どもの発達を信じながら、日々楽しい保育ができることを応援しています。
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