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竜星君が翔太君を叩くワケ<後編>保育者は探偵になり「原因」を探り「解決」へ導く

葉っぱの写真
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラム。保育士であれば知っておきたい「気になる子」への関わり方について毎回事例を挙げて解説していただきます。今回は、隣の子を叩いて泣かせてしまう子のケースについての回答編です。

紙芝居のときに友だちを叩いてしまう竜星君。「乱暴な子」として対応するのと、『だから、だってフォーム』を使って対応するのと、竜星君にとっては何がどう違うのでしょうか。
 

保育の仕事とは

そのお話の前に、そもそも保育の仕事の目的は何か、言い換えると「子どもにどういう経験をしてもらうことが保育士の役目か」を皆さんに問うてみたいと思います。どうですか?

「集団生活が送れるようにする」「身辺自立」など、いろいろな考えがあるでしょう。
どれも間違いではありません。

でも私は、最も優先されるべきなのは、子どもの中に
  1. 自分を好きという感覚
  2. 家族や友だちや周りの人を好きだという感覚
を育てることだと思っています。

この感覚は、子どもがその子らしく生きていく上でも、社会で人と共生していくために必要なことを学ぶ上でも、ベースになる大事な感覚です(「③人の役に立つことができる」感覚も非常に重要だと私は考えますが、それはまた別の機会に)。

だとすれば、保育ではあらゆる場面、あらゆる関わりにおいて、子どもの中に「自分が好き」「人が好き」という感覚を育てることを目指さなければなりません。翔太君を叩く竜星君への対応においても、「自分が好き」「人が好き」という感覚を育てることを一番に考えるのです。

「自分が好き」「人が好き」を育てる対応とは

この点、2つの対応はどうでしょうか。

最初の対応では結局、叩く理由は理解されていません。「乱暴な子だから」は循環論であり、保育士が考えた「乱暴な子」というレッテルを竜星君にペタンと貼っているだけで「なぜ乱暴と評価される行動をするのか?」という問いには答えていないのです。

叩いてはダメと叱り、ごめんなさいを言わせても、それは行動の理由がわからないままにする見当違いの対応なので、叩く行動は減りません。竜星君は再び翔太君を叩いて泣かれ、嫌がられ、先生に叱られます。




こういうことが続けば竜星君は「自分が好き」「人が好き」どころか、「友だちに嫌がられる自分」「叱られる自分」をどんどん嫌いになり、叱る先生や友だちなど周りの人が嫌いになっていくかもしれません。

一方、『だから、だってフォーム』を使った場合はどうでしょう?

先生が『だから、だってフォーム』で仮説を立てて対応し、正しく行動の理由を理解できたとします。正しい仮説に立って対応がなされると、竜星君は翔太君を叩かないで済みます。
翔太君に泣かれません。嫌がられません。叱られません。

竜星君はそんな自分を前よりも好きと感じられますし、叱られない関係の中で先生との関係も良いものになります。正しい理解に立って対応すれば、竜星君は「叩かない竜星君」でいられる。それは竜星君の中に「自分が好き」「人が好き」を育てることになります。
 
青空と太陽

保育現場では、どうしても「叩いてしまってから」対応する事後対応が多くなりがちです。いたしかたないことではありますが、竜星君のような、繰り返される困った行動への対応においては、仮説1、仮説2のような“予防的な対応”が大切です。「叩かない僕」を育てる工夫です。

そうすることで、子どもの中に「自分が好き」「人が好き」の気持ちが育ちます。その感覚は周囲とのつながりや、信頼の感覚の基盤であり、やがて他の場面での対応においても「効いて」くるようになります。

「紙芝居のとき友だちを叩かない」ことは、竜星君の「自分が好き」「人が好き」につながるから大事であり、目指したいことです。決して、「みんなにきちんと紙芝居を聞かせるため」に目指したいことではありません。このことも心に留めてほしいと思います。

まとめ

子どもの困った行動が見られたときは、『だから、だってフォーム』を使って仮説を立てましょう。そしてその仮説に立った対応を試してみます。

1回で正解にならなくていいのです。いろいろやっているうちにヒットします。

そして「いろいろ考えてみる」作業は、すなわち保育士が子どもの気持ちをわかろう、想像「しようとする」ことに他なりません。「乱暴な子」とレッテルを貼るのではなく、僕の、私の気持ちをわかろうとしてくれる先生。子どもはどこかで感じます。

これは覚えておいてほしいのですが、人に嫌がられたり、叱られることを望む子はいません。どんな子でも「自分が好き」「人が好き」と実感したいと思ってます。そう実感させてほしいと待っているのです。

子どもの示す、不思議な、ときに「困った」行動は、子どもからの周囲への助けを求めるメッセージ~僕は「自分が好き」「人が好き」って感じたいけど、こういうことしちゃう。どうしたらいいの?~というメッセージです。

仮説を立て、子どもの行動の理由を正しく理解して対応し、子どもを助けましょう。
色とりどりの花

さて、次回のケースです。
ケース2 食べ物を机から払い落とす小太郎君

小太郎君(※)は4歳の男の子。まだ、おしゃべりができないので、何かしてほしいときは、指差しや保育士の手を引いて伝えます。

さて、大好きなお給食の時間です。

小太郎君は食べることは大好きですが、嫌なものがあるときは大変です。お皿ごと机からはらい落としてしまうのです。

今日も、ニコニコ顔で自分の席に着きましたが、おかずのお皿を見たとたん、小太郎の顔つきが変わりました。

「バーン」。怒った顔でおかずの皿を机から払い落とします。

保育士はこの子の状況をどう捉え、どう考え、どう対応したらいいでしょうか?
『だから、だってフォーム』=「僕、○○だから机からお皿を払いとしちゃうんだ。だって、机からお皿を払い落とすと●●なんだもん。」を使って考えてみてください。

※お子さんの名前はすべて仮名です
 
<著書>
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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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