5月に始まったこのコラムでは、具体的事例を取り上げて「子どもの困った行動の理由を考える」ことをしてきました。振り返ってみましょう。
仮説1 紙芝居がわからなくて退屈なので、叩いて、翔太君が反応するのを見る
仮説2 翔太君と関わりたいので、叩いて、翔太君に自分の方を見てもらう
>>Case2 食べ物を机から払い落とす小太郎君
仮説1 苦手なものを除く方法がわからないので、お皿を落として、苦手な食べ物を食べないですむようにする
仮説2 苦手なものを除いてと言えないので、お皿を落として、苦手な食べ物を遠ざける
>>Case3 自由時間にお部屋から出ていく裕子さん
仮説1 何をしたらいいかわからないので、部屋を出て、部屋で過ごさなくていいようにする
仮説2 これで遊びたいと言えないので、部屋を出て、外でわかること、楽しめることを探す
>>Case4 しょっちゅう手を洗う正太郎君
仮説1 先が予想できず不安なので、水を触って、わかる感覚を味わって安心する
仮説2 手を洗いたい気持ちを我慢できないので、手を洗って、洗う感覚を満足させる

子どもの困った行動を成立させているのは、次の4つの要素です。
- それまでの経験: その子は、さまざまな経験を経て、今、ここにいて (例:過去に犬に追いかけられた)
- きっかけ : その行動が起こるきっかけがあり(例:犬を見た)
- 行動の理由 : その行動の理由やその行動によって得ようとするものがあり (例:犬から離れるため(回避・逃避))
- 得られるもの : 行動の結果、得られる具体的な結果があり (例:犬から遠ざかることができる)
①~④の結果、子どもはその行動(例:叫んで逃げる)をします。
日常生活での子どもの困った行動は、ほとんどの場合、このようにして起きます。4つのうち何かが欠ければ行動に至らないわけで、それはつまり4つの要素にアプローチすることで、子どもの困った行動に対応できるということです。
今回はそのうち③「行動の理由」と、④「得られるもの」についてお話しようと思います。連載を読んでいただいている方はお気づきと思いますが、③「行動の理由」は、「だから~だって」フォームで言う「~だから」であり、④「得られるもの」は「~だって」にあたります。
さて、③「行動の理由」には、
(1)要求 (2)注目 (3)拒否・回避 (4)感覚刺激
の4つの種類があります。
問題行動には5種類目はないと言います。子どもの行動の理由は、この4つのいずれか、もしくはこの4つの複合したものなのです。
同時に子どもの行動は、何か「ない」ものがその行動によって「あり」に転じる(獲得できる)、だからその行動をする、という構造として理解することができます。その点で、「ない」→「あり」を考えることも、子どもの行動の理由を考える上でとても役に立ちます。
以上を頭に入れた上で、(1)要求 (2)注目 (3)拒否・回避 (4)感覚刺激という③「行動の理由」と、それによって④「得られるもの」について詳しくみていきましょう。
(1)要求=③「行動の理由」は、「欲しいものを手に入れる」
「(1)要求」が行動の理由となることは非常に多いです。例えば、おもちゃ売り場で床にひっくり返って泣き叫ぶ。この③「行動の理由」は、おもちゃがほしいという「(1)要求」であり、④「得られるもの」は「おもちゃ」です。
これを「なし」→「あり」の構造で考えると、「おもちゃなし」→「叩く(1)要求を理由とする行動」→「おもちゃあり」になります。
(2)注目=③「行動の理由」は、「自分に注目してもらう」
Case1の仮説2で、竜生君が翔太君に振り向いてもらおうとして叩くのは、この一例です。「奇声をあげて周囲の注目を浴びる」なども、「(2)注目」を理由とする行動であり、④「得られるもの」は、「周囲にいる人からの注目」です。
「なし」→「あり」の構造で言えば、「周囲の人からの注目なし」→「奇声をあげる(2)注目を理由とする行動」→「周囲の人からの注目あり」となります。
(3)拒否・回避=③「行動の理由」は、「避けたい行動、嫌いなことから、遠ざかったり、しなくてすむようにする」
Case2で小太郎君が食べ物を机から払い落として食べなくてすむようにしたり、Case3で裕子さんが自由時間に部屋から出ていくことで、部屋で過ごすことから逃れるなどがこれに当たります。 苦手な人に唾を吐いてその人を遠ざける行動も「(3)拒否・回避」を理由とする行動であり、④「得られるもの」は、「苦手な人を遠ざける」ことです。「泣き真似や寝たふり」、「その場から離れようとする」もこれにあたります。
「なし」→「あり」の構造で言えば、「苦手な人がいて、安心感なし」→「唾を吐く(3)拒否・回避を理由とする行動」→「苦手な人がいなくなり、安心感あり」になります。
(4)感覚刺激=③「行動の理由」は、「その行動から得られる刺激自体」
③「行動の理由」が(1)要求 (2)注目 (3)拒否・回避のいずれでもなく、感覚刺激そのものである場合です。
Case4で正太郎君が蛇口と見れば手を洗うのはその例であり、④「得られるもの」は、「水に触れることから得られる感覚」です。指しゃぶりやロッキング(身体を一定のテンポで動かす)、「照明器具のON-OFFの繰り返し」なども、「(4)感覚刺激」が③「行動の理由」であることが多いです。 この場合、④「得られるもの」は、「指しゃぶり」では指をしゃぶっている感覚、ロッキングでは身体の筋肉や骨の動き、頭や身体を動かすことで得られる揺れなどについての感覚、「照明器具のON-OFFの繰り返し」では「パチッ」というスイッチのON-OFF時の音や触刺激、ライトの明るくなる―消えるの視覚刺激、といった感覚刺激そのものです。
また、自傷行為や奇声、ブツブツ言う、などの行動では、人を近づけたり遠ざけたり、嫌なことから遠ざかる「(3)拒否・回避」が、③「行動の理由」である場合があります。もしくは、その行動から得られる「(4)感覚刺激」自体が目的であることもあります。
「なし」→「あり」の構造で言えば、「指しゃぶりの感覚刺激なし」→「指をしゃぶる(3)感覚刺激を理由とする行動」→「指しゃぶりの感覚刺激あり」となります。
これまでこのコラムでは、「だから、だってフォーム」を使って子どもの行動の理由を想像してみようというお話をしてきましたが、
●ここでの行動の理由は、(1)要求 (2)注目 (3)拒否・回避 (4)感覚刺激のどれだろう、どれかとどれかの複合なのかな?
●この行動で何が「ない」→「あり」になっているのだろう?
と考えてみることは、「だから」「だって」を見つける助けになると思います。

さて次回は、困った行動の4つの要素のうち、①困った行動につながるこれまでの経験②行動のきっかけ、についてお話しします。この2つに対応することは、子どもの困った行動の予防・軽減にとってとても大事です。
①どんな経験が積み重なると「困った行動」につながるのか、②どんなきっかけが困った行動を引き起こすのか、ぜひ考えてみて下さい。

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