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スウェーデン在住の絵本翻訳家に聞く「日本の保育との違いとは ?」

絵本の翻訳家、高橋麻里子さん
スウェーデン在住で2児の母であり、プレスクールで保育士として働くよしざわたかこです。この連載ではスウェーデンの幼児教育を中心として、保護者の目線と働く目線とを織り交ぜながら、現地のリアルな情報をお伝えしていきます。

日本でも愛される“スウェーデン発の絵本”

スウェーデンの児童文学と聞いて、何が思い浮かびますか? 

例えば「長くつ下のピッピ」や「ちいさなロッタちゃん」。日本でも長く愛されている作品がたくさんあります。

この2つの絵本の作者、アストリッド・リンドグレーンは“子どもの人権を大切にする作品”を多く残しました。スウェーデンの児童文学だけでなく、社会にも大きな影響を与えたといっても過言ではないでしょう。

そんなスウェーデンの児童文学に魅せられて、当地で絵本の翻訳家・をするようになった高橋麻里子(たかはしまりこ)さん。プレスクール教師でもある高橋さんに、スウェーデンの絵本と教育の魅力について伺ってきました。2回にわたって、お届けします。

高橋さんとスウェーデンの絵本との出合い

絵本の翻訳家、高橋麻里子さん

スウェーデンの絵本に興味をもつきっかけは、何だったのでしょうか?


日本の大学で児童文学に興味をもち、イギリスの児童文学とその舞台について卒論を書きました。その後さらに学びを深めたいと思い、大学院へ進学。そこでスウェーデンの児童文学や“子どもと本の関わり”について興味を持ったのが、スウェーデンとの出合いです。

ただ、日本には翻訳された書籍はあっても児童文学や文化についての資料がありませんでした。そこで「もっと文学や文化に触れたい!」と思いスウェーデンに短期滞在し、現地の雰囲気や国民性も肌で感じることができました。

スウェーデンのことを深く知れば知るほど、「ここに住みたい。もっと文化を知り、日本の子どもたちにもスウェーデンの絵本を届けたい」と強く思うように。

そして論文提出後に留学することを決めました。この時、翻訳家の恩師でもある大学院の教授から「最低5年は住みなさい。その国の文化を知らないと翻訳はできない」との教えを受けました。当時はまだスウェーデンの大学は留学生も学費がかからず、生活費を賄うだけだったので恩師の教えの下、最低5年は住む予定でいました。



 

児童文学を学ぶためスウェーデンの大学に留学

留学生活では、どのような体験をされたのですか?


スウェーデンに留学して、最初の2年間はスウェーデン語を学びました。3年目に入り、いよいよストックホルム大学の児童文化プログラムと他大の図書館司書の一部科目を学び始めました。

その間、教員養成大学のゲスト講師に招かれて、スウェーデンの生徒に日本の児童文学や紙芝居について講義をしたり、図書館で子ども向けの紙芝居や折り紙のワークショップをしたりする機会にも恵まれました。とても刺激的で楽しい毎日を過ごしていました。

それが留学4年目に、留学生は学費を負担することが決まり、そのまま大学に通い続けることが困難になりました。そこで職探しをすることになり、どうしよう…と。

「働くなら子どもと接する仕事がいい」と思い、日本で取得していた幼稚園教諭免許をスウェーデンのプレスクール教師免許に切り替え、働き始めることに。翻訳に携わる傍ら、プレスクール教師として勤務し、約10年が経ちました。

2016年に念願のスウェーデンの絵本『ピーレットのやさいづくり』(岩波書店)を翻訳出版することになりました。そして2020年にはインタラクティブな絵本『ごきげんななめ』(ほるぷ出版)を翻訳出版しました。

【絵本の詳細はこちら↓】
>>『ピーレットのやさいづくり』(岩波書店)
>>『ごきげんななめ』(ほるぷ出版)

スウェーデンの保育で大切にする「感情表現」と「多様性」

日本で幼稚園教諭として働かれた経験もあるとお聞きしました。日本とスウェーデンの双方で働かれて、教育内容で違いを感じることはありますか?


私はスウェーデンのプレスクールは、「感情表現」と「多様性」が特徴としてあげられると思っています。

まず「感情表現」ですが、子どもが自分の感情を表現することを大切にしています。これにはもちろん“プレスクール職員の寄り添い”が重要になります。
 
気持ちのカード

一時期、絵本作家スティーナ・ヴィルセンの「気持ちのカード」が注目され、多くのプレスクールがそのカードを使って子どもと一緒に気持ち・感情について学びました。例えば、カードに描かれたイラストの表情から感情を読み取ったり、嬉しい時の表情を表現したりします。

言葉で上手く表現できない子に対しては、手話を使って表現の可能性を広げる活動をします。さらに今の職場では子どもへの共感や「Nonviolent Communication(衝突・ジレンマなどに対して、客観視しながら自分や相手の感情・欲求を分析し、声かけすること)」に力を入れています。

子どもの“意見表明権”を大切にしているのがよくわかります。スウェーデンでは絵本の世界でも「多様性」や「ジェンダーフリー」への意識が感じられますが、実際の保育現場ではいかがでしょうか?
 

「多様性」についても同じことが言えますね。カリキュラムでも言われているように、プレスクールそのものが「さまざまな社会や文化が集まる場」なので、私のように外国人の職員や保護者がいたり、親の離婚を経験した子や同性婚の方がいたり、子どもの家族の形もそれぞれです。

もちろんジェンダーフリーは活動でも環境でもいつも意識されていることです。「多様性」と聞くと人間ばかりをイメージしてしまいますが、「もの」も含めて多様性といえるのではないでしょうか?

保育室の組み立てのコーナーやアトリエでは、多種多様な教材が置かれています。これは「さまざまなものの組み合わせで、世界が作れることを子どもたちに体験して欲しい」と考えているからです。
 
組み立てのコーナー

実際、組み立てのコーナーでは形、色、素材が違う積み木やフィギュアや布などを用いて、子どもたちが自由に創造できるように配慮してあります。そのような環境の中で“ジュラシックパーク”や“サンタクロースの街”を、想像力を膨らませながら作る姿が見られました。

プレスクールでの保護者との関係と労働環境

保護者との関係や労働環境などはどうでしょうか?
 

こちらでは保護者に対してもファーストネームで呼びかけるのが一般的。「〇〇さんのママ、パパ」ではなく、「△△さん」とご本人の下の名前で呼ぶと、明らかに距離が縮まるのを感じます。

労働環境で特筆すべきなのは、有給休暇や育児休暇が権利として守られていて、それをみんなが理解していることです。

もちろん急な病欠や子どもの看病休暇で休む時に申し訳なさは感じますが、権利があることが良い後ろ盾になります。あと、仕事を持ち帰ることもめったになく、残業をしない配慮もされていると感じます。

次回は、インタビューの後半。スウェーデンの絵本の魅力や保育現場での活用の仕方を、高橋さんからご紹介いただきます。

どうぞお楽しみに!
 
(高橋麻里子さんプロフィール)
山口県生まれ、東京育ち。日本女子大学大学院家政学研究科児童学専攻修了。スウェーデンプレスクール教師、絵本翻訳家。2008年にスウェーデン留学、2016年に「ピーレットのやさいづくり」(岩波書店)、2020年「ごきげんななめ」(ほるぷ出版)を翻訳出版。
【絵本の詳細はこちら↓】
>>「ピーレットのやさいづくり」(岩波書店)
>>「ごきげんななめ」(ほるぷ出版)
2017年からはストックホルムにて、日本語話者の子どもたちに向けて家庭文庫を月1 回開催。ホームページ(http://www.marikotakahashi.se)でスウェーデンの絵本を紹介しています。
よしざわたかこ

この記事を書いた人

よしざわたかこ

スウェーデンの保育士。東京でOL(10年)→出産→退職→幼児教育を学ぶために再度大学生→2016年に家族でスウェーデン移住→スウェーデン語をゼロから学び、2019年5月からプレスクールに勤務中! 移住後は、スウェーデンの幼児教育事情をブログにて配信中。
<ブログ>
https://sweden-hoikublog.com/

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