発達障害の子の「ひとりで繰り返す遊び」との向き合い方
前回は「発達障害のある子の『ルールがある遊び』への参加についての考え方」として、「遊びの指向性」と「対人指向性」の軸で「遊び」を考えるというお話をしました。 「その子がどんな『遊び』を楽しめるか?」という方向性を判別する方法を、下の図でもう一度見てみましょう。「『遊び』の指向性」と「対人指向性」の組み合わせによって、子どものタイプを判別する表になります。
④「繰り返しの『遊び』を好む 」×「 仲間との『関係』が浮動的、対人不安」
このパターン(表の左下)に当てはまる子どもへの対応についてもう少し考えてみたいと思います。
「繰り返しの遊びを好む・対人不安タイプ」の子どもとは?
このタイプの子どもの場合、対人不安の傾向がとても強いと「遊び」そのものの好き嫌い以前に、人との関わりへの嫌悪感から「遊び」を拒否することがあります。そこをよく見極めないと、その子にとっての3つの要素を充たす「遊び」を補償してあげることができません。
遊びの3つの要素とは、①自分から②満足するところまで③楽しむことができることです。
対人不安の傾向がとても強い場合、まず考えるべきは子どもに安心してもらうこと、そして保育士との関わりを作ることです。
保育士との間に「この人は安心できる」「この人のことを見ていると、おもしろいことがある」という関係を作りたい。
そのためにはどうしたらいいでしょうか?

子どもに「安心感」と「楽しい遊び」の環境を用意するには?
保育士と子どもの間に安心できる関係を作り、その上でどうやって子どもに3つの要素を充たす「遊び」を補償していったらいいか。私は次のように考えています。1、安心できる環境を整える
5月のコラムでお話したように、感覚過敏や予測できない不安などへの対応をして、子どもが安心して、「遊び」に向かうことができる環境を整えます。具体例:「いつまで」がわかるように砂時計を使う、キッチンタイマーを使う、あと5分で終わりよと声をかける、「次になにをするか」がわかるように、「次は給食よ」と声をかけたりイラストを見せたりするなど。
2、「遊び」を紹介する
①新しい「遊び」を見せる例えば、ブロックを持って投げるだけの「遊び」に終始している子どもに、連結できる2つのブロックをくっつけたり、ブロックを積み上げるところを見せるなど。
②友だちが遊んでいる様子を離れたところから一緒に見る
例えば、しっぽ取りやボールを転がしてピンを倒す遊びなどを見せるなど。慣れてきたら、例えば「しっぽ取り」であれば、様子を一緒に見ながら「しっぽを取られないように逃げるんだね。」「しっぽを取られたら、あそこで座るんだね。」など、ゲームのルールをわかりやすく説明するようにします。
この際に気をつけたいのは、保育士は、淡々と「遊び」を紹介することに徹し、最初から関わりを強要しないことです。
子どもは、関わりを強要しない大人に、「この人は自分が嫌なことはしない」と安心感を持つようになります。
そして安心できる相手である保育士がすること、やってみせる「遊び」をじっと見るようになります。そしてそのうち、その中から自分で新しい「遊び」をみつけて遊ぶようになります。
3、「遊び」をサポートする
そのうち、子どもが今までしたことのない遊びに手をだしたり、やってみたそうにしたりすることがあります。そのときはその遊びが楽しめるようにサポートしてあげてください。
先ほどのブロックの例で言えば、繋げてみたいのにうまくできないようなら、手を添えて一緒につなげる。積み上げようとするが崩れてしまうなら、ちょっとバランスを整えてあげる・崩れないように下の積み木を支えてみるなどです。

一緒につなげたり、積み上げたりができるようになったら援助を少しずつ減らします。そして、だんだんひとりで楽しめるようになるようサポートします。
友だちと関わりながらする「遊び」に興味を示すようであれば、まず、他の子との関わりをつくるところからサポ-トを始めます。
まずは離れたところから集団活動を観察してもらう→朝の会などに参加する→絵本を他の子と一緒に見る→短時間でもブロックやままごと等の単純な「遊び」を一緒にできるように支援してみる、というように段階をふんで他の子どもとの関わりをつくっていきます。
大切なことは、無理ない範囲で、少しずつ少しずつ進めることです。
大人はどうしても「友だちと遊べる方が良い」「自由度の高い遊びの方が良い」と考える傾向があり、「良い方」ができるように子どもを持っていこう、導こうという思考が働いてしまいがちです。そうするとどうしても子どもに「求めすぎ」になります。
それは子どもにとってはストレスであり、それをする大人は子どもにとって安心できない人になってしまいます。
特に対人不安の強い子どもの場合、最優先に考えるべきことは子どもが安心することです。
その子にとって保育士が「安心できる人」であって初めて、子どもは保育士が「やってみない?」と誘うと、友だちと関わる遊びにも挑戦していけるようになります。
私自身心がけていることですが、関わりは少しずつ少しずつ。本当に薄紙を1枚1枚はがしていくように、少しずつ少しずつです。
子どもの今の状態にいきなり「ガツッ」と踏み込まないように気をつけることで、子どもは安心できると思うのです。子どもが「安心できる」ことをぜひ大切に考えてほしいと思います。
4、子どもの「遊び」を共によろこぶ
子どもが新しい「遊び」を楽しみはじめたら、「子どもが楽しんでいること」をぜひ一緒に喜んであげてほしいと思います。保育士が「〇〇くん 楽しいね」と子どもの「楽しさ」を一緒に喜んでくれると、子どもの遊びの楽しさは大きくふくらみます。
それは子どもがもっとやってみたい、と思う大きな原動力になります。

発達障害のある子の「遊び」をチェックする方法
3つの要素を満たす「遊び」を子どもに補償するために、もうひとつしていただきたいのが「子どもの遊びを点検する」ことです。子どもの「遊び」の場面を見て、その「遊び」をその子が①自分から②満足するところまで③楽しんでいるかを見るのです。
「遊び」の定義である3つの要素が充たされていないと思われる場合は、子どもの遊ぶ環境・「遊び」の内容や関わる人の人数や関わり方を検討し、どうしたらその子が3つの要素を満たす「遊び」ができるかを考え、必要な支援をしていきます。
「遊び」は子どものすべて
「遊び」は子どもの「今ここ」の幸せを形作るものです。そして「遊び」の中でこそ子どもは学び成長するという意味で、「遊び」は子どもの「未来」を形作るものでもあります。「遊び」は子どもにとって「すべて」なのです。
子どもひとり一人が①自分から②満足するところまで③楽しむこの3つを満たす「遊び」ができるよう、支援していきたいものです。
次回は、子どもに3つの要素を充たす「遊び」を補償するというテーマに関連する問題として「好きな遊びを見つけられない」を取りあげます。
加配保育士アンケートでも、対応に困る項目として挙がっている問題です。例えば次のような場合、どう考えればいいでしょうか。
「知的に重度で自閉スペクトラム障害のアオト君。ブロックや人形を渡してもぽいっと放り投げてしまうなど、なかなか園生活で好きな遊びを見つけられません。どのように園の指導内容を考えればいいでしょうか?」
発達障害のある子に限らず、「好きな遊びを見つけられない子ども」はいます。そういう場合の支援のヒントにもなるのではないかと思います。


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