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汐見稔幸先生に聞く「子ども主体の保育」の実践ポイント【インタビュー】

両手を前に出して話をする汐見稔幸先生
近年、「子ども主体の保育」に取り組む園が増えてきました。しかし、その実践について課題感を持っているところも少なくありません。そこで今回は、『子ども主体の保育をどのように具体化していくか』というテーマでWebセミナーに登壇いただいた汐見稔幸先生にお話を伺いました。

「子ども主体」の意味をもう一度考える

「子ども主体の保育を実践しよう」という動きは、近年多くの園で見られます。しかしその取り組みの中で、
  • 「子ども主体で保育をすると、園生活での規律との線引きが難しい」
  • 「わがままと子ども主体の違いは?」
  • 「具体的に保育者は何をすれば良いの?」
など、さまざまな疑問や課題が挙がってきています。

ほいくisメンバーと園会員向けに配信をしているWebセミナーでは、このような課題感を受けて、『子ども主体の保育をどのように具体化していくか~特に発達過程、環境による保育に注目して~』と題した講座をお送りしています。

登壇者はこの分野の第一人者であり、講演や執筆、メディア出演など多方面で活躍中の汐見稔幸先生。長年にわたり保育業界の変遷を見てきた先生ならではの視点から、これまでと現代の保育の違いや、本来的な意味での「子ども主体の保育」で大切なこと、現場で実践するために必要なことなどをお話しいただきました。

今回のインタビューは、収録直後の汐見先生に、セミナーのテーマに関連したさまざまな質問にお答えいただきました。
※ほいくisでしか見られないWebセミナーは、メンバーもしくは園会員の登録(無料)をするだけで視聴することができます。もちろん視聴も無料。ぜひこの機会にメンバー登録をして、皆さんの学びにお役立てください。 

「子ども主体の保育」の実施が約7割

指を立てながら話をする汐見稔幸先生

事前に公式Instagramでアンケート調査を実施したところ、子ども主体の保育を「推進している」「どちらかというとしている」と答えた保育者の割合が約7割(※)に上りました。この状況についていかがでしょうか? 

保育所保育指針の策定に関わった私たちからすると、「ようやく7割まできてくれたな」という気持ちです。実は「子ども主体の保育にしていこう」となったのは、既に30年近く前なんです。しかしなかなか実態は変わらず、子ども主体の保育を実践しようとした園では、「子ども主体」ではなく「放任」になってしまうなど、混乱もありました。

子ども主体の保育が「放任保育」と間違われることは今でも度々ありますね。この違いが理解されていくにはもう少し時間がかかるのではないでしょうか。


どこまでを「子ども主体」とするのかで迷っている保育者も多いと感じられます。「子ども主体」と「放任」の線引きについて、今一度考えていきたいですね。 セミナー本編では、汐見先生が考える「子ども主体」の定義について、分かりやすくお話しいただいていますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
※<アンケート調査について> 
調査期間:2022年10月4日(1日)/調査方法:Instagramでアンケートを実施/調査対象:Instagramユーザー/有効回答数:1問目「Q.お勤めの園では、 『子ども主体の保育』を推進していますか?」2,096件、2問目「Q. 『子ども主体の保育』を実践する上で課題に感じていることは?」133件(フリー記述) 

日本の保育の人手不足問題

子ども主体の保育を実践するにあたり、「人員不足」を課題として挙げている園も多くありました。「一人ひとりのやりたいことを尊重すると人手が足りない」ということですが、これについてはいかがですか?

日本の保育は、間違いなく人数が足りません。保育士1人で30人の子どもを見なければいけないというのは、他の先進国ではまずありません。最近では、多くの自治体が「これでは良くない」と、30人に対しては2人の保育者を配置するなど改善に取り組んでいますが、それでもまだまだです。2023年からは子ども家庭庁が発足するので、人員不足問題の改善に取り組んでほしいですね。

ただし注意しなければいけないのは、「子ども主体の保育」の意味を取り違えて、「子どもに全部を任せること」だと思ってしまう誤解。その結果、「人が足りない」ということとは違います。子ども主体はすべてを子どもに任せることではないので、そこは保育のやり方を工夫してほしいですね。


「子ども主体は、子どもに任せることではない」というお話が印象的でした。本来の意味での「子ども主体の保育」の実践方法を学んでいきたいですね。

保育室を“アトリエ”に

笑顔で対話をする汐見稔幸先生

「子ども主体の保育」について、職員間での理解度の差を課題として挙げている園もありました。

「子ども主体の保育がどういうことか?」というのは、必ずしも「こうだ」という共通理解があるわけではないんです。保育所保育指針を読んでも、それは分かりません。しかし、一つ言えることは、「子ども主体の保育」というのは「環境をうまく作る保育」なのだということです。

子どもが落ち着いて遊びに集中できるような環境、例えばボードゲームがあったり、ブロックがあったりと、さまざまなコーナーが用意されていること。保育室を“アトリエ(作業場)”にしていくという視点が確立しないと、本来の意味での「子ども主体の保育」は難しいと思います。

子どもを観察していく中で、「こんな遊び方をするんだ」ということが分かってくると、保育室をアトリエにして環境を作る保育を少しずつ理解していくことができます。だからこそ、毎日5分や10分で良いので、子どもの姿を保育者同士で語り合う時間を持ってほしいですね。子どものすごいところや面白いところを語り合うことで、理解が深まっていきます。


保育者は、子どもたちが遊びに没頭できる環境を作り、そこで活動する子どもたちを見守ること。そして、そこで見つけた子どもたちの持つ発想力を共有することが、「子ども主体の保育」を園を掲げて実践していくことに繋がるのですね。

行事は「結果を見せる」ためのものではない

対面で話をするまゆか先生と汐見稔幸先生

「保育内容や年間カリキュラムが決まっている中で、子どものやりたいこととどうすり合わせるのか?」という課題を挙げる園もありました。どう折り合いをつけると良いでしょうか?

昔は、「結果を出してそれを親に見せる」という保育でした。見せるために、ずっと前から運動会や生活発表会の練習をして、子どもたちは「させられている」感が満載。子どもたちが自由に活動する時間が、行事のために減っていくんです。

そうではなく、行事は普段子どもたちがこんなことをやっているというのを、「保護者も一緒にやろう」「思い切り楽しく遊ぼう」という日です。普段の保育の様子をオープンにしていく。そういう内容に切り替えていってほしいですね。


「行事=見せる保育」になっているという言葉に、思わずハッとさせられました。保護者に完成形を見せるのではなく、日々の保育でできるようになったことや、普段のありのままの姿を、共に見守っていく時間にしていくことが大事なんですね。

保育者に役立つ内容が盛りだくさん!

汐見先生のセミナーとインタビューを聞いて、改めて「子ども主体の保育」の意味を考えるきっかけをいただきました。課題感を持っている園関係者や保育者の皆さんにも、ヒントになる内容だったのではないでしょうか。

汐見先生によるWebセミナーは、ほいくisでしか聴講できない特別な講座。この機会にぜひ会員登録をして、学びの機会として役立ててくださいね。
 
<プロフィール>
汐見稔幸(しおみ としゆき)
一般社団法人家族・保育デザイン研究所 代表理事
東京大学名誉教授・白梅学園大学名誉学長・全国保育士養成協議会会長・日本保育学会理事(前会長)
専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。自身も3人の子どもの育児を経験。保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』編集長でもある。持続可能性をキーワードとする保育者のための学びの場「ぐうたら村」村長。NHK E-テレ「すくすく子育て」など出演中。

<著書> 
・『子どもの「じんけん」まるわかり』2021年(ぎょうせい)
・『教えから学びへ』2021年(河出書房新社)
・『今、もっとも必要な これからのこども・子育て支援』2021年(風鳴舎)
・『エール イヤイヤ期のママへ』2021年(主婦の友社)
・『エール プレ思春期のママへ』2021年(主婦の友社) 
・『保育者のためのコミュニケーション・トレーニングBOOK』2019年(ぎょうせい)
・『0・1・2歳児からのていねいな保育』 全3巻 2018年(フレーベル館)
・『汐見稔幸 こども・保育・人間』2018年(学研)
・『「天才」は学校で育たない』2017年(ポプラ社) 
・『人生を豊かにする学び方』2017年(筑摩書房)
・『さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか』2017年(小学館)、ほか多数。

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ほいくis(ほいくいず)編集部

この記事を書いた人

ほいくis(ほいくいず)編集部

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