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宮里暁美先生が語る自己肯定感の育み方とは?現場で保育所保育指針を活かす方法【インタビューVol.3】

お茶の水女子大学教授の宮里暁美先生
お茶の水女子大学の教授として、また認定こども園の園長として、保育の第一線で活躍する宮里暁美先生インタビュー企画最終回。最後は、平成30年(2018年)4月より適用されている改定が行われた保育所保育指針について。指針の中に新しく組み込まれた乳児保育の内容や、自己肯定感の育み方、指針をもとにした指導計画の作成についてなど、幅広く伺いました。

0歳から子どもは“する”存在

平成30年(2018年)4月より保育所保育指針の改定が適用され、その中で乳児保育についての記載が増えましたね。

乳児保育においては、「健やかに伸び伸びと育つ」「身近な人と気持ちが通じ合う」「身近なものと関わり感性が育つ」という3つの柱ができましたね。

子どもは能動性のかたまりで、0歳からさせられる存在でなくする存在であると思っています。

食事ひとつ、着替えひとつとっても、子どもは世話をされる存在に見えてしまいます。もちろんそれによって命を保っている部分もありますが、それでもその子はもうかけがえのないひとりです。愛情を持って世話をされる存在であり、そこには意思があります。だから、「今じゃない」って泣いたり、「あっちがいい」と動いたりするんです。

乳児期から、子どもの意思を大切にした保育をしたいですね。ただ、乳児クラスや1歳児クラスでは特に給食の時間などが忙しく、なかなか一人ひとりと向き合っていられない、という場面も目にします。

お茶の水女子大学こども園の0歳児クラスでは、1対1や2対1で食事をしています。子どもの生活リズムは、一人ひとり違いますよね。早く登園する子は早く眠くなりますから、早めに食事をします。そのあとに次の子どもが食べて、また次の子どもという具合に、時間差保育をしていますよ。1、2歳児クラスでも同じ考え方で行っています。
午睡でも、「みんなで一緒に寝ましょう」というと、眠くない子の空気につられてしまうんですよ(笑)。でも、眠い子たちはご飯を食べるとスッと眠る、その様子を見ている他の子たちも自然とその空気につられていくんです。

もちろん、現実ではなかなかむずかしいと言われてしまうかもしれませんが…。ずらすというのは、実はすごく効果的だと思っています。

もし、余裕があれば、一度時間差保育というのも実践してみてほしいですね。

笑顔と平等で自己肯定感を育む

自己肯定感を育む保育についても書かれていますが、保育者の関わりのポイントはありますか?

笑顔ですね。自己肯定感を育むというと、「褒める」ことに注目しがちですが、誰かを褒めるというのは、「誰かを褒めない」ことの裏返しになってしまう場合もあるなと思っています。

例えば子どもが上手な絵を描いたとしたら、「上手ね」と声をかけるのではなく、「〇〇ちゃんはこれが好きなんだね」とか、「このくまさん、何かお話ししそうね」と声をかけると、そこから話が弾んだりする。笑顔で一緒に面白がってみるというのがいいですね。

自己肯定感というのは、自分は自分のままでいいよ、人と違う自分が好きだよ、と感じることだと思うのです。

レベルでなく、その中身に注目する声かけというのは素敵ですね。

もうひとつは、平等であること。それは簡単なようで意外とむずかしいんです。ついつい「〇〇ちゃんはいつもおもしろいことをするよね」とか「△△ちゃんっていいよね」となってしまいますよね。

これは、私がとても信頼している先生の保育を見ているときに気付いたことです。その先生の周りで、子どもたちがパズルをやっていたんです。そうするとひとりの子が「できた!」と言って、それを見た先生が笑顔で「できたのね」と声をかける。

少しずれて他の子が「できた!」というと、さっきと同じような笑顔をその子にも向ける。それを見たとき、子どもが欲しいのは誰に対しても同じように接してくれる先生なのかもしれない、と感じました。”誰に対しても同じ笑顔を向けられる”ってすごいことだと思いました。
自分の保育を振り返ってみて、「私はあの子の名前ばかり呼んでいるな」と思ったら、見方が偏っている証拠です。誰にも変わらない目を向けられるというのは大事ですね。

遊びの中でも、いつもよくできる子よりも、普段はうまくいかない子が成功したときの方が盛り上がってしまいますよね。

もちろん、普段うまくいかない子ができたときには、その子の悪戦苦闘の末という喜びがあるのでそれもいいかと思います。でも、いつもできる子も、その子にとってはいつも新しい気持ちで「できた!」と思っているかもしれません。どの子にも、変わらない「認め」をする必要があるのではないでしょうか。



 

子どもの可能性を見た指導計画を

宮里 暁美(みやさとあけみ)
国立大学法人お茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所教授 兼 文京区お茶の水女子大学こども園 園長。
子どもの姿に「耳をすますこと、目をこらすこと」を心がけ、30年以上、保育の現場や保育者養成に従事。2016年4月より現職。著書・監修に『子どもたちの四季』(主婦の友社)、『0-5歳児子どもの「やりたい!」が発揮される保育環境』(学研)など。3児の母。

保育所保育指針の大切なポイントを知ったところで、それをもとにした指導計画についてお聞きしたいと思います。指導計画に苦手意識を持っている先生も多いですが…。

神奈川県横浜市にある、ゆうゆうのもり幼保園の園長先生が言うには、「計画は旅のプランを考えるみたいに立てるといい」と。ワクワクしながら立てるといいということですね。私はそれに加えて、子どもの可能性を見ながら立てていくと良いと思います。

スタートからゴールまでを決めてしまう計画はおもしろくない。でも、こんなふうになってもいいし、こんなこともあるかもしれない、とバリエーションがある計画を考えられると、楽しい保育ができるはずです。

計画はアウトラインみたいなもの。そのときどきの子どもの様子を文字や写真で残しておくと、次のプランに生きると思います。

指導計画に沿って保育をしなきゃ、と思うとつらくなってしまうこともありますよね。

指導計画を作成する意味は、一つひとつの遊びや行事を唐突なものにしないことにあると思います。子どもの活動の関連性や流れが見えますよね。

私は、計画立案に時間をかけすぎることには反対なんです。もっと子どもといる時間をみずみずしいものにした方が良いです。子どもの生み出してきた遊びや、その季節やその時期だからこそ経験してほしいことは何か?という点を考えて配置していくのが指導計画ではないでしょうか。

計画に頼りすぎずに、目の前の子どもの動きを見て計画をしていきたいですね。宮里先生の実体験から学べることが多く、大変実になりました。ありがとうございました!

   
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