運営事業者に聞いてみた
2017年(平成29年)4月からスタートした「保育士等キャリアアップ研修」制度。既に受講している方もいると思います。何となく「受講するとお給料が上がる制度」と捉えるのも間違いではありませんが、保育士としてのレベルアップやキャリアパスの選択肢を広げていくためには、もう一歩踏み込んで理解しておくことをおすすめします。そこで今回は、保育士等キャリアアップ研修の運営を手掛ける「家庭ラボ」の上田 瑛さんに、保育士が知っておくべき制度のポイントを伺いました。聞いておいて良かったという話もたくさんあるので、チェックしてみてくださいね。
制度が作られた理由
まずは基礎知識として、保育士等キャリアアップ研修制度が作られた背景についてお聞きしました。そもそもなぜこういった制度が作られたのか? その背景について教えてください。
保育園を会社に例えると、図のいちばん下の「保育士」が平社員になります。その上となると、これまでは「主任保育士」「園長」だけというのが一般的でした。
実質3階層しか無かったということですね。
そうです。これだと、一般の会社でいうところの「出世」や「昇進」のようなキャリアアップのイメージがしにくいという問題がありました。
昇給やキャリア形成に対するモチベーションの維持にも課題がありそうですね。
なるほど。その中間の役職が「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」ですね。
加えて、以前から保育士の給与水準が低いという課題がありました。そこで、この仕組みとの合わせ技で処遇改善を図る仕組みが立ち上げられた訳です。
ちょっと読み辛いですが、これが「処遇改善等加算Ⅱ」という制度ですね。
そうです。簡単に言うと、「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」等に就任するだけでなく、決められたキャリアアップ研修を受講することで要件を満たせば、その方は加算の対象者になります。園にはその分の加算額が支給され、そこから対象者の役職によって月5千円~4万円の手当が保育士に支給される仕組みです。
キャリア階層の創設と保育士のスキルアップ、お給料の改善といった課題を一気に解決しようという狙いで作られた制度なんですね。
役職・受講・給与の素朴な疑問
制度創設の背景や仕組みについて知る中で、いくつか素朴な疑問が出てきました。引き続き、その点について質問をぶつけてみました。実際の役職はどうなっている?
新設された階層のうち、中核リーダー(ミドルリーダー)にあたる階層が「副主任」と「専門リーダー」に分かれているのはなぜですか?
一般的な会社で例えると、ゼネラリスト(総合職)とスペシャリスト(専門職)と同じイメージかなと。役職が上がっても現場で子どもと向き合っていたいという保育士さんも多くいらっしゃいますので、キャリアパスの選択肢として分けられたのだと思います。
なるほど。役職名や業務内容などについては何か決まりがあるのでしょうか?
いいえ、特に決まりはなくて基本的に各園の裁量に任されています。園の規模によっても事情は異なりますし、そのあたりは柔軟に運用されていますね。
例えばどんな例があるのでしょうか?
低年齢児を担当する「乳児保育リーダー」や、以上児を担当する「幼児保育リーダー」などですね。また、食育を推進する「食育リーダー」や、園の情報発信をする「広報担当リーダー」なども聞いたことがあります。
受講はどうなっている?
研修の形式は全国一律なんでしょうか?
いいえ、自治体によっても異なりますし、研修実施機関によっても異なります。2、3年前までは対面型の会場研修が主流でしたが、コロナ禍以降はオンライン型の研修が一気に増えました。すべてオンラインで完結する研修形式のところもあれば、一部は会場で対面での演習が必須というハイブリッド型のところもあります。
まずは園のある自治体や研修実施機関の実施内容を確認する必要があるということですね。
そうですね。自治体によっては実施機関が少なくて受講枠が足りないというところもあり、地方にお住まいの方が東京のオンライン研修を受講するなど、都道府県をまたいで受講される方も一定数いらっしゃいます。キャリアアップ研修の修了証は全国で有効ですので、その点も考慮して選んでいただけるといいですね。
いつ・いくら給与に反映される?
研修を修了したら、お給料にはいつ反映されるのでしょうか?
まず押さえておきたいのは、支給の時期や金額は園の裁量に任されているという点です。修了した年度の途中からでも支給されるのか、もしくは次年度になるのかはケースバイケースで、所属園に確認する必要がありますね。
支給額についてはいかがですか?
園に対するルールとして「4万円以上支給する人を最低1人は確保する」という縛りはありますが、それ以外の配分は園の裁量となります。「4万円」「5千円」という金額の印象が強いですが、実際には個別の園の状況に合わせて金額の幅があります。
受けた研修がきちんと給与に反映されているかを知るためにも、園には確認しておきたいですね。
これからどうなる?
続いて、キャリアアップ研修の制度がこれからどうなっていくのかについてお聞きしました。段階的に受講が促進されていく
ここ最近、研修を受ける方が増えているように感じます。何かルールはあるのでしょうか?
実は国からの通達があり、園が令和5年度以降にキャリアアップ研修に紐づく処遇改善の加算を職員に配分するためには、副主任(中核リーダー)については「令和4年度までに対象者は1分野(もしくは15時間以上)の受講が必須」、職務分野別リーダー(若手リーダー)については「令和5年度中に対象者は1分野(もしくは15時間以上)の受講が必須」となりました。
園としては対象者の受講を促進しないと、お給料に反映することができない訳ですね。
そうです。もしこの要件を満たすことができず、処遇改善のために園に加算されたお金を配分しきれなかった場合は「返してね」となります。また、令和5年度以降も段階的に要件のハードルは上がっていくので、園としても推進する動きは続いていくと思われます。
保育士の転職にも有利?
もしキャリアアップ研修を修了した人が、転職などで他の園に移った場合も有効なのでしょうか?
はい、修了履歴は個人に紐づくので、所属園が変わっても有効ですし、都道府県が変わっても有効です。保育士採用をしている園にとっても、これからはキャリアアップ研修の修了履歴は必須で確認する要素になってくると思います。
転職する保育士さんにとっては、キャリアアップ研修を修了していることは有利になりますか?
今後はそうなっていくと思います。園内でのキャリアアップのためだけでなく、客観的に自分自身のキャリアを証明する材料にもなります。そういう意味では、機会があるのであれば、受講することを強くおすすめします。
第1回では、保育士等キャリアアップ研修制度の基本的な仕組みについてお伝えしました。次回はさらに深掘りをしていきたいと思いますので、お楽しみに。