運営事業者が実施内容を解説
2017年(平成29年)4月にスタートした「保育士等キャリアアップ研修」制度ですが、2023年度(令和5年度)からは処遇改善の加算要件が段階的に引き上げられていくため、受講者の増加が見込まれています。受講を予定している方にとっては、その中身が気になるところ。その点を深掘りするため、前回に引き続き保育士等キャリアアップ研修の運営を手掛ける「家庭ラボ」の上田 瑛さんにお話を伺いました。スキルアップできる機会をしっかりと活かすためにも、ぜひチェックしてみてくださいね。
研修分野と特徴
まずはどんな研修分野で構成されていて、それぞれどんな特徴があるのかについてお聞きしました。構成と受講要件は?
まずは基本的な研修分野全体の構成から教えてください。
大きく分けると、6つの専門分野と対象者別に2つの分野があります。下の表の①~⑥が専門分野。その下の「マネジメント」は、中間管理職(ミドルリーダー)向け、「保育実践」は、初任者や実習経験の少ない保育士試験の合格者、ブランクのある潜在保育士といった方を想定しています。
分野 | ねらい | 内容 |
乳児保育 (主に0歳から3 歳未満児向けの保 育内容) | ・乳児保育に関する 理解を深め、適切な環境を構成し、個々の子どもの発達の状態に応じた保育を行う力を養い、他の保育士等に乳児保育に関する適切な助言及び指導ができるよう、実践的な能力を身に付け る。 | ○乳児保育の意義 ○乳児保育の環境 ○乳児への適切な関わり ○乳児の発達に応じた保育 内容 ○乳児保育の指導計画、記録 及び評価 |
幼児教育 (主に3歳以上児 向けの保育内容) | ・幼児教育に関する理解を深め、適切な環境を構成し、個々の子どもの発達の状態に応じた幼児教育を行う力を養 い、他の保育士等に幼児教育に関する適切な助言及び指 導ができるよう、実践的な能力を身に付ける。 | ○幼児教育の意義 ○幼児教育の環境 ○幼児の発達に応じた保育 内容 ○幼児教育の指導計画、記録 及び評価 ○小学校との接続 |
障害児保育 | ・障害児保育に関する理解を深め、適切な障害児保育を計 画し、個々の子どもの発達の状態に応じた障害児保育を行う力を養い、他の保育士等に障害児保育に関する適切な助言及び指導ができるよう、実践的な能力を身に付ける。 | ○障害の理解 ○障害児保育の環境 ○障害児の発達の援助 ○家庭及び関係機関との連携 ○障害児保育の指導計画、 記録及び評価 |
食育・アレルギー 対応 | ・食育に関する理解を深め、適切に食育計画の作成と活用ができる力を養う。 ・アレルギー対応に関する理解を深め、適切にアレルギー対応を行うことができる力を養う。 ・他の保育士等に食育・アレルギー対応に関する適切な助言及び指導ができるよう、実践的な能 力を身に付ける。 |
○栄養に関する基礎知識 ○食育計画の作成と活用 ○アレルギー疾患の理解 ○保育所における食事の提供 ガイドライン ○保育所におけるアレルギー 対応ガイドライン |
保健衛生・安全対 策 | ・保健衛生に関する理解を深め、適切に保健計画の作成と活用ができる力を養う。 ・安全対策に関する理解を深め、適切な対策を講じることができる力を養う。 ・他の保育士等に保健衛生・安全対策に関する適切な助言及び指導ができる よう、実践的な能力を身に付ける。 |
○保健計画の作成と活用 ○事故防止及び健康安全管理 ○保育所における感染症対策 ガイドライン ○保育の場において血液を介 して感染する病気を防止す るためのガイドライン ○教育・保育施設等における 事故防止及び事故発生時の 対応のためのガイドライン |
保護者支援・子育 て支援 | ・保護者支援・子育て支援に関する理解を深め、適切な支援を行うことができる力を養い、他の保育士等に保護者支援・子育て支援に関する適切な助言及び指導ができるよう、実践的な能力を身に付ける。 | ○保護者支援・子育て支援の 意義 ○保護者に対する相談援助 ○地域における子育て支援 ○虐待予防 ○関係機関との連携、地域 資源の活用 |
マネジメント | ・主任保育士の下でミドルリーダーの役割を担う立場に求められる役割と知識を理解し、自園の円滑な運営と保育の質を高めるために必要なマネジ メント・リーダーシップの能力を身に付ける。 | ○マネジメントの理解 ○リーダーシップ ○組織目標の設定 ○人材育成 ○働きやすい環境づくり |
保育実践 | ・子どもに対する理解を深め、保育者が主体的に様々な遊びと環境を通じた保育の展開を行うために必要な能力を身に付ける。 | ○保育における環境構成 ○子どもとの関わり方 ○身体を使った遊び ○言葉・音楽を使った遊び ○物を使った遊び |
>>参考:保育士等キャリアアップ研修の実施について|子ども家庭庁
「保育実践」分野だけ目的が少し異なるようですね。
そうですね。この分野のみ、経験の浅い方やブランクのある潜在保育士さんのフォローアップが目的となっています。処遇改善の加算対象になっていないこともあり、自治体や研修実施機関によっても実施しているところとしていないところがあります。
実際に受講者は、どの分野をどれだけ受ければ良いのでしょうか?
なるほど、目指す役職によって変わってくる訳ですね。
人気の専門分野は?
専門分野について質問ですが、そもそもなぜこの6分野になったのでしょうか?
キャリアの中堅クラスを想定したときに、持っておくべき「保育の専門性」について専門家が議論を重ねた結果、この分け方になったということですね。
6つの専門分野のうち、人気の高い分野はどのあたりでしょうか?
「乳児保育」「幼児教育」が人気ですね。日々の保育に直結する分野ということもあり、最初に受ける方が多いようです。内容としては、全体をまんべんなくおさらいしていくようなイメージですね。そこに続くのは、「障害児保育」でしょうか。
「障害児保育」が関心を集める理由として何が考えられますか?
実際に障がい児を受け入れている保育園もありますが、それ以外にいわゆる「気になる子」への対応や知識を学びたいという方もいらっしゃいます。子どもの発達についても学べる分野なので、その観点からも受講される方が多いのではないかと思います。
研修を実施する側の視点からおすすめしたい研修分野はありますか?
「食育・アレルギー対応」「保健衛生・安全対策」「マネジメント」の3つですね。これらは、保育士さんが普段なかなか得られない専門分野の知識です。大学の先生など、その分野の専門家が教える内容はかなり実践的でおすすめです。
「マネジメント」については、具体的にどのような点がおすすめでしょうか?
一例で言うと、職場の人間関係改善に繋がる方法について教えてくれることがあります。どちらかと言うと一般的な社会人向けのセミナーに近いですが、スキルアップだけでなく人間として成長できる要素がたくさんあり、すごく勉強になりますよ。
参考:保育士等キャリアアップ研修の実施について/子ども家庭庁
研修内容と受講料
研修分野の概要について理解が深まったところで、続いては研修の形式や受講料などについて質問をぶつけてみました。15時間の研修の内訳は?
前回の基礎編 で、「コロナ禍以降にオンライン形式での実施が増えた」というお話がありました。現在実施されている研修の形式についてもう少し詳しく教えてもらえますか?
ガイドラインで研修時間が「1分野あたり15時間以上」と定められているため、多くの研修では1分野で15時間が基本となっています。また、東京都でオンライン研修を実施する場合、15時間のうち3時間は演習やグループ討議など、一方向の講義形式ではない双方向での研修を実施する必要があります。そのため、下記の4パターンが実施される形式としては多いです。
- 12時間分が講義形式のオンデマンド配信/3時間分がTV会議システム(Zoomなど)による双方向でのオンライン演習・グループ討議
- 12時間分が講義形式のオンデマンド配信/3時間分が会場での演習・グループワーク
- 15時間分すべてが会場での集合型研修
- 15時間分すべてがTV会議システム(Zoomなど)によるライブ型研修
なるほど。すべてWeb上で完結する研修もあれば、会場に足を運ぶ研修、それぞれを組み合わせたハイブリッド形式の研修もあるのですね。
そうですね。いずれにしろ自治体や研修実施機関によって研修形式が変わってきますので、まずは園のある自治体や研修実施機関に確認してみてください。
研修の内容については、実施機関によって特徴があったり、変わったりするのでしょうか?
ガイドラインで研修の「ねらい」と「章立て」は決められているので、大枠の部分で言うと実施団体によって変わることはありません。変わるとすれば、章立ての中で具体的に何を教えるかは講師の特徴によるところはありますね。
受講料はかかる?
研修の概要と中身について分かってきたところで、気になるのは受講料です。こちらの仕組みについて教えてください。
自治体によって受講料免除のような補助があるところ・ないところがあるので一概には言えないですね。補助がある例で言うと、東京都については下記の表のような施設形態毎の条件で受講料免除を実施しています。
公立の認可保育所は受講料免除の対象外なんですか?
そうですね。東京都に限らず、公立の園で働いている方は研修制度(処遇改善等加算Ⅱ)の対象外となります。公務員なので、キャリアパスも公務員の制度に則っているという考え方になります。
補助が無い自治体にある園の方は自費で参加しているのでしょうか?
個人が自費でというケースも無いとは言えませんが、園の経費で参加されている方が一般的かなと思います。
ありがとうございました。
次回は受講時のポイントを解説
シリーズ第2回では、保育士等キャリアアップ研修制度の具体的な内容や実施形式について深掘りしました。次回は、実際に研修を受講する際のポイントについてお伝えしていきたいと思います。お楽しみに。