子どもが遊びに没頭するときの“フロー体験”とは?
今回のエピソードでご紹介する“フロー体験”とは、心理学の用語「flow」のこと。人間が「いま、していること」に完全に集中しているときの心理状態を指します。よく、スポーツ選手が驚異的な集中力を見せるとき、“ゾーンに入る”などと表現されますが、それと同じような感覚のものです。大人になると、日常生活ではなかなか体験できない感覚です。
―ひとつの活動に完全に没頭し、極限に集中している状態。
保育の現場では、子どもたちが遊びに夢中になっている状態を “遊び込む”とよく言いますが、そんな状態が“フロー体験”に近いのではないでしょうか。
保育園や外遊びのシーンで、子どもが集中力を発揮して“遊び込む”とき、保育者はどのように関わっているのが理想的なのでしょうか?
保育者は「遊びに没頭する子どもたち」にどう関わる?
私が小さな保育室を立ち上げて間もない頃のお話しです。蒸し暑い日の夕方、0〜1歳児の子どもたちと一緒に保育室で過ごしていた時のことです。私が積み木を積み上げていると、それを真似て、もっと高くしようと1歳児の男の子Sくんも積み木を積み上げ始めました。
初めはいくつか積んで、崩れるのを楽しんでいたSくん。そのうち、もっと高く積みたいと思ったようで形合わせの箱型のおもちゃを持ってきて、その上に積み木を積み始めました。
どうしたらより高くなるか、チャレンジしているような様子でした。
だんだん自分の胸くらいの高さになってくると、一つ乗せては「わぁ〜!できた〜!」と喜び、もう一つ乗せては「わははは!」と飛び上がって喜んでいました。
積み木以外のおもちゃも組み合わせて、工夫しながらだんだん高くなっていくその遊びは、ただの積み木遊びではなく、作品のようになっていきました。
そうなってくると、他の子どもたちも気になりだします。0歳児のKちゃんが近づくと、Sくんは「だめぇ〜〜」と言いながら、自分の積み木を崩されないように守っていました。
そこへ、もう一人1歳児の男の子のYくんがさりげなく近づき、積み木を一つ高いところに乗せました。私は、“Sくんが嫌がるかな?”と思ってみていると、Sくんは「すご〜い!」と喜んで、すんなりとYくんの積み木を受け入れました。
その後も、二人で一緒に一喜一憂しながら積み重ねていくうちに、Yくんが積み木を乗せた瞬間、それまで時間をかけて積んでいたものが大きな音を立てて崩れてしまいました。
“怒るかな〜”という私の心配をよそに、Sくんは、「わ〜!あはは!!もいっかい!」と言って、崩れることも楽しんでいました。Yくんも一緒に楽しみながら、高く積んでは崩す…ということに、30分以上汗をびっしょりかきながら、夢中になって遊んでいました。
そして、0歳児のKちゃんもそれを見て、自分も加わっているかのように、周りでウロウロし、崩れると一緒に「きゃ〜!」と奇声をあげ、手を叩いて喜んでいました。他の子どもたちもそれを横目で見ながら、なんとなく一緒に楽しんでいるような様子でした。
この時の子どもたちの様子を今でも度々思い出します。
遊びに没頭し、夢中になっているその子どもたちの姿は、フロー状態でした。ただシンプルに積み上げて崩れるということを、夢中で楽しむその姿がとても印象的でした。
保育士の先生が“遊び込む”状態を疑似体験してみると?
先日、ある保育園の研修の中で、先生方にシンプルな課題を出し、それをみんなで解決するというアクティビティを行いました。その時の先生方は、課題に夢中で取り組み、何度も試行錯誤し、達成に向かってみんなで取り組んでいました。その姿はまさにフロー状態でした。
あとで先生方に「私(野村)の存在ってどんな存在でしたか?」と聞くと、「あれ?」といった表情をしていました。
子どもたちが何かに没頭している時、そこには保育者が存在しているという意識はありません。
その体験そのものが、子どもたち自身のものになっている証拠です。保育者は、ちょっと寂しいかもしれませんが、それで良いのです。
【ほかおすすめの自然体験コラムはこちら】