保育園での給食について
毎日の食事は、成長・発達が著しい乳幼児期の子どもにとってとても重要なものです。この時期にさまざまな体験を通して食に興味・関心を持つことは、生涯にわたり豊かな食生活を送るためのきっかけとなります。特に保育園に通う子どもの中には、母乳やミルクから離乳食、離乳食から幼児食へと移行する時期を迎える場合も多く、保育園給食での食環境が与える影響も大きいと感じます。各家庭や地域と連携を取りながら、保育園でしかできない、保育園だからこそできる食体験をより多くさせてあげることが大切です。
給食の役割
保育園だからこそできる食体験とは、具体的にどのようなことがあるでしょうか。それは、保育園は家庭とは異なり「集団生活」を送る場であることを考えると明確になります。保育園の給食が持つ役割は、ただ単に乳幼児期に必要な栄養を摂取することだけではありません。給食を通してルールやマナーについて学び、お当番により社会性や協調性を身につけるなど、保育の中の一部門として重要な要素の1つです。
また、親以外の信頼する大人(先生)や友だちとコミュニケーションを取りながら食べることは、集団生活である保育園だからこそ味わえるものであり、家庭では経験できません。保育園給食を通して食べたいものや好きなものが増え、そして何より「食べることって楽しい!」と思えることが最終的な目標であり保育園給食の大きな役割と言えます。
食育の重要性
近年、偏った食事や偏食などの食生活の乱れ、子どもの「孤食」などが問題視されています。これらは子どもの肥満ややせ、体力の低下、学力の低下にも関係するため、生涯にわたり健やかに生きていくためには乳幼児期からの食育が重要となります。とはいえ、行事など何か特別な活動をすることだけが「食育」というわけではありません。毎日の給食の時間は何よりも重要な「食育の場」ととらえ、まずは食べることが好きなるような環境づくりや声掛けを意識することが大切です。
好き嫌い・偏食がある子どもへの対応
Q. 一口も食べずに嫌がる子に対し、一口無理にでも食べてもらってますか?(味を知るため)
管理栄養士佐藤の回答
「一口食べてみたら意外と美味しくて食べられた」ということもあるため、まずは一口試して見て欲しいと感じますよね。しかし、声掛けをしてもどうしても嫌がる子どもに無理強いしてしまうと、給食の時間自体が嫌になり逆効果にもなり得ます。まずは、声掛けを工夫してみましょう。ある特定のおかずのみを嫌がるのには、何か子どもなりの理由があるはずです。
例えば、「野菜炒めに入っているピーマンが苦手だから食べたくない」「盛りつけされている量が多く感じてハードルが高くなっている」「過去に食べて美味しくなかった経験がある」などが挙げられます。
自分の意思を説明できる年齢であれば、理由を本人に聞いてみましょう。苦手な具をお皿の端に寄せてそれ以外なら食べられるのか、量が多いのなら食べられそうな量を本人に決めてもらいお皿の中で分けてもらう、など嫌がる原因を探り解消するための工夫を本人と一緒に考えることが大切です。
とはいえ、過去に美味しくなかった経験がありどんな工夫をしても嫌がる場合は、食事自体が嫌になってしまわないように、無理強いせずにほかのおかずで満たしてもらう妥協も必要です。
Q. 1歳児で自分の好きなもの以外、口に入れてもすぐべーっと出してしまう子はどう対応していますか?
管理栄養士佐藤の回答
1歳児が口からべーっと出すことはよくあることですが、必ずしもそれが苦手なもの・嫌いなものというわけではありません。どんどん新しい食感や匂い、味を経験していく時期で、私たち大人が当たり前に知っている味や匂い、食感は1歳児にとってはまだまだ冒険であることをまず頭に入れておきましょう。その上で、好きなものは食べてそれ以外をべーっと出してしまうということは、そのおかずに対して何か違和感があるということです。
「今まで食べたことのない(または慣れていない)食感や匂い、味だった」という場合は、保護者に相談して似たおかずを家庭でも作ってもらうことで、その味に慣れていき好きになってくれるかもしれません。
また、1歳児なら気分でべーっと出している場合もあるため、好きなものを食べる合間に一口ずつ食べさせたり、少し大げさ気味に声掛けをしたりしながら、あまりそのおかずの違和感に意識が向かないように工夫してみるのもよいです。
どんな工夫をしても食べない場合は、無理して与えず残すことも大切です。1歳児ならそのうち好みが変わり好きになることも多いでしょう。
完食についての対応
Q. 子どもによって食べる量って違う。完食する気持ちも知ってほしい。減らしますか?
管理栄養士佐藤の回答
完食できたことが本人の自信になるため、完食を目指した支援や声掛けを行うことは大切です。しかし最初から量を減らしてしまうと、元々の量を完食できる可能性を消してしまうことになります。「食べてみたら意外と美味しかった」「食べ始めたら食欲がでてきた」ということもあり、最初に減らしたのにやっぱりおかわりを申し出るというのは、子どもにとってはとてもハードルが高いように感じます。
減らして欲しいと要求された場合や食が細い子どもに対しては、最初から量を減らすことはせず、お皿の中で食べられそうな量と残したい量を本人に区切ってもらう方法がおすすめです。
自分で決めた目標なのでやる気につながり、責任感も生まれます。本人が決めた量があまりに少なくても口出しはせず、まずは「自分で決めた量を完食できた」という自信を持たせてあげることが最終的な完食への第一歩となります。またこの方法であれば、元々の量を見失わないため保育士も把握がしやすくなります。
おかわりする子どもへの対応
管理栄養士佐藤の回答
基本的には、おかわりは完食してからもらうのが鉄則です。好きなものだけを食べることが当たり前になると、嫌いなものを克服するきっかけさえもなくなってしまうからです。とはいえ、例えばある日の給食3皿中2皿が苦手なおかずだった場合、残りの1皿だけでは足りず何度もおかわりしないと満腹にならない、という場面もあります。この場合、完食してからおかわりをもらうルールだとその日はほとんど食べられないということになりかねません。
私が勤務していた保育園では、おかわりする際の完食の定義を「自分で食べられそうと決めた量を食べられたとき」としていました。苦手なおかずがあった場合は、お皿の中で自分が食べられそうな量とそうでない量を区切ってもらうようにし、決めた量を食べられれば仮の意味での「完食」としていました。そうすると、苦手なものを克服するきっかけを与えつつ、好きなものだけをたくさん食べるということを防止できます。
おかわりのルールは園の特色や方針によっても異なると思いますが、最も大切なのは担任同士で事前に話し合い、方針を統一することです。先生によって対応が異なるとお互いに混乱を招くため、ルールを決めてそれに従って声掛けを一貫するようにしましょう。
デザートについての対応
Q. デザートは食後ですか?うちの園では、今年からデザートは好きな時に食べていいことになりました
管理栄養士佐藤の回答
「デザートを先に食べると他のおかずが進まなくなる」などの悩みから、デザートを食べても良いとするタイミングに悩むこともありますよね。まずは、デザートがついている意味やデザートが持つ効果について考えてみましょう。デザートとして果物やゼリー、ヨーグルトなどをつけている園が多いと思いますが、栄養士の立場としてはデザートも立派な栄養源として考えているため、おかずと同等にぜひ残さずに食べて欲しいと思っています。
次に子どもの立場で考えると、デザートはおかずを食べたあとのお楽しみ、ご褒美として、頑張って食べる意欲を引き出す効果も持ち合わせています。そのため、食後に食べられる特別な存在として位置づけることも大切です。
これら2つの立場を総合的に考え、私が勤務していた園では「基本的には食後に食べるが、給食の時間終了の5分前になったら食べても良い」というルールにしていました。そうすると完食できた子どもにとってはご褒美となり、完食できていなくても栄養源としてデザートを食べることができるようになります。
なお、どの方法が正解ということはないため、やはり園で話し合いルールや方針を一貫することが大切です。
まとめ
保育園の給食は、乳幼児期の子どもの健やかな成長のためにとても大きな役割を持ちます。それ故に、保育士として子ども一人ひとりへの対応に頭を悩ます場面も多くあることでしょう。まずは、食育における全て目標の土台には「食べることを楽しいと思える心」があることを頭に入れておくことが大切です。今回は、保育園給食におけるお悩みの中でも「偏食・完食・おかわり・デザート」に関するものをピックアップし回答しました。それぞれのお悩みに対する工夫や改善策に正解はありませんが、1つの例としてぜひ参考にしてください。
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