潜在保育士とは?
潜在保育士とは、保育士の資格を保有しているが、保育園や認定こども園などの児童福祉施設に勤務していない人を指します。潜在保育士には2つのタイプがあり、「資格取得後に保育園などの勤務経験がない人」、「資格取得後に保育園などの勤務経験があり、現在は保育現場から離れている人」に分かれます。
潜在保育士の数や割合については表の通りです。 *出典:「保育士の登録者数と従事者数の推移(令和4年厚生労働白書)/厚生労働省」より
保育士として勤務できる潜在保育士は数多くいますが、「もう1度保育園で働こう」と考える方が少ないのが実態です。
では、約100万人の潜在保育士はなぜ保育園に戻らないのでしょうか?
潜在保育士が復帰を選ばない3つの理由
潜在保育士が保育園などの児童福祉施設に復帰しない要因は数多くありますが、大きく分けると3つの理由があります。16年間保育園で勤務した筆者の経験を元に、具体例を交えて解説します。
①責任の重さと賃金が見合わない
保育士の仕事は子どもたちの命を守り、心身の育ちを支援する責任の重い仕事です。勤務中は子どもたちの安全を常に確保しつつ、1人1人に寄り添い丁寧にやりとりします。しかし、保育士の平均年収は全職種に比べて約28%も低く、その額は「364万円」となっています。(※1)あくまでも平均なので実際はそんなにもらっていないと感じる方もいるでしょう。
子どもの命も育ちもお金に換えられるものではありませんが、仕事の大変さに見合った賃金を得たいと考え、保育園以外の仕事を探す方が増えるのも自然の流れではないでしょうか。
(※1)厚生労働省「保育士の現状と主な取組について」スライド39より
②子育てと仕事の両立が困難
保育園職場は人手不足の傾向が強いので、職員数に余裕がないことが多いです。しかし、自分の子どもを保育園に預けて働いていると、急な発熱などで呼び出しがかかり、早退や休暇を職場にお願いすることも増えてしまいます。
子どもの病気の度に早退するのも心苦しいですし、職場の体制によっては職員が足りずにすぐに抜け出せないこともあるでしょう。そうなると家族を犠牲にして何のために働いているのか自問自答を繰り返すことも...
現場で働いた経験がある潜在保育士はそのような状況がよくわかっているので、保育職場への復帰を選ぶことが難しいと言えます。
③労働環境が厳しい
保育園は早番や遅番、土曜出勤などさまざまな勤務形態があるので、生活リズムが一定になりません。残業や持ち帰りの仕事が多い現状もあります。その上、保育士の仕事は体力勝負。子どもと一緒に走ったり、赤ちゃんを抱っこしたりおんぶしたりすることも日常茶飯事です。自分の体を酷使する仕事ですので、首や肩、腰、ひざなどの痛みに悩まされることもあります。
また、「保育士が退職する最大の理由は職場の人間関係」という厚生労働省のデータもありますが、担任間や上司、保護者との関係で大きなストレスを抱えることもあります。(※2)
このような保育園特有の環境を厳しいと感じることも、潜在保育士が現場に復帰しようと思わない理由の1つです。
(※2)厚生労働省「保育士の現状と主な取組について」スライド24より
潜在保育士の復帰をサポートする国や自治体の対策
潜在保育士の中には復職希望の方もいますが、「現場を離れて時間がたったのでブランクが心配」「保育士としての実務経験がないので働けるか不安」などの悩みを抱えている方も少なくありません。
潜在保育士の悩みを解決し、保育士不足を解消するために、国や自治体などが潜在保育士の復職を後押しする施策を実施しています。主要な施策や制度をご紹介します。
①就職に必要な資金の貸付制度
潜在保育士の再就職を支援するために、「貸付金」という形で資金を援助する「潜在保育士の再就職支援事業」があります。例えば「東京都社会福祉協議会」の貸付金は40万円までで、2年間保育士として勤務すると貸付金の返還が免除となります。
自治体ごとに支援内容や条件が異なりますので、制度の詳細や条件などをしっかり確認することが重要です。
※潜在保育士の再就職支援事業
②復職のための研修
手遊びなどの保育実技や子どもとの関わり方、最新の保育情勢など、現場で働くためのスキルや情報を学べる研修・セミナーもあります。保育現場でいきなり働くことに不安がある方は、このような研修を受けて仕事に見通しを持ってから復職すると安心ですね。
*保育士就職支援セミナー例(東京都保育人材・保育所支援センター)
③潜在保育士の再就職サポート
保育士・保育所支援センターではマッチングシステムを導入し、勤務条件など潜在保育士のニーズに合わせた再就職先の選定をサポートしてくれます。再就職に関する情報がまとまっている施設ですので、保育園への再就職を検討されている方は積極的に活用することをおすすめします。
*全国の保育士・保育所支援センターなどの連絡先(こども家庭庁・令和5年6月現在)
潜在保育士が保育職場への復帰を選べる環境作りを
保育士資格を持っていても、保育職場で働くことを選ばない潜在保育士は数多くいます。国や自治体のサポートをより充実させ、潜在保育士が「また保育がしたい!」と思える環境が整うことで、子どもたちが安心して過ごせる園になることを願うばかりです。
【関連記事】