保育士は、かつては「保母」「保父」などと呼ばれていましたが、児童福祉法18条の4において「保育士」と呼ばれるようになりました。保育士は、「専門的知識及び技術をもって、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする者」と定義されています。 このように、保育士は児童福祉法によって定義され、保育士の義務についても定められています。今回は、児童福祉法との関係で保育士が気を付けるべき点を弁護士が解説します。
児童福祉法とは?
児童福祉法とは、児童が心身ともに健やかに生まれ、育成されるよう支援するための法律です。児童福祉法では、保育士の責務や資格要件が定められています。
保育士は、児童福祉法の責務に従って業務を行わなければならず、違反すると保育士登録の取消しや刑事罰を受けることが規定されています。
このように、保育士は児童福祉法を遵守することが求められており、業務を行うにあたっては注意しなければなりません。
児童福祉法で定められた保育士の義務
児童福祉法で定められた保育士の義務として、守秘義務があります。児童福祉法18条の22は、「保育士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保育士でなくなった後においても、同様とする。」と定めています。
「その業務に関して知り得た人の秘密」とは、児童に関する秘密のほか、保護者や他の職員に関する秘密も含まれます。保育士は、児童や保護者に関する秘密を保持する義務を負っていますので、注意する必要があります。
保育士が取り扱う情報は、児童福祉法のほか、個人情報保護法も適用されます。個人情報保護法とは、個人情報の取り扱いを定めた法律であり、児童や保護者の個人情報を取り扱う際には個人情報保護法にも注意しなければなりません。
個人情報とは、生存者に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報をいい、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含みます。
例えば、児童の氏名や顔写真などは当然に個人情報となります。そのほか、児童のマイナンバーなどの識別符号も個人情報になります。
児童福祉法で定められた守秘義務との関係ですが、児童福祉法は業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならないとされており、この秘密は必ずしも個人情報である必要はありません。例えば、園内で何かしらのトラブルが起こったこと自体は個人情報ではありませんが、守秘義務の対象となるため、保育士は安易に外部の者に情報を漏らしてはならないことになります。
このように、保育士は業務の性質上、人に関する秘密や個人情報を多数扱うため、児童福祉法と個人情報保護法により義務を負っているのです。
体罰の禁止
令和2年に施行された改正児童福祉法により、児童のしつけの際の体罰の禁止が明文化されました。これにより、保育士が児童に対し体罰を行ってはならないことが明確になりました。しつけの一環であっても体罰になる可能性が高くなりましたので、保育士はしつけを行うにあたって十分に留意しなければなりません。
保育士業務を行う上で気を付けること
保育士は、児童福祉法により守秘義務を負っており、個人情報保護法も遵守する必要があるため、業務を行う上で情報の取り扱いに注意しなければなりません。以下では、児童、保護者、他の職員に分けてそれぞれ注意すべき点を解説します。児童の秘密
児童の秘密には、児童の氏名、住所、生年月日、病歴などのほか、他の児童との関係も含まれます。例えば、他の児童と喧嘩をしてケガをさせてしまったことなどは、安易に他の保護者に話してはいけません。ただし、被害者の児童から加害者の児童を聞かれた場合、被害者には加害者の氏名を知る権利があるといえますので、教えても問題はないでしょう。
保護者の秘密
保護者の秘密には、保護者の氏名、住所、連絡先や、家族構成、職業なども含まれます。他の保護者が連絡を取りたいからといって、安易に他の保護者の連絡先を教えることは控えるべきでしょう。また、家族構成や職業なども保護者によっては非常に気にする情報です。クレームにつながるおそれがありますので、他の保護者に聞かれた場合であっても承諾を取った上で教えるべきでしょう。
職員の秘密
職員についての秘密も、守秘義務の対象となります。保護者が職員と話したいからといって職員のプライベートの携帯電話番号を教える必要はありません。守秘義務の対象となるのは児童や保護者の情報だけではないことは注意しておきましょう。令和4年に改正された児童福祉法のポイント
児童福祉法は、令和4年6月に改正法が施行され、保育士の資格管理が厳格化されました。具体的には、児童生徒に性暴力等を行った保育士にについて、登録取消しや再登録の制限などが定められました。これにより、保育士による性暴力等の防止・早期発見が図られることになりました。児童を守る立場であるはずの保育士による性暴力等はあってはならないことですが、もしそのような行為をしてしまった場合には登録の取消しなど厳しい処分が待っていますので、より一層気を付けるべきでしょう。
まとめ
保育士は児童福祉法の改正により国家資格となり、法律によって当然に守秘義務を負うことになりました。また、保育士は体罰を加えることができないことも明文化されています。保育士は児童や保護者の秘密を扱うことから、取り扱いには特に注意すべきです。また、児童への体罰や性暴力は当然あってはならないことですし、児童福祉法の改正によって規制が強化されている点は知っておくべきでしょう。
保育士は、専門的知識及び技術をもって児童の育成を支援する重要な仕事ですが、そのため背負う義務も大きいです。保育士は日々の業務を行うにあたって園児や保護者の情報、園児との接し方に注意しましょう。
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