保育園で流行りやすい夏の感染症
感染症は冬のイメージが強いですが、実は夏に流行するものも多くあります。感染症対策は季節を問わず年間を通して重要です。夏の感染症には特徴があります。高温多湿の環境でウイルスが活発化し、感染力が増す傾向にあります。また、部屋の中と外の気温の変化によって免疫力が低下するので、ウイルスに対する感染リスクが上昇します。
保育園の中は、夏の感染症が流行しやすい環境です。その理由として、子どもたちの密な接触、おもちゃの共有、免疫システムが未発達であること、そして集団生活による感染の連鎖が挙げられます。
夏の保育園で特に注意すべき感染症として、「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」があり、三大夏風邪と呼ばれています。これらは、子どもたちの間で急速に広がる可能性があるウイルス性の感染症です。
以下、三大夏風邪について詳しく解説していきます。それぞれの感染経路、主な症状、治療法、予防法、そして保育現場での対応について順に見ていきましょう。
これらの知識を身につけることで、子どもたちの健康と安全を守ることができます。
手足口病とは
手足口病は、手足や口の中に小さな水ぶくれができるのが特徴的な感染症で、4歳以下の子どもがかかりやすく、保育園で大流行します。ここでは、この病気の原因、症状、治療法、そして保育園に戻れる時期について解説します。原因
手足口病は主にコクサッキーウイルスA16、A6、エンテロウイルス71型が原因となります。5月から9月に流行し、飛沫(ひまつ)感染、接触感染、経口感染で広がります。咳や唾液、水ぶくれの内容物、便にウイルスが含まれるため注意が必要です。異なるウイルスが同時流行するため、1シーズンに2回感染することもあります。
症状・潜伏期間
手足口病の潜伏期間は3〜6日です。主な症状は次の通りです。
- 口の中、手のひら、足の裏、足背に2〜3mmの水ぶくれ
- 発熱
重症例では髄膜炎になったり、食事や水分が取れず脱水になったりすることがあります。
日々の保育では次のことに気をつけましょう。
- 水を飲むのをいやがらないか
- 手足に水ぶくれがないか
大人も感染する可能性はありますが、多くの場合は免疫があるため発症は稀です。
治療内容
手足口病にはワクチンや特効薬がなく、対症療法が中心です。発疹はかゆみが少ないため、通常は薬がいりません。発熱時は、元気がないようであれば解熱剤を使用します。口内炎はしみることがあるので、食事は柔らかくしたり、薄味にしたりします。保育中は子どもの様子をよく観察し、食事や水分摂取をサポートしてあげましょう。
登園停止期間
手足口病には登園停止期間の定めはありません。厚生労働省のガイドラインでは、発熱がなく、普段通り食事がとれ、全身状態が良ければ登園可能としています。したがって、水ぶくれが残っていても、元気なら登園できます。手足口病の登園再開の基準について正確に理解し、保護者に適切に説明できるようにしておきましょう。
出典:手足口病とは/国立感染症研究所 >>詳細はこちら
ヘルパンギーナとは
ヘルパンギーナは、高熱、痛みを伴う口の中の水ぶくれなどが特徴的な感染症です。感染者の90%が5歳以下で、保育園でもよく流行します。ここでは手足口病との違いについて解説します。原因
ヘルパンギーナは、コクサッキーウイルスAやB、エコーウイルスが原因です。5月から9月に流行し、7月がピークです。感染経路は3つあります。咳やくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染、おもちゃやタオルを介した接触感染、おむつ替え後の経口感染です。流行するウイルスの型が複数あるので、1シーズンに何度も感染する可能性があります。
症状・潜伏期間
潜伏期間は2〜4日です。主な症状は次の通りです。
- 突然の38℃以上の高熱
- 口の奥の方に多発する1〜5mmの水ぶくれ
- 喉の痛みや赤み
発熱は通常2〜4日で解熱し、口の中の発疹も1週間程度で消えます。
髄膜炎になる可能性もあるので、普段と様子が違う場合は、保護者へ連絡し、病院の受診を勧めましょう。
日々の保育では次のことに気をつけてください。
- 高熱が出ていないか
- 機嫌は良いか
- 水分を十分摂取できているか
大人も感染する可能性があります。大人の場合は症状が重くなる傾向があるので、スタッフの健康管理にも気を配りましょう。
治療内容
ヘルパンギーナには、ワクチンや特効薬がなく、対症療法が中心です。発熱に対しては解熱剤を使用し、熱性痙攣の既往がある場合はけいれん止めも使用します。脱水にならないように、薄味で柔らかいものを食べてもらい、水分摂取を促しましょう。おしっこが出ない場合は、入院して点滴が必要になる場合もあります。登園停止期間
ヘルパンギーナには、登園停止期間の定めはありません。厚生労働省のガイドラインによると、発熱がなく、普段通り食事がとれて元気なら登園可能となっています。したがって、口内の水ぶくれが完全に消えていなくても、子どもが元気なら登園が可能です。出典:ヘルパンギーナとは/国立感染症研究所 >>詳細はこちら
咽頭結膜熱(プール熱)とは
高熱、喉の痛み、目の充血が特徴的な感染症です。感染力が強いため、症状に早めに気づいて対策することが大切です。ここでは咽頭結膜熱の原因や症状、治療法、保育園への復帰時期について解説します。原因
主な原因はアデノウイルスで、特に3型が多いですが、4型や7型も感染します。アデノウイルスの型は100種類以上あり、胃腸炎、膀胱炎など様々な症状を引き起こします。感染力が強く、主に6月から増加し、7〜8月にピークを迎えますが、一年中感染する病気です。感染経路は、飛沫(ひまつ)感染、接触感染、経口感染の3つです。
以前はプールを介した感染が多く認められましたが、水質管理の改善やタオルの共有を避けるようになったため、近年ではプールに関連した感染は減少しています。
症状・潜伏期間
潜伏期間は5〜7日です。主な症状は次の通りです。
- 発熱
- 頭痛
- 咽頭痛
- 結膜充血(特に下まぶたが赤くなります)
- 目の痛み、涙目、目やに
通常、発熱と目の症状は3〜5日で改善し、目に後遺症を残すことはほとんどありません。しかし、心臓や肺に基礎疾患のある子どもは重症化する可能性があるため、特に注意が必要です。
日々の保育では次のことに気をつけましょう。
- 発熱はないか
- 目が赤くなっていないか
大人も感染する可能性はありますが、症状は軽いことが多いです。そのため、自覚なく感染を広げている可能性もあるので、日毎から衛生管理には十分注意が必要です。
治療内容
咽頭結膜熱にはワクチンや特効薬がなく、対症療法が中心です。発熱には解熱剤を使用し、喉の痛みに対しては鎮痛剤やうがいで対処します。目の症状が強い場合は眼科を受診して、点眼薬で治療しましょう。食事は刺激の少ない柔らかいものにします。水分補給を促し、安静に過ごせるよう配慮しましょう。
登園停止期間
咽頭結膜熱は、学校保健安全法で第二種の学校感染症に指定されています。登園停止期間は、主要症状である「発熱」と「目の充血」が治まってから2日間経過するまでです。通常、症状は3〜5日程度続くことが多いため、保護者には、症状がでてから1週間程度のお休みが必要になると説明しましょう。
出典:咽頭結膜熱とは/国立感染症研究所 >>詳細はこちら
手足口病 | ヘルパンギーナ | 咽頭結膜熱 | |
---|---|---|---|
主な症状 | 手足口の水疱、発熱 | 口内の水疱、高熱 | 発熱、喉の痛み、目の充血 |
潜伏期間 | 3〜6日 | 2〜4日 | 5〜7日 |
登園停止期間 | なし(全身状態による) | なし(全身状態による) | 主症状消失後2日 |
夏風邪の予防法
最後に、夏風邪の予防法について、保育園内での対策と保護者への指導内容について解説します。保育園と保護者で協力して対策することで、感染拡大を防ぎましょう。保育園での予防法
夏風邪対策の基本は、手洗いとうがいです。この記事で紹介した3つの夏風邪のウイルスは、いずれもアルコール消毒の効果が期待できないため、十分な水と石鹸で物理的に洗い流すことが大切です。
また、いずれのウイルスも、症状が改善して2〜4週間たってもウイルスが便から排出され、感染源になります。そのため、おむつ替えの後に手洗いが不十分だと、保育士の皆さんがウイルスを広げてしまう可能性があります。そのため日頃から正しい手洗い・うがいを身につけておくことが重要です。
おもちゃなどの共有物によって接触感染する可能性もあるので、可能であれば次亜塩素酸ナトリウムで消毒してください。
保育園でできる予防法
- 流水と石鹸による手洗い、うがいの徹底
- ペーパータオルの使用
- 食事前、外遊びの後、おむつ替え前後の手洗い
- 次亜塩素酸ナトリウムによる消毒
保護者への予防法の指導
保護者へ感染予防について説明するときは、手洗い・うがいが重要な理由を伝え、食器やタオルを別にするなど具体的な予防法を指導するとよいでしょう。また、登園を再開する基準についても説明し、スムーズに保育園に復帰してもらいましょう。保護者へ伝える内容
- 症状の改善後も感染力が残る可能性がある
- 夏風邪のウイルスに対しては、アルコール消毒は効果が低い
- 日常的な手洗い・うがいが重要
- おむつ替え後の手洗いで経口感染を予防する
- 食器やタオルの共用を避ける
- 夏風邪の種類に応じた登園再開の基準
手洗い・うがいで夏の三大感染症を予防しよう
今回は、夏の三大感染症について解説しました。園内での感染が広がると、園児の出席管理、保護者への説明などの業務が増えてしまい大変です。夏風邪の予防と早期対応ができるように、基本的な知識を押さえておきましょう。子どもたちが元気にすごせる環境を、あなたの手で整えてあげてください。Yu_Suka
2010年に都内の大学を卒業し、地方の総合病院で外科専門医として勤務。子どもからお年寄りまで幅広い年齢の患者さんの手術を担当している。保育園に通う1児の父として、子育てと仕事に奮闘中。