子どもの不思議な行動の謎を解くカギ「敏感期」
日々、子どもたちと過ごしていると、「何でそんなことするの?」とか、「何が面白いんだろ~」と思う場面がありませんか? 大人からすると、やられたら困る迷惑なことだったり、何が面白いのか理解できない行動をくり返したりする姿、ありますよね。私がモンテッソーリ教育を知らずに保育をしていた時代、0歳児クラスを担当していた時に、箱ティッシュの中身を子どもに出されてしまう事件がよく起きていました。その時の私は、ティッシュを出す子どもが悪いと思っていて、すぐに奪って手の届かない場所に置いてしまっていました。当時の自分に余裕が無かったからだとは思いますが、いつも子どもがすることに「なんで?」「もうっ」と、怒っていた記憶があります。
そんな私がモンテッソーリ教育を知ってからは、箱ティッシュの中身を出されても「ここに置いた私が悪いよね、ごめんね~」と言うようになったのです。大きな変化だと思いませんか? どうしてこのように考えが変わったのかというと、子どもには「敏感期」という時期があることを知ったからなのです。
今回は、この敏感期についてのお話です。
発達することは、神様(自然)から出された宿題!?
「敏感期」の話をする前にお伝えしておかなくてはならないのが、モンテッソーリ教育の土台となる子どもの見方(子ども観)です。子どもには、命が誕生した瞬間、神様(自然)から出される宿題があります。何だと思いますか?
それは、『発達を遂げなさい』『自立に向かって成長していきなさい』ということなんです。発達とは、何かができるようになったり、分かるようになったりすること。つまり、子どもたちは自分で何かができるようになったり、分かるようになったりするために生まれてくるのです。
『発達』は、大人が手取り足取り教え込んでそうさせるものではなく、子ども自身によってなされるものです。全ての子どもが自分で自分を教える力“自己教育力”を持っているということが考え方の土台となっていて、この力を最大限に発揮できるようにお手伝いするのが、モンテッソーリ教育なのです。
“自己教育力”は、お母さんのお腹にいる頃(胎児期)から働いている
生れたばかりの赤ちゃんを思い浮かべてください。弱々しくて何もできないように見える赤ちゃんでも、生まれた瞬間から“泣く”ということができますし、おっぱいを飲むこともできます。「当然でしょ?」と思われる方もいるかもしれませんが、「泣く(呼吸)・吸う(吸啜)・飲み込む(嚥下)」ができるのは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で練習してきたからなのです。お母さんが赤ちゃんに、「生まれてきたら呼吸しておっぱい飲むから、こうやって練習しなさい!」なんて言った訳ではありません。赤ちゃん自身が、「これができないと生きていけない」ということが分かっていて、生まれる前からそこにあるものを使って練習していたんです。すごいですよね。
このように、誰に教えてもらわなくても、子どもは自分に必要な能力が分かっていて、それを獲得するために自分から身の回りにあるもの(環境)を使って練習をします。これが“自己教育力”の働きなんです。
生まれた瞬間からこの三つのことができるということは、現代の脳科学によって証明されています。子どもがお腹の中にいる間は、生まれ出た環境で生きていくために必要なことに対して自己教育力を発揮しています。その一方で誕生後は、さまざまなことに対して自己教育力を発揮していきます。でも、その自己教育力は目に見えるものではありません。
目には見えない自己教育力の現れが「敏感期」
子どもは、ある能力を獲得しようとする時に、環境の中からその能力を獲得するために必要なものを選ぶことができます。そして、環境に自分から関わって、いとも簡単にその能力を獲得してしまう時期のことを「敏感期」と呼びます。例えば、つかまり立ちをしようとしている赤ちゃんの姿を思い浮かべてください。テーブルや棚、壁など、つかまれそうなものなら何でも使って立とうとしますよね。私は髪が長いので、よく髪をつかまれます(笑)。そうやって、立つ能力を獲得するために必要なものを見つける力が強く現れるのが敏感期です。
この敏感期は移り気で、子どもはその能力を獲得すると、それまで敏感に反応していた環境には目もくれなくなって、次のものに移り変わっていくのです。
乳幼児期に現れる敏感期
乳幼児期(0~6歳までの間)に現れる敏感期には、下記のようなものがあります。「☆」マークが付けてあるものは、乳児期(0~3歳)に強く現れる敏感期です。生まれてきた赤ちゃんが人間として生きていくために必要なことに対して現れます。一つひとつ見ていきましょう。言語の敏感期(話しことばの敏感期/書きことばの敏感期)☆
人の話す言葉(話しことば)や、文字(書きことば)に興味を持つ時期です。赤ちゃんを抱っこしていると、おしゃべりしている大人の口に手を入れようとしたりしますよね。そうやって言葉を吸収して、特別に教え込むことをしなくてもお話ができるようになるのは、この敏感期のおかげです。
秩序の敏感期☆
最も大人が理解しがたい敏感期と言われています。2歳前後の子どもが順番ややり方、ものの位置などに強いこだわりを持つ時期で、イヤイヤ期と呼ばれてしまう子どもの姿の一因でもあります。でも、実は、自分が生きている世界(構図やルール)を把握するために、とっても大事な時期なのです。
運動の敏感期☆
運動とは、「持つ」「歩く」「押す」などの動きのことを言います。自分の意志通りに体を動かせるようになることに強い興味を持つ時期です。つかまり立ちの例が分かりやすいですが、自分の意志通りに体を動かすことができるようになりたい!という、強いエネルギーとして現れます。
感覚の敏感期☆
五感(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚)を刺激されることに興味を抱く時期です。揺れるカーテンをじーっと見つめたり、お散歩に行くとガードレールや壁をずっと触りながら歩いたりして、子ども自身も無意識に感覚を刺激されることに面白さを感じています。
数の敏感期
生まれた時から身の回りにある、数や量に対しての興味の現れです。「もっとちょうだい」とか、「おおきいものを選ぶ」というように、数や量の違いを感じることが楽しい乳児期。幼児期になると、たくさんの数を数えたり、数字を読んだりすることに興味を持つようになります。また、感じた違いを数値化することにも興味を持ちます。
文化の敏感期
モンテッソーリ教育では、ことばや数に関すること以外の、全ての分野を「文化」と呼んでいます。生き物、世界、宇宙などなど、子どもたちの周りには情報が溢れているので、年齢が上がると共に、興味の対象がどんどん広がっていきます。「知りたい!」という気持ちが強く現れる時期です。礼儀と作法の敏感期
社会生活を円滑に過ごしていくための礼儀やマナーを吸収していく時期。3、4歳の頃になると、きちっと挨拶することに張り切ったり、ルールを守ることを気持ちよく感じたりします。モンテッソーリ教育は、全て子どもが出発点なので、この敏感期に応じて5つの分野が用意されています。
敏感期を知ると保育がもっと面白くなる!
ティッシュを山のように出す子どもの姿は、運動の敏感期の姿です。引っ張り出すという動きが面白くてしかたがない、しかも一枚引っ張ったら、「また次も引っ張って!」と言わんばかりにティッシュが出て来るからまた引っ張る。そうやっているうちに周りがティッシュだらけになるというシナリオです。そうやって「子どもたちは自分自身を育てている」ということを知ると、怒れないですよね。特に、乳児期の「なんでこんなことするの~?」「何が面白いの~?」と思う行動のうち、90%くらいのことは敏感期で説明ができると思っています。
そう考えると、子どもを観察するのが面白くなるんです。「何でそんなことするの!?(怒)」ではなく、「何でそんなことしてるんだろ~?」と思って、ついつい何もしないでじっと観察してしまうのが今の私です。そして、「あぁ、なるほど、それが面白かったのね」と分かると嬉しくなって、「保育って楽しいな~」「子どもって面白いな~」って思いながらお仕事させていただいています。
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