保育園で流行りやすい秋・冬の感染症
保育園では年間を通して感染症の対策をしていますが、秋・冬の季節には特に注意が必要です。まずはその理由について見てみましょう。ウイルスは寒くて乾燥している環境が好き
秋・冬は気温や湿度が低下し、ウイルスが活発化し、生存期間も長くなるため、感染症が拡大しやすくなります。また、寒さのために室内で過ごす時間が増え、換気が不十分になりがちであることも、ウイルスを拡散させる要因になります。集団生活による密接な接触
保育園は、子どもたちの集団生活の場であり、密接な接触によって感染症が拡大しやすい環境です。また、乳幼児の免疫力は未熟であること、手洗いや咳エチケットの徹底が難しいことも、感染が拡大しやすい原因となっています。乳児と幼児の違いや感染経路については、こちらの動画でも詳しく解説しています。あわせてチェックしてみてください。
秋・冬に流行する感染症を知る
このように秋・冬になると感染症が増える傾向にあるため、子どもたちの健康を守るために予防対策をしっかり行う必要があります。本記事では、保育園で流行しやすい代表的な5つの感染症「インフルエンザ」「RSウイルス感染症」「溶連菌」「ノロウイルス」「マイコプラズマ肺炎」について、その原因と症状、治療法、予防法を解説します。
インフルエンザとは
インフルエンザは、毎年冬に流行するウイルス性の感染症で、子どもから高齢者まで幅広い年齢層に感染します。原因・症状・潜伏期間
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発症します。主に咳やくしゃみから発生する飛沫(ひまつ)や、共有のおもちゃなどを介して広がります。主な症状は、以下のとおりです。
- 38℃以上の発熱
- 頭痛
- 関節痛
- 全身のだるさ
子どもの元気がない、水分が取れない、反応が鈍い場合には、すぐに病院に受診してもらいましょう。
潜伏期間は1~3日程度です。
保育士さんにも感染し、感染を広げる可能性があるので注意しましょう。
治療内容
インフルエンザの治療には、抗インフルエンザ薬が有効です。この薬によって、発熱期間が1~2日短縮され、ウイルスの排出量も減少します。ただし、発症から48時間以内に服用しないと効果があまりありませんので、保護者には早めの受診をお勧めしましょう。解熱剤にはアセトアミノフェンが使用されます。子どもの場合、ライ症候群という脳と肝臓に異常が生じる危険性があるため、アスピリンやジクロフェナクなどのNSAIDsは使用しません。
症状が改善するまでに、約1週間かかります。
予防法
保育園におけるインフルエンザ予防対策は、以下のとおりです- 手洗い・うがいの徹底
- 保育室の定期的な換気
- 湿度を50~60%に保つ
登園再開の目安は、「発症後5日、かつ解熱後3日」です。この目安は成人の「発症後5日、かつ解熱後2日」とは異なるので、注意しましょう。
出典:インフルエンザQ&A /厚生労働省 >>詳細はこちら
RSウイルス感染症とは
RSウイルスは0~1歳で初感染し、細気管支炎などを引き起こす呼吸器感染症です。2歳までにほぼ100%の子どもが感染します。近年では冬だけでなく夏にも流行します。原因・症状・潜伏期間
RSウイルス感染症は、RSウイルスに感染することで発症します。主な感染経路は、飛沫感染や接触感染です。主な症状は、以下のとおりです。
- 発熱
- 咳
- 鼻水
- 呼吸困難
- 喘鳴
6カ月未満の乳児では重症化しやすく、入院が必要となる場合もあります。また、呼吸器・循環器・免疫系などの病気を持っている子どもは、重症化する可能性が高いので注意が必要です。
子どもがぐったりして元気がない、水分が摂れない、呼吸が苦しそうな場合は、保護者に早めの受診をすすめましょう。
潜伏期間は2~8日で、典型的には4~6日です。
保育士さんにも感染し、重症化する可能性があります。職員の体調管理にも気を付けましょう。
治療内容
RSウイルス感染症の治療は、対症療法が中心です。発熱時には解熱剤を使用し、咳がひどい場合には咳止めの薬を飲んでもらいます。水分補給が困難な場合や、呼吸困難感が強い場合には入院が必要になることがあります。
通常、症状は7~12日で改善します。
予防法
保育園におけるRSウイルス感染の予防対策は、以下のとおりです。- 手洗い・うがいの徹底
- 0歳と1歳のクラスをできるだけ接触させない
RSウイルスに対するワクチンはまだ開発段階なので、使用することはできません。
登園再開の基準は、学校保健安全法の中で明確には定められていません。一般的には、呼吸器症状が消え全身状態が良くなれば、登園再開できます。
出典:RSウイルス感染症Q&A(令和6年5月31日改訂)/厚生労働省 >>詳細はこちら
溶連菌とは
溶連菌感染症は、発熱と咽頭痛が特徴の細菌性感染症です。5~10歳の子どもたちの間で、冬と夏に流行します。抗生物質での適切な治療が必要です。原因・症状・潜伏期間
溶連菌感染症は、A群溶血性連鎖球菌に感染すると発症します。咳やくしゃみからの飛沫感染や、接触感染によって広がります。主な症状は、以下のとおりです。
- 発熱
- のどの痛み
- 体のだるさ
- とびひ(膿痂疹)
- 全身の鮮やかな赤い発疹(猩紅熱(しょうこうねつ)の場合)
潜伏期間は通常2~5日、とびひの場合は7~10日程度です。
保育士さんにも感染し、感染を広げるリスクがありますので、普段から予防を心がけましょう。
治療内容
溶連菌感染症の治療には、抗生物質の内服が必要で、通常10日間服用します。解熱剤が使用されることもあります。適切な抗生物質の治療により、発熱は3~5日で解熱し、他の症状は1週間以内に改善しますが、発疹がある場合は3週間以上かかることもあります。
予防法
保育園における溶連菌の感染予防対策は、以下のとおりです。- 手洗い・うがいの徹底
- 保育室の定期的な消毒
- 感染者との接触を避ける
登園再開の基準は、学校保健安全法の中で明確には定められていません。抗生物質を内服して24~48時間経過すると、感染力が弱まるとされているので、登園再開の目安としてください。
出典:A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは/国立感染症研究所 >>詳細はこちら
ノロウイルスとは
ノロウイルスによる感染性腸炎は、12月から3月に流行します。食中毒の原因にもなり、保育園で集団発生する可能性がある病気です。原因・症状・潜伏期間
ノロウイルスは、接触感染、飛沫感染、空気感染などさまざまな経路で感染します。汚染された食品や水から感染したり、感染者の吐物や排泄物から感染したり、乾燥した吐物から発生したエアロゾルによって感染します。主な症状は、以下のとおりです。
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢
潜伏期間は1~2日程度です。
感染力は強く、大人にも感染するので、家庭や保育園で集団感染する可能性があります。
治療内容
ノロウイルスの治療は、特効薬がないため、水分補給を中心とした対症療法が基本です。脱水を防ぐために、こまめに水分補給をしましょう。必要に応じて、整腸剤や痛み止めを使用します。症状は通常1~3日で改善しますが、子どもや高齢者では脱水が深刻になることがあるため、注意が必要です。
予防法
保育園におけるノロウイルスの感染予防対策は、以下のとおりです。- 次亜塩素酸での消毒(ただし、金属部分には腐食性があるため、消毒後は速やかに拭き取りましょう)
- ペーパータオルや液体石鹸を使用し、共有物を減らす
また、ノロウイルスの流行期には、胃腸炎で吐いてしまった子どもの登園を控えてもらいましょう。
登園再開の基準は、学校保健安全法の中で明確には定められていません。一般的に嘔吐や下痢が治まり、食事が普通に取れるようになれば、登園可能です。
出典:ノロウイルスに関するQ&A / 厚生労働省 >>詳細はこちら
マイコプラズマ肺炎とは
マイコプラズマ肺炎は、1年を通じて発生する肺炎で、特に秋・冬に多く見られます。患者の約80%が14歳以下で、頑固な咳が特徴です。原因・症状・潜伏期間
マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマという細菌に感染することで発症します。飛沫感染や接触感染によって広がりますが、濃厚接触しないと感染しません。主な症状は、以下のとおりです。
- 発熱
- 頭痛
- 咳
また、中耳炎、無菌性髄膜炎や心筋炎などの合併症が発生することもあります。
潜伏期間は2~3週間と長く、普段からの予防が大事です。
保育士さんにも感染するため、感染を拡大させる可能性があります。
治療内容
マイコプラズマ肺炎の治療には、抗生物質(マクロライド系、テトラサイクリン系、またはニューキノロン系)を使用します。服用期間は薬により異なり、通常5~14日間です。必要に応じて解熱剤や咳止めも使用します。咳は解熱後も3~4週間続くことがあります。
予防法
保育園におけるマイコプラズマ肺炎の感染予防対策は、以下のとおりです。- 手洗い、咳エチケットの徹底
- 感染者との濃厚接触を避ける
登園再開の基準は、学校保健安全法の中で明確には定められていません。登園は、発熱や激しい咳が治まっていれば、可能です。
出典:マイコプラズマ肺炎とは / 国立感染症研究所 >>詳細はこちら
潜伏期間、症状改善までの時間、治療法、登園停止期間のまとめ
感染症 | 潜伏期間 | 症状改善までの期間 | 治療法 | 登園停止期間の目安 |
---|---|---|---|---|
インフルエンザ | 1~3日 | 1週間程度 | 抗インフルエンザ薬(48時間以内の投与) 解熱剤、輸液 |
発症後5日、かつ解熱後3日以上が経過するまで |
RSウイルス | 2~8日(典型的には4~6日) | 7~12日程度 | 解熱剤、咳止め薬、輸液 | 呼吸器症状が消失し、全身状態が良くなるまで |
溶連菌 | 2~5日(膿痂疹は7~10日) | 1週間以内(発疹がある場合は3週間以上) | 抗生物質(10日間程度) 解熱剤 |
抗生剤内服開始後24~48時間経過するまで |
ノロウイルス | 1~2日 | 1~3日程度 | 水分補給、整腸剤、痛み止め | 嘔吐や下痢が治まり、普通の食事が取れるまで |
マイコプラズマ肺炎 | 2~3週間 | 咳は3~4週間続く場合がある | 抗生物質(マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系) 解熱剤、咳止め |
発熱や激しい咳がおさまるまで |
まとめ
今回は、秋・冬に保育園で気を付けたい感染症について解説をしました。園内での感染拡大を防ぐためには、日頃からの手洗い・うがいなどの予防対策が重要です。また、症状に早めに気付いて適切に対応することで、感染拡大を防ぐことができます。流行する感染症の知識を身に付け、対策を実践することで、子どもたちが安心して過ごせる環境を作りましょう。
Yu_Suka
2010年に都内の大学を卒業し、地方の総合病院で外科専門医として勤務。子どもからお年寄りまで幅広い年齢の患者さんの手術を担当している。保育園に通う1児の父として、子育てと仕事に奮闘中。