保育士の配置基準とは

現在の配置基準
配置基準は、児童福祉法に基づいた「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第三十三条の中で、保育士ひとりにつき何人の子どもを保育できるかを定めたもの。現在はこのようになっています。<国が定める配置基準>
- 0歳児 3:1(子ども:保育士)
- 1歳児・2歳児 6:1(子ども:保育士)
- 3歳児 20:1(子ども:保育士)
- 4歳児・5歳児 30:1(子ども:保育士)
この配置基準は国が定めた認可保育所(認可保育園)の要件で、実際には各都道府県がこの内容を踏まえて条例で定めることになっています。また、この基準をベースとして他の地域型保育事業や認可外保育園などの基準が設けられています。
自治体によっては、保育の質の向上や働く環境の改善を目的として、独自に手厚い配置基準を設けているところもあります。
参考:「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第三十三条/厚生労働省
配置基準の変遷

それ以降、0~3歳児については何度か改定があり、1・2歳児は56年前の1967年(昭和42年)に「6対1」に、3歳児は54年前の1969年(昭和44年)に「20対1」に、0歳児は25年前の1998年(平成10年)に「3対1」となって現行の基準になりました。4・5歳児については、制定された当初の「30対1」から、実に75年間も変わらないまま現在に至ります。
これまで社会環境の変化に伴い、たびたび配置基準見直しの議論は挙がってきましたが、結果的には大きく改定されることがないままというのが現状です。
配置基準を取り巻く動き

政府が示した見直し案
配置基準に関しては、近年発生している保育現場での事故や不適切保育の問題、また急激に進む少子化問題に関連して見直しの議論が活発化しています。その動きの一つとして、政府が2023年3月31日に発表した「次元の異なる少子化対策」のたたき台(試案)の中に項目が盛り込まれました。これによると、保育士1人が担当する子どもの人数を、1歳児については現行の6人から5人に、また4・5歳児は30人から25人に減らす方針となっています。<配置基準の見直し案>
保育士1人が担当する子どもの数
- 1歳児 6人→5人
- 4~5歳児 30人→25人
参考:「こども・子育て政策の強化について(試案)/こども家庭庁」
配置基準が変わるとどうなる?

【事例①】国基準の2倍を配置している保育園
東京都杉並区で6か所の保育園を運営している社会福祉法人 風の森では、独自に国基準の2倍の保育士を配置しています。導入の経緯について同法人の統括を務める野上美希さんは、「開園して間もなく、国の配置基準では休みや休憩はまともに取れず、先生方は疲弊していくだけということが分かりました。まずは基準の1.5倍にすることから始めましたが、休憩はきちんと取れるようになり、残業を無くすこともできました。働き方の改善については一定の効果がありました」と言います。しかし一方で、「子どもたちについて話し合う時間や、研修の時間はかなり削られてしまい、保育の質の向上には結びついていきませんでした(野上 統括)」とも。そんな状況を受けて同法人では、さらに国基準の2倍への引き上げを実施。同時に、そのことで得られる時間を保育の質を高めるために使おうという職員の意識付けにも取り組みました。その結果、「今では、先生たちが主体的に学び合える環境が整いました(野上 統括)」とのこと。
今回政府から示された配置基準の改善案について、同法人で事務長を務める野上巌さんは、「政府が基準を変えると示したことについては、まずは大きな一歩だと感じています。1歳児の5対1、4・5歳児の25対1という内容は十分ではないと感じますが、配置ができない園も出かねないので徐々に変えていくのが良いかなと思います。国には、ロードマップを示して継続的に取り組んでもらいたいですね」と言います。
参考:社会福祉法人 風の森 Picoナーサリ
【事例②】独自の配置基準を導入している自治体
「現在の配置基準」項目でも触れた通り、自治体の中には国より手厚い独自の配置基準を導入しているところも数多くあります。その中の一つ、埼玉県戸田市の例を見てみましょう。戸田市が設けている配置基準は以下の通り。<戸田市独自の配置基準>
- 1歳児 4:1(子ども:保育士)
- 3歳児 12:1(子ども:保育士)※公立のみ
現場での人材確保が課題
待機児童問題が解消に向かっていると言われる中でも、保育士人材の確保が難しいという問題は依然としてあります。配置基準の見直しについては、保育現場での人材確保の議論もセットで行う必要があると感じました。保育士アンケートから見える適正な基準
最後に、現行の配置基準について保育士自身がどう感じているのかについてのアンケート調査結果をお伝えします。公式Instagramを使って聞いた、各年齢での配置基準についての質問には、それぞれ6,000件を超える回答をお寄せいただきました。一つずつご紹介します。0歳児クラスのアンケート結果

- 質問:【0歳児】現在は保育士1人あたり子ども3人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?
回答 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
4人 | 482件 | 8.0% |
3人(現状) | 833件 | 13.8% |
2人 | 4,278件 | 71.1% |
1人 | 424件 | 7.0% |
「2人」と答えた方が71.1%で最も多く、続いて「3人(現状)」が13.8%、「4人」が8.0%、「1人」が7.0%という結果となりました。配置基準から1人少ない「2人」が適正という回答が全体の7割を占め、多くの保育士が、現状の基準では不足していると感じていることが読み取れます。
1歳児クラスのアンケート結果

- 質問:【1歳児】現在は保育士1人あたり子ども6人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?
回答 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
7人 | 104件 | 1.6% |
6人(現状) | 188件 | 3.0% |
5人 | 1,291件 | 20.4% |
4人以下 | 4,757件 | 75.0% |
「4人以下」と答えた方が75.0%で最も多く、続いて「5人」が20.4%、「6人(現状)」が3.0%、「7人」が1.6%という結果となりました。配置基準から2人以上少ない「4人以下」が適正という回答が全体の四分の三を占めました。政府が試案で示した二つのクラスのうちの一つがこの1歳児。6人から5人への移行が検討されていますが、アンケート調査との比較で見えている1人分の差が気になる結果となりました。
2歳児クラスのアンケート結果

- 質問:【2歳児】現在は保育士1人あたり子ども6人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?
回答 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
7人 | 65件 | 1.0% |
6人(現状) | 706件 | 10.9% |
5人 | 3,289件 | 50.6% |
4人以下 | 2,442件 | 37.6% |
「5人」と答えた方が50.6%で最も多く、続いて「4人以下」が37.6%、「6人(現状)」が10.9%、「7人」が1.0%という結果となりました。2歳児と1歳児は同じ配置基準ですが、こちらは現状から1人少ない「5人」が適正という回答が全体の半数を占めました。程度は異なるものの、やはり現状の基準での不足を感じている保育士が多いことが読み取れます。
3歳児クラスのアンケート結果

- 質問:【3歳児】現在は保育士1人あたり子ども20人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?
回答 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
21人以上 | 29件 | 0.4% |
20人(現状) | 205件 | 3.1% |
15~19人 | 2,476件 | 37.6% |
14人以下 | 3,883件 | 58.9% |
「14人以下」と答えた方が58.9%で最も多く、続いて「15~19人」が37.6%、「20人(現状)」が3.1%、「21人以上」が0.4%という結果となりました。現状の配置基準より少ない数を選択した割合が全体の96.5%を占め、非常に多くの保育士が課題の大きいクラスと感じていることが読み取れます。
4歳児・5歳児クラスのアンケート結果
4歳児と5歳児のアンケート結果についてはまとめてお伝えします。
- 質問:【4歳児】現在は保育士1人あたり子ども30人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?
回答 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
31人以上 | 15件 | 0.2% |
30人(現状) | 100件 | 1.5% |
21~29人 | 1,625件 | 25.0% |
20人以下 | 4,773件 | 73.3% |

- 質問:【5歳児】現在は保育士1人あたり子ども30人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?
回答 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
31人以上 | 11件 | 0.2% |
30人(現状) | 187件 | 2.8% |
21~29人 | 1,839件 | 27.9% |
20人以下 | 4,548件 | 69.1% |
「20人以下」と答えた方が73.3%(4歳児)・69.1%(5歳児)で最も多く、続いて「21~29人」が25.0%(4歳児)・27.9%(5歳児)、「30人(現状)」が1.5%(4歳児)・2.8%(5歳児)、「31人以上」が0.2%(4・5歳児共に同じ)という結果となりました。
政府が試案で示した二つのクラスのうちのもう一つがこの4・5歳児。30人から25人への移行が検討されていますが、アンケート調査との比較で見えている差も少なくなく、今後の動きが気になる結果となりました。
今後の動向に注目
課題を抱えながらも、動き始めた配置基準見直しの議論。保育現場にとって大きな変化も予想されますが、今後もその動向に注目していきたいと思います。調査期間:2023年3月14日(1日)/調査方法:公式Instagramでアンケートを実施/調査対象:Instagramユーザー/有効回答数:1問目「Q.【0歳児】現在は保育士1人あたり子ども3人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?」6,017件、2問目「Q.【1歳児】現在は保育士1人あたり子ども6人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?」6,340件、3問目「Q.【2歳児】現在は保育士1人あたり子ども6人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?」6,502件、4問目「Q.【3歳児】現在は保育士1人あたり子ども20人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?」6,593件、5問目「Q.【4歳児】現在は保育士1人あたり子ども30人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?」6,513件、6問目「Q.【5歳児】現在は保育士1人あたり子ども30人ですが、適正と思われる人数はどれくらいですか?」6,585件