『社会性の発達支援』を詳しく解説
保育園や幼稚園での集団生活における「社会性の発達支援」について、社会モデルで考えていきます。社会モデルというのは、本人の困りごとに関して、本人を無理に多数派に合わせるのではなく、その子の発達の状況やその子が考えていることに合わせて、保育者や周囲の集団、つまり社会の側が寄り添うことを指します。その子が生活しやすいように社会の側が変化してその子に合わせる、そういった社会モデルでの支援について解説します。
発達に偏りを持った子への関わり方について、子どもにも保育者にもストレスなく、アイデアと工夫で乗り切る。お互いにとって良い発達支援を学んでいただければ幸いです。
講師紹介
井上綾乃(いのうえ あやの)
発達支援センターでの実践や短大非常勤講師の経験を積み、自ら法人を立ち上げ、児童発達支援管理責任者(保育士と)して療育の現場で活動中。子どもをプログラムに合わせるのではなく、子どもに合わせた療育プログラムを行いながら、「楽しい」と感じる事で発達する支援を実践。現在では自治体の保育園巡回相談、保育ゼミ講師、依頼を受けての保育園、幼稚園研修講師等人材育成も行っている。
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パート①子どもの社会性の理解
子どもは社会の中で育っていく
子どもは生まれてすぐに社会の中に入ります。一人で生まれてくるのではなく、医師や助産師、家族に囲まれて生まれ、その後、親族や地域の人たちに出会います。これが「社会の中で育っている」ということです。人は、感覚をフルに使って、生まれる前から聞いていた両親の声で安心や快を感じたり、逆に、知らない人の声で不安や不快を感じたりします。子どもの場合、この快や不快の感情を「泣く」という表出手段で身近な存在に伝えています。おしっこが出ておむつが濡れてしまい気持ち悪い。そうすると、泣いて身近な大人に伝える。お腹が空いた時も泣いて、「お腹が空いているよ」、「僕のところに来て」と伝える。このように、乳児期は自分自身で機嫌をとることができないので、不快から快への変換は、身近な大人にしてもらうことになります。
その中で、自分以外の人に気づき、興味を持ち、人を好きになっていきます。一番身近な大人が、困った時には助けてくれたり、ほほ笑みかけてくれたり、心地いい歌を歌ってくれたりする。そうして、「この人は大好き」、「この人は泣いていても助けてくれない」と、快や不快の感情を行ったり来たりしながら、人への興味が育っていくのです。
不快・不安を強く感じてしまう子がいる
しかし、発達にアンバランスさを持っている子には、次のようなことが起こっています。感覚の面で考えてみましょう。一般的には「なんだか眠れない、誰か抱っこして」と思った時に抱っこされると、その揺れを気持ちよく感じ、トントンしてもらうと心地いい刺激が入ります。
しかし、感覚に偏りを持っている子どもは、抱っこされると痛いと感じたり、揺れることが不安で、怖く感じたりします。一般的には、心地いいと感じられることがむしろ不快で、怖かったり、不安だったり、痛かったり、気持ち悪かったりするのです。
身近な大人が喜ぶと思って子どもにやっていることは、子どもにとっては不快で、泣きが強くなったり、反り返りが強くなったりする。そうすると、大人としては、「なんで抱っこしているのに泣きやまないのだろう」、「なんで泣きが強くなってしまうのだろう」と感じる。そうすると、大人にとっても、赤ちゃんにとっても、良好な関係性が築きにくくなります。
「今日は天気がいいから外に連れて行こう」と一歩 家の外に出ると、社会の中は車の騒音や人の声、光、匂いなど、たくさんの感覚があります。
大人はそれを当たり前のように感じていて、うるさい場所であれば静かな場所に行く。匂いが苦手なレストランであれば、そこには入らずに違うレストランに行く。このようにして、その感覚を遠ざけることができる。そういった選択肢を取ることができるということです。一方、赤ちゃんは、泣いて伝える手段しか持っていないため、大人は、泣いている理由に気づきにくいのです。
今まで出会ってきた子どもたちの中には、こういった理由がありました。
4歳でも5歳でも、時には小学校1年生でも、ベビーカーに乗っていないと外に出られない子どもがいました。ベビーカーは、子どもにとって自分の安心できる部屋、パーソナルな空間であるため、そこにいる限りは安心して外に出られる。しかし、ベビーカーから降りてしまうと何が起こるかわからないと考えて、不安になり、ベビーカーから降りられない。ベビーカーがないと外に出られない。こういった子どもたちをたくさん見てきました。
社会の側が子どもに寄り添う
感覚一つをとっても、社会は多数派、つまりこういった感覚をあまり不快に思わない人たちが生活しやすいようにできており、そういった環境が整っています。そのため、子どもたちが出すサインの理由に気づきにくいのです。感覚は自分中心で感じるものなので、相手も同じ感覚だと思い、違いに気づきにくく、寄り添いにくい。こういったことで、子どもたちが社会への不安を感じて、社会との相性の悪さを苦しいと感じていることを知っていただきたいです。
このように、感覚は子どもたちにとって、社会への不安を感じる理由となっています。社会に一歩出てきた子どもたちは、お腹の中で守られていないので、個人として成長し始めています。
子どもの感情が快なのか不快なのか。不快であれば、なぜ泣いているのか、何が不快なのかを考えて、人・環境・物を含めた、社会の側が寄り添っていく。保育者は、そういった視点で乳児の頃から関わることが大切です。
パート②社会性を育む保育者の役割
子どもは初めての集団生活で社会性を学ぶ
保育園や幼稚園は集団生活の場。社会性を経験し、学ぶ場でもあります。家族の中で育ってきた子どもが、家族以外の人も含めた小さい集団から人との関係性が始まり、保育園や幼稚園に入ることで初めて大きな集団を経験することになります。
自分の一番の理解者で良き通訳者、つまり、自分の思いを代わりに相手に伝えてくれる両親は幼稚園や保育園にはいません。両親がいない中で、初めての場所に行くことが増えてくるのが2~3歳児、保育園であれば1歳児ということもあります。
それまで子どもは、安心できる大人と一緒に社会を経験してきました。砂場で遊んでいる時も保護者が近くから見ており、「僕が遊んでいるのを見ているかな」と安心しながら友達と関わっています。
しかし、幼稚園や保育園では、両親がいない中で社会性が必要な場面にたくさん出会います。
例えば、散歩で手をつなぐという行動を考えてみましょう。
これは相手がいることなので、手をつなぐ時の力の入れ具合を調整したり、一緒に歩く時には、スピードを相手に合わせたりしなければなりません。また、手をつなぐ距離感も大事で、近すぎても歩きにくく、遠すぎても手が引っ張られてお互いに痛い思いをしてしまいます。
このように、散歩で手をつなぐということは、相手のことを考えて歩かないといけない。これも社会性なのです。
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