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専門家が『処遇改善等加算』制度を解説!保育者の給与アップの仕組みとは

「処遇の改善」と書かれたボード
一般的に低いと言われる保育者の給与水準を改善するために、近年、複数回に渡って施策が行われてきました。これが「処遇改善等加算」という制度です。給与明細で「処遇改善手当」という項目を見た方もいると思いますが、いったいどんな仕組みでお給料に反映されるのでしょうか。今回は、専門家が詳しく解説します。

処遇改善等加算の目的

「PURPOSE」と書かれた積み木のイメージ
処遇改善等加算は、保育施設で働く職員の賃金を改善するために作られた制度です。

処遇改善等加算によって長く働くことができる職場環境を整え、保育士等に期待されている高度な専門性を可視化し、“こどもまんなか社会”においてミドルリーダーに求められる知識やスキルを体系化して学ぶことで、質の高い教育・保育を安定的に行うことを目的としています。

処遇改善等加算の概要

「1」「2」「3」と書かれたパズルのピースを持っている人のイメージ
処遇改善等加算は、「処遇改善等加算Ⅰ」「処遇改善等加算Ⅱ」「処遇改善等加算Ⅲ」の3つに大別されます。また、「処遇改善等加算Ⅰ」は「基礎分」と「賃金改善要件分」に分かれています。「処遇改善等加算Ⅰ(賃金改善要件分)」「処遇改善等加算Ⅱ」「処遇改善等加算Ⅲ」は、保育施設が自治体に申請することでもらえる加算です。

それぞれの加算の内容と用途、加算額の概要を確認してみましょう。

処遇改善等加算Ⅰ(基礎分)

保育士と園児
職員の平均経験年数の上昇に応じた人件費であり、非常勤職員を含むすべての職員の基本給や手当等の昇給のために使われます。

また、加算額は、保育施設職員の平均経験年数により定められた「料率(加算率/2~12%)」と「こどもの人数」と「処遇改善等加算Ⅰの単価合計」をかけ合わせて計算します。

処遇改善等加算Ⅰ(賃金改善要件分)

職員の賃金改善やキャリアパスの構築の取組に応じた人件費であり、非常勤職員を含むすべての職員の賃金改善のために使われます。

加算額は、基礎分と同じく、保育施設職員の平均経験年数により定められた「料率(加算率/6~7% ※1)」「こどもの人数」「処遇改善等加算Ⅰの単価合計」をかけ合わせて計算します。

※1…キャリアパスの構築の取組を行っていない場合、加算率が2%減少

処遇改善等加算Ⅱ

「CAREER」と書かれた積み木
技能・経験を積んだ職員のための追加的な人件費であり、副主任保育士や専門リーダー、中核リーダー等(以下、「副主任保育士等」という)、職務分野別リーダー・若手リーダー等(以下「職務分野別リーダー等」という)の職位に任命された職員に対する賃金改善のために使われます。

基本給への上乗せや手当などの方法で毎月支給する必要があり、多くの施設では「処遇改善手当」という手当名で支給されています。

加算額は、「職位ごとに定められた額」「人数A・B(こどもの人数と施設の加算適用状況により算定)」をかけ合わせて計算します。

処遇改善等加算Ⅱの支給対象となるためには以下の2つの要件があります。
  1. 支給対象となる職位に任命されること
  2. 研修修了要件を満たすこと
研修修了要件とは、令和5年度(2023年度)から段階的に適用が始まったもので、職位に応じて決められた分野数または時間数の研修を受講し、修了することが必要です。研修については、「処遇改善等加算Ⅱにおける研修の概要」において詳しく説明します。

処遇改善等加算Ⅲ

「ベースアップ」と書かれた赤い札
賃金の継続的な引上げ(ベースアップ)に使うための人件費であり、非常勤職員を含むすべての職員(法人役員を兼務する園長を除く)の賃金改善のために使われます。

加算額は、「施設区分ごとに定められた額」と「加算算定対象人数(こどもの人数と施設の加算適用状況により算定)」をかけ合わせて計算します。

処遇改善等加算Ⅲは、賃金改善額の総額の3分の2以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げにより支給しなければなりません(3分の2ルール)。
処遇改善等加算ⅠⅡⅢを解説する図版

処遇改善等加算Ⅱにおける研修の概要

処遇改善等加算Ⅱは、上で述べた通り2つの要件を満たす場合に、対象となる職員に支給されます。2つの要件のうち、「②研修修了要件」における“研修”については、保育所等に勤務する場合と幼稚園・認定こども園に勤務する場合で取扱いが異なります。それぞれ確認してみましょう。

保育所等に勤務する場合

研修会場の風景
保育所等に勤務する場合は、「保育士等キャリアアップ研修」を受講し、修了することが必要です。

保育士等キャリアアップ研修には、【専門分野別研修(6分野)】【マネジメント研修】【保育実践研修】があり、受講対象は次のように分けられています。

専門分野別研修

  • ①乳児保育、②幼児教育、③障害児保育、④食育・アレルギー対応、⑤保健衛生・安全対策、⑥保護者支援・子育て支援
  • 受講対象:保育所等の保育現場において、各専門分野に関してリーダー的な役割を担う者(その役割を担うことが見込まれる者を含む。)

マネジメント研修

  • 受講対象:各分野におけるリーダー的な役割を担う者としての経験があり、主任保育士の下でミドルリーダーの役割を担う者(その役割を担うことが見込まれる者を含む。)

保育実践研修 ※2

  • 受講対象:保育所等の保育現場における実習経験の少ない者(保育士試験合格者等)または長期間、保育所等の保育現場で保育を行っていない者(潜在保育士等)
研修修了要件を満たすためには、副主任保育士等は4分野以上(副主任保育士はマネジメント研修を含むことが必要)、職務分野別リーダーは担当する1分野の研修を修了することが必要です。

※2…【保育実践研修】は処遇改善等加算Ⅱの趣旨とは異なるため、研修修了要件を満たすために必要な分野数にはカウントできません。

保育士等キャリアアップ研修では、それぞれの研修で学ぶカリキュラムが定められており、1分野あたり15時間以上の研修が行われます。研修を15時間以上受講し、研修の受講後にレポートを提出するなど研修成果が確認できたら修了です。

研修を修了したら、研修実施機関から「修了証」が交付されます。「修了証」は、研修修了要件を確認するために保育施設や自治体に提出するので大切に保管しておきましょう。

なお、保育士等キャリアアップ研修を修了したら処遇改善手当がもらえると思われているケースがありますが、それは誤解です。処遇改善等加算Ⅱの支給対象となるためには、上記の2つの要件(①支給対象となる職位への任命/②研修の修了)を満たす必要があります。

幼稚園・認定こども園に勤務する場合

「幼保連携型認定こども園」と書かれた看板
幼稚園・認定こども園に勤務する場合は、保育士等キャリアアップ研修と異なり、決められたカリキュラムはありません。『幼稚園教育要領』や『幼保連携型認定こども園教育・保育要領』、『保育所保育指針』等を踏まえて、教育・保育の質を高めるための知識・技能の向上を目的とした研修を受講し、修了することが必要です。

また、研修修了要件を満たすためには、中核リーダー・副主幹保育教諭・専門リーダー(以下「中核リーダー等」という)は60時間以上(中核リーダー・副主幹保育教諭は15時間以上のマネジメント分野の研修を含むことが必要)、若手リーダーは15時間以上の研修(担当する職務分野に対応する研修を含むことが必要)を修了することが必要です。

幼稚園・認定こども園に勤務する場合は、都道府県や市町村、幼稚園・認定こども園・保育関係団体が主催する研修などのほか、園内で行われる研修の時間や保育士等キャリアアップ研修を受講した時間も研修の時間数にカウントすることができます。

また、保育士等キャリアアップ研修と異なり、研修実施機関から修了証が交付されない場合もあります。その場合でも、勤務先の施設において「研修受講歴一覧」をまとめることで研修を修了したものとして取り扱われます。

研修修了要件の適用時期

カレンダーの上に置かれた時計と砂時計
副主任保育士等や中核リーダー等に対する研修修了要件は、令和5年度から段階的に適用が始まりました。

令和5年度は「1分野または15時間以上」、令和6年度は「2分野または30時間以上」と、一年度ごとに修了していなければならない研修の数が1分野または15時間以上ずつ増えていきます。令和8年度からは完全適用となり、4分野または60時間以上の研修を修了している必要があります。

例えば、令和7年度に副主任保育士等に新たに任命される職員は、令和6年度中に3分野または45時間以上の研修を修了していなければならないことになります。

年度の後半になると、研修に申し込もうとしてもすぐに満員になってしまったり、スケジュールが合わなかったりと、研修を受講することが難しくなることもあります。

園長などの管理職は、次年度の人材配置を踏まえて、副主任保育士等に任命する職員が研修修了要件を満たせるよう、余裕をもって研修を受講できるよう計画しましょう。

また、職務分野別リーダーや若手リーダーは、令和6年度から完全適用されました。令和6年度以降は、1分野または15時間以上の研修を修了していなければなりません。

処遇改善等加算Ⅱによる加算月額(支給月額)

賃金が上がっていくイメージ
処遇改善等加算Ⅱは、処遇改善等加算ⅠやⅢと異なり、支給できる職員や金額、配分のルールなどが細かく決まっています。原則として、副主任保育士等は月額40,000円、職務分野別リーダー等は月額5,000円が支給月額ですが、施設によってはこの金額以外の金額が設定されていることもあります。

また、処遇改善等加算Ⅱは毎月支給することがルールです。例えば、年度初めなどで処遇改善等加算Ⅱの算定人数(「人数A・B」の人数)が確定していないときに、人数が確定するまで支給せず、人数が確定したら遡及して支給するケースも見られますが、それはルール違反と言えます。

令和6年度以降の制度改正

「UPDATE」と書かれた積み木のイメージ
処遇改善等加算の課題として、「制度そのものが煩雑であり、理解が難しい」「加算を取得するための事務手続が煩雑である」などの声が自治体や保育施設から上がっていました。

そういった声を踏まえて、令和6年度から申請手続が簡素化され、施設側は原則として計画書の作成・提出を省略できるようになりました。

しかし、何もしなくて良いという訳ではありません。計画書の代わりに「賃金改善に係る誓約書」を作成し、自治体に提出する必要があります。

「賃金改善に係る誓約書」では、「加算額を職員の人件費に確実に充てること」「賃金水準を維持すること」を誓約します。また、職員に対しては、これまでと同じく賃金改善の計画を周知する必要があります。

また、令和7年度以降は、処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの一本化が検討されています。一本化の際は、処遇改善等加算それぞれの趣旨や要件、加算額の算定をどう整理するか、支給対象者や配分ルールをどう整理するかなど、検討すべき課題が多々あります。

これから検討が進められていく予定ですが、今よりも理解しやすく、使いやすい制度になることが期待されます。

まとめ

「保育士の処遇改善」と書かれた紙の上に立っている人形のイメージ
処遇改善等加算は、保育施設で働く職員のための制度であり、ひいては保育施設に通う子どもたちのための制度です。

「長く働くことができる職場環境を整え、質の高い教育・保育を安定的に行うこと」を目的としており、「その全額を職員の賃金改善に確実に充てること」が必要です。

原則として、賃金改善の具体的な方法や支給対象者、職員ごとの支給額(どうやって、誰に、いくら支給するか)は保育施設の判断にゆだねられています。しかし、それは何の縛りもなく、保育施設の自由に決めて良いということではありません。第三者から見て不自然な偏りにならないよう賃金改善をする必要があります。合理的な理由なく、特定の職員や一部の職員に偏った賃金改善をすることは認められません。

いずれの加算においても、給与規程に「どうやって、誰に、いくら支給するか」が定められています。処遇改善等加算について疑問に感じた際は、給与規程を見てみたり、園長に聞いたりしてルールを確認してみましょう。

処遇改善等加算は、社会情勢や保育現場の動向などに応じて制度の見直しが図られてきました。どのような制度なのかを正しく理解し、適切に運用されているかを確認することが、園長などの管理職だけでなく、保育施設で働く職員にも求められています。

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関山 浩司(せきやま こうじ)

この記事を書いた人

関山 浩司(せきやま こうじ)

社会保険労務士法人 こどものそら舎 代表
保育士・社会保険労務士・中小企業診断士の視点から、保育施設を専門に労務管理、運営管理(処遇改善等加算、監査対策などを含む)についての支援を行うほか、こどもの人権擁護、こどもの権利、不適切保育の予防・解決、マネジメント等を研究。
東京都キャリアアップ研修の開催や東京都福祉サービス第三者評価事業、保育士・保育の現場の魅力発信事業の実施、保育施設や自治体職員向けの研修講師も務める。

<こどものそら舎ホームページ>
https://kodomonosora.jp/

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