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インクルーシブ保育を解説|考え方・取り組みのポイント・課題

子どもの形をしたカラフルな紙人形
多様化する社会の中でインクルージョン(包摂)という考え方が広まりつつあります。この流れを受けて、保育現場においても子ども一人ひとりのバックグラウンドを大切にした「インクルーシブ保育」に取り組む園も増えてきました。今回は、インクルーシブ保育の考え方や取り組みのポイントについて紹介します。

インクルーシブ保育とは

はじめに、インクルーシブ保育について見ていきましょう。

インクルーシブ保育の概要

多様なバックグラウンドを持つ子どもたちのイラストイメージ
インクルーシブ保育とは、障がいの有無や年齢、国籍などに関わらず、すべての子どもを包括的・包摂的(=inclusive)に保育する形態のことを言います。多様化する社会の中で、すべての人々が平等に社会に参加する「インクルージョン(=inclusion/包摂)」という考え方が広まりつつあります。その考え方を保育に取り入れたのがインクルーシブ保育です。

この保育では、子どもを分けて保育するのではなく、一つの集団の中で子ども一人ひとりの姿に注目します。その上で保育士は、個々の発達やバックグラウンドをもとに必要な支援を行っていくことが基本となっています。

よく誤解されやすい点としては、障がい児保育の在り方だけを指す言葉ではないということ。外国籍の子どもや、異年齢なども含めた広い概念ということを押さえておきましょう。

インクルーシブ保育の由来

「INCLUSION」と書かれたサイコロと虹のイメージ
昔は障害のある人とない人が分かれて社会生活を営むことが一般的でした。そんな中で、「ノーマライゼーション」という、障害のある人も社会の中で当たり前に生活する権利があるという考え方が広まりました。この考えは教育分野にも波及し、「インテグレーション教育(統合教育)」として、通常学級で障害のある子どもの教育も行われるようになりました。

現在では、インクルージョン(包摂)の考え方の浸透と共に「インクルーシブ教育」が広まり、障害の有無に関わらず、すべての子どもが共に学べる教育環境の構築が進められています。この考えは、未就学児にも適用され、「インクルーシブ保育」として、多様な背景を持つ子どもたちが共に育ち合う保育環境の実現を目指した取り組みが広がっています。

インテグレーション保育(統合保育)との違い

インクルーシブ保育と似た言葉で、「インテグレーション保育(教育)」があります。これは「統合保育(教育)」とも呼ばれており、障害のある子どもとない子どもが同じ環境で保育を受ける点では、インクルーシブ保育と同じです。ただし、統合保育では、障害のある子が母集団の中で過ごしていくための支援を重視しているため、障害のある子とない子の間には明確な線引きが存在します。

それに対してインクルーシブ保育には、障害のある子も含まれますが、年齢や性別と同様に、一つの背景として捉えられます。すべての子どもは背景に関係なく平等であるという考え方のもと、共に過ごすことができる環境を目指しています。

インクルーシブ保育に取り組むメリット

「MERIT」と書かれた立体文字
ここからは、インクルーシブ保育に取り組むことで、子どもや園が得られるメリットを紹介します。

子どもの育ちにおけるメリット

インクルーシブ保育が子どもの育ちに与える良い影響として、次のようなことが挙げられます。

多様性の受容

子どもは始めに「自分とちょっと違うな」と思っても、仲良く遊んでいるうちに違いは気にならなくなり、その人のありのままの姿を受け入れるようになります。さまざまな人と関わる経験を日常的に重ねることで、多様性を受け入れる基盤が育まれます。

自尊心の向上

子どもたちがお互いを認め合う経験を重ねることで、「自分は自分のままでいい」ということを自然と理解します。自分も相手も大切にする力が育まれることで、自尊心の向上が期待できます。

コミュニケーション能力の向上

発達やバックグラウンドが異なる子ども同士が一緒に生活することで、「どうしたら伝わるんだろう」と考え、試行錯誤する体験が得られます。頭を使いながらやりとりを重ねる経験を通じて、コミュニケーション能力の向上が期待できます。

園・保育士側のメリット

子どもを抱いた保護者と会話をする保育士
インクルーシブ保育を取り入れることで、保育者や園にもメリットがあります。具体的な内容として次のようなものがあります。

保育の質の向上

インクルーシブ保育は個々のニーズに応じた支援を行うことが基本です。保育士としてさまざまな状況への対応を重ねていくことで、多様なスキルが身に付き、保育の質が向上していきます。

チームワークの向上

特別な支援が必要な子どもも一緒に生活するため、他の保育士や専門職などと協働する機会が増えます。子どものことについて話し合ったり、共に実践を行ったりすることで、チームワークが向上していきます。

保護者の満足度向上

子ども一人ひとりの育ちに着目するため、保護者も「自分の子どもに目を向けてもらっている」と感じやすくなります。子どもの姿や課題、支援方法などを伝えていくことで、保護者の満足度や園への信頼が高まります。

インクルーシブ保育に取り組む際の課題

1ピースだけはまっていないジグソーパズル
続いて、インクルーシブ保育に取り組む上での課題を紹介します。

保育園の課題

園の課題として、次のようなことが挙げられます。

職員の理解

インクルーシブ保育の考え方を伝え、園として取り組むことを職員全体に周知することが大切です。そのためには、定期的に研修会を設けたり、職員同士で情報交換したりする場が必要となってくるでしょう。

人的・物的環境の整備

子ども一人ひとりに応じた支援を行うためには、人的・物的環境を整える必要があります。多様なニーズに応じるための保育士配置や、保育室の空間作りが不可欠です。

保護者の理解

保護者にもインクルーシブ保育の考え方を受け入れてもらうことが重要です。理解が得られないとクレームに繋がる恐れも。園の方針として、事前に伝えておくことが大切です。

子どもに必要なこと

インクルーシブ保育を行う上で子どもに必要な支援として、次のようなことが挙げられます。

個々のペースの尊重

発達が異なれば、個々のペースが異なるのは当然のことです。子どもが自分のペースで生活できるように、急がせたり、必要以上に手をかけたりしないことが大切です。

コミュニケーションのサポート

言葉の理解や表現の在り方も、発達によって異なります。「伝わらない」「表現できない」という経験から関わることを諦めてしまわないよう、保育者がサポートを行う必要があります。

自尊心の保護

能力差が出てしまう活動においては、「負けた」「できない」という経験から自尊心が傷つく可能性があります。結果だけではなく、過程に着目し、子どもがポジティブな気持ちを持てるようフォローすることが大切です。

インクルーシブ保育を取り入れていくためには

さまざまな色の子どもたち手のイラスト
最後に、インクルーシブ保育を取り入れていくために必要なことを見ていきましょう。

園の体制作り

インクルーシブ保育を取り入れていくためには、園の体制作りが欠かせません。

インクルーシブ保育の考え方を園の方針として全職員で共有すると共に、研修や情報共有の場を準備しましょう。また、多様なニーズに対応できるよう、時間や空間の使い方を柔軟に調整できるようにします。

保育者に求められるスキル

「SKILL」と書かれた積み木
インクルーシブ保育を行う上で、保育者一人ひとりのスキルも重要なポイントとなってきます。多様性について理解を深めた上で、それぞれの子どもに合わせた柔軟な対応を行える保育スキルを身に付けたいですね。

また、保育士同士の連携も欠かせません。チームで協働して動く力も重要なスキルだと言えるでしょう。

子ども一人ひとりを大切に

インクルーシブ保育とは、さまざまな背景を持つ子どもたちが集団を形成し、その中で一人ひとりが必要な援助を受けながら生活できることを目指す保育です。インクルーシブという言葉に関わらず、これからの時代において保育現場でも必要な考え方となってくるでしょう。

インクルーシブ保育の在り方について知りたい方は、参考にしてみてくださいね。

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佐野 きこ(さの きこ)

この記事を書いた人

佐野 きこ(さの きこ)

現役保育士。
現在は子どもだけでなく、保育士や保護者など、子どもに関わる人をサポートする仕事がメイン。子どもも保護者も保育士も、みんなが笑顔になれる保育を目指している。
座右の銘は「保育士は、保育のプロである」
保育の専門家として、わかりやすく保育を語れるよう奮闘中。
家庭では、2人の息子のお母さん。

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