虫を題材にした絵本の代表格
保育・幼児教育に絵本は欠かせません。絶対にそばにある存在です。そんな保育と絵本の縁についてお伝えしていくシリーズ『絵本で広がる保育の世界』。今回は、虫が大好きな子どものお話です。保育士をしていてこの絵本を知らない人はほとんどいないと思います。
『はらぺこあおむし』
エリック・カール作 もりひさし訳
偕成社 1976年
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作者のエリック・カール氏は昨年ご逝去されました(2021年5月)。新しい作品がもう出ないのかと思うと寂しくなりますが、これからも『はらぺこあおむし』を始め、たくさんの絵本が読み継がれていくことでしょう。俺もその1人です。
子どもが育つ糧
言わずもがなですが、『はらぺこあおむし』は、青虫が蝶になるまでの成長の物語です。たくさんの食べ物を体に取り入れ、蛹になり、羽化するストーリーは、子どもの成長をなぞらえていると言われています。自分の体に取り入れたものは、食べ物だけでなく、遊びや学びなどの経験、人間関係なども子どもが育つ糧となり、大きくなった時に活かされていきます。
俺自身、初めたきっかけも思い出せないような頃に、音楽教室に通い始めました。毎週土曜日のレッスンの時間、周りの友だちは遊んでいるのに、その1時間足らずの時間が苦痛で仕方ありませんでした。小学校卒業と同時にスッパリ音楽教室も卒業しました。それからしばらくして、保育士になろうと決めて受験する学校を探していた時、なんと入試にピアノがあるではありませんか! 半年かけて思い出し、難なく合格。それから20年以上ピアノを弾いています。どんな経験が活きてくるかなんてわからないものです。
絵本で虫好きの子の興味関心に向き合う
さて、保育と絵本の話に戻ります。自分のクラスの様子です。虫好きな男の子がいました。外遊びに出ると、鉢や石をめくってダンゴムシを探す毎日。俺も絵本や図鑑でその男の子の興味関心に付き合いました。毎週の貸し出し絵本は同じもの。『ころちゃんはだんごむし』
高家 博成 中川道子作
童心社 1998年
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違う絵本を読んだり紹介したりしてみるものの、またこの絵本に戻ってきていました。
ここで登場するのが、10年目後輩保育士! 俺よりも深く濃く、興味関心に付き合いました。一緒にダンゴムシの世話を始め、園庭や畑にいる虫を探し、図鑑で調べました。自分の家の近くに生息していたナナフシを捕まえてきて飼育もしていました。
虫が苦手な周りの子どもも少しずつ興味を持ち始め、虫ワールドの輪が広がっていきました。
虫ワールドが青虫の飼育に発展
ある日から青虫や芋虫の飼育も始まりました。プランターで栽培していたブロッコリーの葉を食べまくる困った存在ではありましたが、そんなことはおかまいなし。好みの葉や湿度などの環境を管理し、飼育していくと蛹になり、羽化して蝶々になりました。テラスでサヨナラしてまた見つけたら飼育する。のくり返し。保育士も子どもも活き活きとしていました。
しかし、中には何日経っても蛹のままうんともすんとも言わないものもいました。原因について、「湿度などの環境か?」「寄生虫にやられてしまったか?」と調べますが分からずじまい。ずっとずっと蛹のままでした。
そして奇跡が起こる!
雪がたくさん積もる冬が終わり、春がやってきました。子どもたちが良く見えるようにと時計の近くに置いた蛹たちを保育士はすっかり忘れていました。「気に留めていませんでした」の方が正確だったかもしれません。卒園式を終え、年度も残り数日となった3月29日。朝の会の出席呼名の途中、男の子が「今日は蝶もいるけどね。」とふいに呟きました。「えっ!?」と時計の方を見てみると『はらぺこあおむし』の名シーンそのままに、
「あっちょうちょ!!」 心の底から驚きました。もう羽化しないと思っていた一匹が蝶になっていたのです。その日は気温が上がってきていて、春のポカポカ陽気でした。羽化できる日をじっと待っていたのでしょう。
数日後、虫好きの男の子は小学校へ旅立っていきました。先生と一緒に楽しんだ虫だらけの1年間がどんな形で羽化するのでしょうか。
男の子にとっても保育士にとってもこの経験がかけがえのないものになったことには違いありません。
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