子どもはみんな絵本が好き
保育士を続けていて思っていることがあります。「子どもはみんな絵本が好き」ということ。絵本を通してお母さん、お父さん、友だちや先生と一緒に楽しい時間を共有することは幸せであり喜びです。児童発達支援センターに10年勤務している中で、発達支援の必要なたくさんの子どもの療育をしてきました。ADHDで絵本のページを長い時間注視しない子どもはチラッとみて楽しんでいます。同じ絵本を何度も読んでいると繰り返しを喜び、何度も何度も同じ場面を行ったり来たりしながら楽しんでいる子どももいます。
いろいろな絵本を楽しんでいく中で共通の好きな絵本が見つかり、共同注視できるようになってくると、保育士と子どもが繋がり、絵本を通して子ども同士が繋がっていく三交関係が築かれていきます。
連絡ノートなどで「○○の絵本が好きでよく読んでいます」とお伝えすると「YouTube絵本を検索して見てみましたが喜びませんでした」といった声を違った家庭から何度も聞きました。
絵本の楽しみは一方通行ではなく、読み手と聞き手の相互通行の読みあいということがよくわかるエピソードです。
全国津々浦々で子どもと楽しんでいる中でも、全員が絵本の楽しみを見つけていると実感しています。
絵本に興味を示さなかった子とのエピソード
昨年度出会った子どものことを書きたいと思います。幼稚園から児童発達支援センターに転園してきた年中児。運動遊びや音楽あそび、ままごとなど好きな活動があるのですが、絵本を読むと「横を向く」、「感情オフ(に見える)」、「離席する」などと絵本を一瞥もしないのです。これまでの経験上、周りの子どもは、数週間すると好きな絵本が見つかってくることが多いのですが、本当に姿が変わらない。
嫌がったりパニックになったりすることはなく時間と空間を共有しているので、「楽しんでいるのかもしれない。個別の絵本読みとクラス一緒の絵本読みにこれからも取り組んでいこう」という療育的評価をしていました。
成育歴や発達状況を詳しく書くことができにくいのでとわかりにくいとは思いますが、療育現場で長く勤務した俺が「この子はなんでこんなに絵本の楽しみを見つけられないのだろう」と不思議に思っていました。
それでもなんでも日常的に絵本の楽しみは、日々続いていきました。更には、保護者も読書が好きで本好きの子どもに育ってほしいという願いは持っていて、園で紹介する月間絵本を定期購読して手の届くところに絵本がある環境を作ってあげていました。
ところが…
ある日のこと…「読んで~」と部屋の絵本棚から絵本を持ってきました!!驚いたのなんの。
『おにのサラリーマン』
文:富安 陽子
絵:大島 妙子
福音館書店 2015年 地獄の鬼が会社勤めをしているという世界の鬼のサラリーマンことオニガワラ・ケンの日常を愉快に描いたお話。
膝に抱いて一冊読みました。途中でやめるかなと思いましたが、最後まで読みました。それから『おにのサラリーマン』が愛読書になり本棚から出してきては持ち歩いていました。「読んで」と言ってきたのは一回きり。その子どもの様子をよく見て、呟いている言葉に耳を傾けると絵本を見ながら「おじちゃん~」と言っている様子。
『おにのサラリーマン』のオニガワラ・ケンが「おおきに。ほな、いってくるわ」と仕事に出かける見開きページ。主人公の表情が、家族に向けるやさしさと仕事にいく憂鬱さと覚悟が混ざっているかのようななんともいえないもの。この絵だけを撫でながらずっと見ていました。他の保育士は「うちパパ~(内田先生のこと)」と言っているのを聞いたことがあるそうです。俺に似てるってこと!? 音楽療法活動や歌が好きで、音楽入り絵本、歌付き絵本も少しずつ楽しむことができるようになってきました。今年度はクラスメイトに歌好きが多く本当によく歌いました。
『ねこのピート だいすきなしろいくつ』
作/エリック・リトウィン 絵/ジェームス・ディーン 訳/大友剛 文字画/長谷川義史
ひさかたチャイルド 2013年 ねこのピートはお気に入りの新しい白い靴で出かけますが、いろいろな所を歩くので靴に色がついてしまいます。その出来事を悲しむのではなく、喜び前に進んでいくというスーパーポジティブシンキングキャットストーリー。
毎週の絵本の貸し出しでも『おにのサラリーマン』『ねこのピートシリーズ』を自分から選ぶようになりました。みんなが読みすぎて、買いなおしてもボロボロに。
絵本の楽しみ方は十人十色
絵本に興味がないのではなく、とんでもなく興味の幅が狭かっただけ。この子どもは、すごく狭い幅でしたが確かに絵本を楽しんでいました。やっぱり!子どもはみんなえほんが好きなんだ!
そして! そこからどんどん絵本への興味が出てきたんです!!… と言いたいところですが…
上に挙げた絵本以外にはほとんど興味を示しません。家庭でも買ってあげた『おにのサラリーマン』と新たに好きになった『おめんです』(いしかわこうじ偕成社/2013年)の鬼のお面が好きな様子。でも他の鬼の絵本がハマるわけでもありません。これだから療育は面白い♪
これから先、「楽しんでいない」と子どもを観察するだけではなく、いろいろな視点で子どもを捉えていきたいと思います。
この度、人事異動で10年勤務した児童発達支援センターを離れることとなりました。このコラムが公開されている時には、幼稚園に勤務しています。幼稚園勤務は初めてなので、41歳の新人教諭として日々楽しんでいることでしょう。発達支援の視点を大切にしながら幼児教育にまい進したいと思います!
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