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保育園の風水害への備えを解説|情報収集から避難計画・保護者対応・訓練まで

台風の被害を受けて冠水した建物
『保育防災』をテーマにお届けしている、「保育の寺子屋」提供の連載企画。今回のテーマは、園での風水害対策です。近年は台風だけでなく、線状降水帯による豪雨も全国各地で発生しているので、特に気を付けておきたいところ。予測と対応方法、日頃からの準備について解説します。

全国各地で発生している風水害

黑い雨雲に覆われた空
台風や線状降水帯による被害は、毎年全国各地で発生しています。風水害は、地域を限らず、どこでも発生し、場所によっては土砂災害や浸水などの大きな被害を引き起こします。

ただし、突然起きる地震とは異なり、台風や大雨は事前にある程度の情報を得ることが可能です。「どのくらいの規模の台風か?」「線状降水帯がどのエリアに来るのか?」など、予め情報を知っていれば、対策をすることができ、被害を最小限に抑えることが可能です。

そこで今回は、風水害から子どもたちを守るために、園でどのような対策が必要なのかをお伝えします。

(1)ハザードマップで自園の周辺のハザードを知る

ハザードマップの上に置かれた家の模型
まず必要なことは、自園とその周辺の「ハザード」を知るということです。ハザードとは、災害リスクのことです。また、ハザードを予測した地図を「ハザードマップ」と言い、市区町村ごとに作られています。

ここでは川の氾濫だけでなく、土砂災害や内水氾濫(※)などが発生した場合の状況が予測されているので、自園の周辺地域のハザードマップを見ておくことが大切です。内水氾濫は、川や山が近い場所で発生するとは限らないため、注意しましょう。
※「内水氾濫」とは、下水道などの排水施設の能力を超えた雨が降った時や、雨水の排水先の河川の水位が高くなった時などに、雨水が排水できなくなり浸水する現象。下水道や水路などから雨水があふれ出し、浸水被害が発生します。2019年(令和元年)の台風19号では、内水氾濫によって川崎市内のタワーマンションが大きな被害を受けました。
保育中に水害が発生している状況で保護者が迎えに来た場合、自宅までのルート内に危険な場所が無いかをハザードマップを見て確認することも、園の対応としては必要です。もしも危険と判断できる時には無理に自宅へ帰さず、「状況が落ち着くまで園に留まってもらう」という選択肢も頭に入れておきましょう。

(2)警戒レベルについて

スマートフォンに届いた土砂災害の避難情報
令和3年(2021年)5月に災害対策基本本の一部が改正され、警戒レベルとそれに対応する避難情報の見直しが行われました。
警戒レベル 避難情報等
5 緊急安全確保(市町村)
4 避難指示(市町村)
3 高齢者等避難(市町村)
2 大雨・洪水・高潮注意報(気象庁)
1 早期注意情報(気象庁)
通常、警戒レベル4の「避難指示」で全員が避難をすることになっていて、警戒レベル3の「高齢者等避難」では、高齢者などの避難に時間を要する人が避難をするタイミングとなっています。

「高齢者等」という言い方になっているため、「乳幼児は警戒レベル4で避難すれば良い」と思っている人も多くいらっしゃいます。しかし実際には、警戒レベル3は高齢者だけではなく、妊産婦や乳幼児を複数連れている場合なども含めた避難に時間を要する人が対象となっています。そのため、保育園は警戒レベル3が出た場合に避難をします。

水害時には、常に警戒レベルが今いくつなのかをチェックしておくと、避難すべきタイミングである警戒レベル3になった時に焦らず落ち着いて行動できます。

(3)事前の準備

「災害」「備え」と書かれた積み木とチェックシート
地震とは異なり、風水害は天気予報などで事前に予測ができるため、ある程度の準備をすることができます。では、事前にどのような準備をしておけば良いのでしょうか。

①タイムラインの作成

天気予報で台風の接近などが分かった時の対応や、警戒レベル1から5の各段階それぞれのタイミングに行うことなどを時系列で決めた「タイムライン」を作成しておきます。

決めておく内容の例としては、保護者への連絡のタイミングや、避難準備などになります。また、合わせて「職員はいつ帰宅するか」など園運営に関わる項目も事前に決めておくと、いざという時の心構えができできます。

②園の風水害対策について保護者に伝えておく

パソコン作業をしている保育士
台風や線状降水帯の発生により、登園時には雨も降っていなかったのに、急に大雨になって交通機関がストップしてしまうということもあります。台風や大雨などの予想がされている場合には、そのことを保護者に伝え、休める方には休んでもらったり、早めに迎えに来てもらったりすることが理想です。

ただ、急に保護者にこのようなお願いをしても、仕事の都合もあるでしょうし、なかなか理解してもらえないかもしれません。日頃から保護者とのコミュニケーションを大切にし、園だよりなどを活用して園の風水害対策を伝えていくことで、園としての方針に理解をしてもらう努力も必要です。実際に風水害が予想される時には、できるだけ早めに、具体的な園の対応を伝えるようにしましょう。

③よりリアルな訓練を行う

災害時用の備蓄品と非常用袋
実際に起こり得るリアルな状況を想定した訓練も有効です。

例えば、「水害時に垂直避難ができない場合は別の建物へ避難する」という計画であれば、雨の日に避難する訓練をやってみましょう。

また、風水害では停電が発生することもあります。台風の時などは日中でも室内が真っ暗になることもあるため、子どもたちが不安にならないように停電時の訓練も行っておきましょう。例えば、ペットボトルと懐中電灯を使った手作りのランタンなどは子どもたちが楽しむこともできるので取り入れるのもおすすめ。災害時だからこそ子どもたちが楽しめる工夫というのも大切です。

避難訓練の実践方法については、こちらの動画でも詳しく解説しています。あわせてチェックしてみてください。 【参考】
避難情報に関するガイドライン/内閣府(令和3年5月より避難勧告は廃止、避難指示1~5に改訂された)
>>詳細はこちら
子ども・子育て支援推進調査研究事業/厚生労働省(認可保育園に関しては、臨時休園などの意思決定は、保育の実施主体である市町村が行う)
>>詳細はこちら​​​

公開情報を基に準備を整えよう

想定浸水深の情報が掲示されている電柱
いかがでしたか? 風水害は、ある程度事前に予測できる点で他の災害と対応が少し異なります。ハザードマップや、警戒レベルとそれに対応した避難情報など、公開されている情報を基に園としての対応や避難計画について整えておきましょう。また、日頃からの保護者とのコミュニケーションや避難訓練を通して、いざという時に慌てないよう心の準備も整えておくことです。ぜひ参考にしてみてくださいね。

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藤實 智子(ふじみ ともこ)

この記事を書いた人

藤實 智子(ふじみ ともこ)

保育の寺子屋 代表
女性消防官(防火・災害予防にも尽力)を経て、保育士に。私立の認可保育園園長、小規模認可保育園の運営などの経験から「子どもたちの命を守る保育士たち」に寄り添いサポートすることを目指し、一般社団法人保育の寺子屋を立ち上げる。

現在は保育防災コンサルタント®として保育防災ハンドブックの制作、保育士向けの防災講座を行うと共に、現場の保育士たちと保育防災を一緒に考える場として「保育防災オンラインサロン」を毎月開催している(無料開催)。

<HP>
https://hoikubousai.com/
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