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震災時の保育園の対応と発災後の役割を解説

地震でひび割れた道路とカラーコーン
『保育防災』をテーマにお届けしている、(一社)保育の寺子屋提供の基礎講座。今回は、2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」を受けての特別寄稿として、震災発生時の保育園での対応と役割、準備しておきたいBCP(事業継続計画)について解説します。

災害時の保育園の役割とは

能登半島地震で被災された方には心からお見舞い申し上げます。

新年早々の大災害に、被災地域以外の方々も改めて災害の怖さを感じられたのではないでしょうか。保育関係者の中には、自分たちの園が被災した場合について考えた方も少なくないと思います。

大災害の後はすぐに元の生活に戻ることは難しく、日々復興へと前進していく必要があります。そのような状況の中で、保育園はどのような役割を担うのか? 2023年度に、新たに努力義務化となったBCP策定も含め、お伝えしたいと思います。
令和6年能登半島地震で倒壊した家屋大きな被害を出した令和6年能登半島地震


1. 震災発生直後の保育園の対応

ヘルメットを被って地震の避難訓練をする園児たち
まずは、発震直後の保育園の対応についてお話ししたいと思います。

保育中に大地震が発生した際にまずやるべきことは、その規模や状況に応じて瞬時に判断し、子どもたちを安全に避難させることです。避難場所へ行くべきか園内に留まる方が安全か、それはその時の災害の規模や周辺環境によっても異なってきます。臨機応変に対応できるようにするには、日頃からさまざまな想定をした訓練を行うことが大切です。

災害時の保育園の役割は、「子どもたちを安全に保護者の元に引き渡すこと」です。2011年(平成23年)に発生した東日本大震災では、地震直後に走らせた園バスが津波に巻き込まれて園児が亡くなった事例や、保護者に引き渡した後に津波で亡くなった子どももいました。少しでも早くお迎えに来てもらいたいという思いもあるでしょうが、危険な状況であればすぐに保護者の迎えを呼ばない、お迎えに来てもすぐに帰らせないなどの対応も必要です。

また、災害時でも保護者との連絡が取れるよう、複数の連絡手段を用意しておくようにする必要もあります。

固定電話やスマートフォン・携帯電話、SNSは、通信インフラの損傷や通信規制などで繋がらない可能性もあります。その点、災害用伝言ダイヤル(171)は、災害時に最も有効な安否確認手段です。必ず保護者も訓練に参加する機会を設けて、使用方法を覚えてもらうようにしましょう。

例えば、災害発生時に園側が避難状況などについて録音をし、保護者がその録音を聴き、園児たちの状況を把握するといった運用を想定しておくことが必要です。
災害伝言ダイヤル「171」で安否確認を行う親子
【参考】災害用伝言サービス/総務省

2. 発災後の保育園の役割

災害時の備蓄品一式
能登半島地震では、多くの保育園が被災しました。停電や断水が続き、休園を余儀なくされている園もありましたが、断水のまま地震の数日後には再開したという園もありました。報道された園関係者のコメントによると、再開した園では、十分な備蓄をしていたおかげですぐに再開することができたとのことでした。

発災後も、医療関係者や災害対策・復旧に関する業務に従事する関係者を始め、保育を必要とする人が大勢います。保育を必要とする人がいる限りは開園する義務があり、保育者自身が被災をしたからといって自由に休園することはできません(※)。一日でも早く再開するためにも、事前に備蓄をしっかりとしておくこと、災害時の職員体制などもマニュアル化し、すぐに体制が整えられるような準備が必要です。

保育園によっては福祉避難所に指定されているところもあります。福祉避難所とは、障がい者や高齢者、妊産婦など、通常の避難所で生活することが困難な方を受け入れる避難所です。福祉避難所に指定されている園は、災害時には福祉避難所の運営を行うことになるということを覚えておきましょう。
※災害時の保育園の臨時休園に関する判断基準については、令和2年(2022年)7月に厚生労働省から発出された「保育所における災害発生時等における臨時休園の対応等に関する調査研究(周知)」により、各自治体(市区町村)の責任において策定を行うことが通達されました。保育園のある自治体の基準がどうなっているかについては、事前に確認しておく必要があります。


3. BCP(業務継続計画)とは

事業継続計画(BCP)の表紙
BCPとは、Business Continuity Planning(事業継続計画)の頭文字を取った略語で、組織が自然災害やテロ、システム障害などの危機的な状況に遭遇した場合に備えて、中核となる業務を継続し早期復旧を図ることができる方法や手順を予め決めておくことです。2023年(令和5年)4月に施行された厚生労働省の省令改正により、保育園を含めた児童福祉施設でも作成が努力義務とされました。

そう聞くと、難しいことのように感じてしまうかもしれませんが、災害時などの非常時にどのようなリスクが考えられ、それに対してどのように行動するかを考えて計画を立てるということです。

保育施設のBCPには4つの目標があります。
  1. 利用する子どもの安全の確保・保護者の安全の確保
  2. 子どもの保育・養護を実施する職員の安全の確保
  3. 施設機能の維持
  4. 早期復旧・再開
この4つの目標を達成するために予め計画を立てます。

災害発生時には、瞬時に対応しなければならないことがたくさんあります。例えば、施設の安全確認方法、保護者との連携方法や職員の参集ルールなどが挙げられます。このように、災害発生から通常保育に戻るまでにどのようなリスクがあるかを考え、その対策を計画し、災害が発生した場合でもすぐに対応できる体制づくりを行っておくことで落ち着いて対処することができます。
ハザードマップで災害時の避難経路を確認しているところ
災害時の対応を考える上で意外と見落としがちなのが、保育者自身のことです。保育中に災害が発生したら、保育者自身も被災者でありながら、いつ帰宅できるか分からない状況になります。自分の家族の安否が分からないまま保育を行うのはとても不安でしょうし、集中できず子どもの事故に繋がる可能性もあります。災害が発生した場合、保育施設の職員が家族とどのように連絡を取り合うかということを話し合っておくことも大切です。

園では日頃から災害時のことを考えて避難訓練などを行っていると思いますが、災害は発生時だけでなく、発生後にどのような対応をするかということも重要です。できれば発災後の訓練も園で行ってみてください。さまざまな課題が見えてくると思います。

いざという時に皆が落ち着いて行動できるよう、発災後についても考え、BCPの作成や保護者との連絡手段の確認などを行いましょう。

【参考】「児童福祉施設における事業継続ガイドライン」/有限責任監査法人 トーマツ

園の防災対策を定期的に見直そう

いかがでしたか? 近年、さまざまな自然災害に対する高い防災意識が求められるようになってきました。保育施設に関わる法令も年々アップデートされています。園でも、定期的に防災対策を見直す機会を設けて、万全の準備を整えられるようにしましょう。

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藤實智子(ふじみ ともこ)

この記事を書いた人

藤實智子(ふじみ ともこ)

保育の寺子屋 代表
女性消防官(防火・災害予防にも尽力)を経て、保育士に。私立の認可保育園園長、小規模認可保育園の運営などの経験から「子どもたちの命を守る保育士たち」に寄り添いサポートすることを目指し、一般社団法人保育の寺子屋を立ち上げる。

現在は保育防災コンサルタント®として保育防災ハンドブックの制作、保育士向けの防災講座を行うと共に、現場の保育士たちと保育防災を一緒に考える場として「保育防災オンラインサロン」を毎月開催している(無料開催)。

<HP>
https://hoikubousai.com/

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