夏といえば怖い話
夏に怪談話をすることが世の常というもの。なぜ夏に怖い話をすることが多いのでしょうか。俗説ではありますが、肝を冷やして涼しくなろうということで捉えている人が多いのではないでしょうか。ちなみに絵本専門士として英語の先生と夏におはなし会をしようと計画を立てている時に知ったことですが、「夏×怖い話」は日本ならではの習わしであり、海外では「ハロウィン×おばけ」が多いので夏におばけの出てくるような英語の絵本はほとんどないと教えてもらったことがあります。
でも俺は日本人ですから… やっぱり怖い話の絵本を夏に読みたい!と思ってしまいます。
…あ! でも、おはなし会ではひとつ自分の中で決めているルールがあります。
「こわいから読まないでほしい」という子どもがひとりでもいたら読まない。
おはなし会に来てもらって楽しい時間を過ごしてほしいのに、初めて会ったおじさんから怖い話を聞いて楽しい時間が台無しになったら残念ですから。
保育の中で読む「怖い絵本」
しかし!保育の現場では状況が違います。毎日の生活の中で築かれていく子どもとの信頼関係の中で子どもそれぞれの気持ちや情緒を感じ取り、匙加減を的確に行うことで、怖い絵本を一緒に楽しむことができると思っています。以前にその匙加減を間違えてしまった時があります。怖い絵本を読んで、想定外の怖さだった女の子が、しばらくの間、内田が取り出す全部の絵本が怖くなってしまい、他の保育士の陰に隠れてしまったことがありました。反省しています。
現在は三歳児クラスの担任をしています。一番読んでいる絵本を紹介。 『とうふこぞう』
京極 夏彦 作
石黒 亜矢子 絵
東 雅夫 編
岩崎書店 2015年
岩崎書店から出版されている妖怪えほんシリーズのテーマ『笑』絵本で、冒頭こそ少し怖いものの、豆腐小僧が登場してきてからは、「クスクス」「ケラケラ」子どもたちの声が漏れてきます。今担任している子どもたちに、怖さが丁度良いのです。
おばけの見た目そのもので怖い絵本はありますが、そもそもおばけは目に見えないもの。5歳児クラスになると楽しむ怖い絵本の種類が変化してきます。 『くうきにんげん』
綾辻 行人 作
牧瀬 千穂 絵
東 雅夫 監修
岩崎書店 2015年
同じ出版社から同じ年に出版されている、こちらは怪談えほんシリーズの中の怪談話。タイトルにあるくうきにんげんは、空気で見えないから登場しません。ほら、あなたのすぐ後ろにもくうきにんげんがいるかもしれません。的な怖さ。
5歳児になるといろいろなお話を楽しみ、想像する楽しみもわかるようになってきているので、怖いものが見えない怖ろしさに対してドキドキ、ヒヤヒヤするのです。
先日、5歳児クラスでこの絵本を読んだ後に…
「そういえば、前に働いていた保育園でな… 子どもがひとりいなくなってなぁ… あれはくうきにんげんの仕業だったんかなぁ… ほらぁ!うしろに!!… あぁくうきにんげんは見えないんだった。」
なぁんて話をしました。絵本のお話と現実が繋がってしまう橋渡しをしてみました。その日は家で『くうきにんげん』の話をした子どもが多かったようでしたが、次の日は全員無事に登園してくることが出来ました。
なぜ怖い絵本を読むのか
ではなぜ怖い絵本を読むのか、怖い絵本が売られているのか。子どもを怖がらせるために読むのでしょうか。「言うこと聞かないと〇〇(怖い絵本に登場するもの)が来るよ!」
のように、子どものしつけのために怖い絵本を読んでいる保育士はいるのでしょうか。
俺は、子どもたちがお話の世界を楽しむために読んでいます。子どもと絵本という物を通してひとつの世界を共有するために読んでいます。愉快な話、感動する話などの中に怖い話があるということ。子どもたちも怖いもの見たさで、結構好きなんだよなぁ。 俺の子どもの頃の怖い絵本は『おしいれのぼうけん』(ふるたたるひ たばたせいいち作/童心社/1974年)に出てくる、ねずみばあさんだったなぁと思い出します。 40年前から考えれば、たくさんのジャンルの怖い絵本が出ています。子どもたちと信頼関係を築きながらこれからも『怖い絵本』も楽しんでいきたいと思います。
怖い絵本を読むと涼しくなる?
とある日のこと。保育室のエアコンの調子が悪くなり、遊戯室で給食を食べて昼寝をすることになった日。給食を食べてから食事の片付け、昼寝の準備までの間、エアコンの効かない暑い部屋で短時間過ごしました。涼を求めて、子どもたちと怖い絵本を読みましたが… 汗がびっしょりでした。やっぱり俗説だったかー。
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