子どもたちの視点から絵本の世界を考える
前回は、『絵本は心の栄養』と言われていることから、考察していきました。今回は、子どもたちの視点から絵本の世界について考えてみたいと思います。 保育園に通ってきている子どもは、どこで絵本を目にし、どうやって手に取っているのか考えたことありますか? 俺は、絵本専門士になるまで深く考えたことがありませんでした。園児にとっての絵本の世界とは…。園文庫、先生の持っている絵本、本屋さん、図書館。この中に自分の意思で絵本を用意している所はほぼなさそうです。園児が購入する絵本を選ぶ取り組みをしている園もありますが、そう多くはありません。となると、自分以外の大人の目や手が入った絵本が園児の目の前に並んでいることになります。もし絵本を自由に買っていい仕組みだったとしたら、本屋さんで自分が選んだ絵本は、「自分で絵本の世界を広げた」ことになります。ちなみに我が末息子は、保育園降園後の本屋さん通いが趣味です♪ しかし、年間5000点出版されているとも言われている児童書ジャンル。全国にある本屋さんに全ての本が届くシステムになっていません。地元の本屋さんに並ぶことなく絶版になっていく絵本がたくさんあります。そう、広い意味で考えてみると、流通の仕組みの手が入って目の前に並んでいるのです。それでも我が末息子は、夏も冬も本屋さんに通います♪ 園児にとっての絵本の世界は、保護者、先生、図書館司書、本流通システムなど、誰かの価値観の中で作り上げられているとも考えることができると思います。
手に入らない絵本
数年前の保育園での出来事。俺は年長担任。『3びきのくま』という絵本をご存知でしょうか。2歳児担任の若い保育士が、「最近、子どもたちが『3びきのくま』を気に入っていて、ままごとで遊んでいると大、中、小の皿を用いて絵本の世界を楽しんでいる感じがする。これをもっと広げてあそびを発展させていきたい♪」とうれしそうに教えてくれました。
『3びきのくま』
L・N・トルストイ 作
バスネツォフ 絵
小笠原豊樹 訳
福音館書店 1962年
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森で迷子になった女の子は、小さな家を見つけて入ります。そこには三種類のお椀に入ったスープがあり、それを嗜みます。ベッドで寝ていると家の持ち主、3びきのくまが帰ってきてしまいます。早口言葉のようなそれぞれのくまの名前が楽しく、大人も子どもも楽しく読めるロシアのお話。俺もクラスでよく読んでいました。
「2歳児クラスでこの絵本が楽しめるのね。年度後半で大きくなってきているから楽しめるか!俺も行って一緒に遊ぼう♪」と思い、2歳児の部屋へ行きました。すると棚の上にあったのは…
『3びきのくま』
たちもと みちこ 絵
ブロンズ新社 2009年
>>本の紹介はこちら
俺の知っている『3びきのくま』と違う! しかもロシアじゃなくてイギリス! 確かにこのタイトルの絵本はまだ他にもあり、同音意義本が存在しています。2歳児クラスの子どもたちは、俺の知らなかったこのバージョンの絵本を楽しんでいます♪ 確かに絵がはっきりしていて形を捉えやすく、デザイン性あふれた構成になっていました。そして、なによりもこの本をきっかけにままごとが広がっていった事実。
現在、この絵本は新品では手に入りません。売り上げが伸びなければ刷られなくなっていきます。そして福音館書店版は手に入ります。
それでは、今でも本屋さんやネット書店で買うことができる絵本が良い絵本なのでしょうか? 年長担任の俺の選ぶ絵本と、2歳児クラス担任の選ぶ絵本はどちらが良い絵本なのでしょうか?
保育士と園児、双方にとっての絵本の世界は何で、良い絵本とは何なのでしょうか?
俺にとっての良い絵本、子どもにとっての良い絵本、それぞれ違って当たり前なんです。
次回は、新刊絵本や古絵本の切り口で 良い絵本ってなんだろう? をお伝えします。
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