途中入園してきた3歳の誕生日を迎えたばかりのAくん。
初めて一緒に散歩に出かけた日のことです。ママに会いたくて涙をこぼしながらも、外に出ると気分が変わり、おそるおそる周りを見ながら歩いていました。
他の子どもたちがアリの行列を見つけ、集まって見ていると、そこにAくんがやってきて、足で「この!この!」と言いながらアリを踏み潰し始めました。
驚いた私は「Aくん、アリさんかわいそうだよ」と声をかけると「いいんだよ!アリなんかこうしてやる!」と言いながら、アリの行列を蹴散らしてしまいました。
その後も、咲いていた花をむしり取っては捨ててまわり、落ちていた木の棒を拾って木の幹を叩いたり…。その姿は、見えない敵と戦っているような様子でした。
「ダメよ」と、止めることは簡単です。でもそれはうわべだけの対処でしかありません。何がAくんをそうさせるのか、様子を見ることにしました。
もしこれが狭い保育室内だと、危なくてそのまま様子を見ていることはできなかったでしょう。
広さのある自然の中だからこそ、私たち保育者もAくんをそのまま見守ることができました。
初めて保育園に預けられたAくんは、不安や恐れで心がいっぱいになっているように見えました。なるべくAくんには穏やかに関わり、やって欲しくないことは「やって欲しくない」と伝え、散歩中はAくんに行きたい場所や見たいものを選んでもらい、一緒にみんなで行きました。
2〜3日すると、Aくんの表情が変わってきました。
道に咲いていたタンポポを1輪摘んで、とっても優しい声で「ほら、たんぽぽさいてたよ」と小さなお友だちに見せたり、木の棒を持って「みてみて!かっこいいでしょ!」とポーズを決めて見せてくれたりと、とても穏やかになっていきました。
優しい表情や言葉、面白いことを見つける好奇心旺盛な姿が前面に出てくるようになりました。この姿が、Aくんの本来の姿なのでしょう。
子どもたちの中には“善”も“悪”も両方存在しています。
どうしても“悪い面”ばかりに目が行きがちですが、その子の中にある“善い面”を引き出して行きたいものです。
子どもたちには “優しさ”を表現して欲しいと私は願っています。でも子どもたちを取り巻く環境は、テレビから流れる戦いのシーンや乱暴な言葉で溢れているのではないでしょうか。
子どもたちが“優しさ”を表現していけるような環境が自然の中にはあると思っています。
自然には、子どもの純粋な心を取り戻す力があるように感じています。
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