子どもたちの周りに潜む危険な虫
夏になると、さまざまな場所で虫の姿を目にすることも増えますよね。好奇心旺盛な子どもたちは積極的に虫探しをしたり、捕まえてじっくり見たり、自然との触れ合いを楽しみます。一方で、中には注意しなければいけない危険な虫も。保育士も万が一のときに備えて、どのような虫がいるのか理解しておくことも大切です。リスクマネジメントの重要性
今回は、野外活動の指導者養成や子ども向けの生き物教室、アウトドア活動の指導などを行っている一般社団法人セルズ環境教育デザイン研究所の代表理事、西海太介さんにお話を伺いました。「危険生物対策についての講習会を行っていますが、保育士さんや森のようちえんに関わる方にも受講していただくことが多いです。けがをさせないことや応急措置も大切ですが、“学んでいたけれど起きてしまった事故”と、“学ばないで起こしてしまった事故”では全く違います。組織を守るという意味でも、リスクマネジメントとして知識を持っておくことを勧めています」(西海さん)
外遊びはもちろん、遠足などの園外活動でも虫を目にしたり触れたりする機会があると思います。安心して活動を楽しむためのリスクマネジメントとして、知識を持っておいて損はありませんね。
神奈川県横浜市生まれ。
『危険生物対策』や『アカデミックな自然教育』を専門とする生物学習指導者。
昆虫学を玉川大学農学部で学んだ後、高尾ビジターセンターや横須賀2公園での自然解説員経験を経て、2015年「セルズ環境教育デザイン研究所」を創業。
現在、危険生物のリスクマネジメントをはじめとした指導者養成、小中学生向けの「生物学研究コース」などの専門講座を開講するほか、メディア出演や執筆・監修、中華人民共和国内の自然学校の指導者養成を行うなど幅広く携わる。
監修書籍に『すごく危険な毒せいぶつ図鑑』(世界文化社)。
著書に、『身近にあふれる危険な生き物が3時間でわかる本』(明日香出版社)など。
HP https://cells.jp.net/
「30秒」の確認が安全に繋がる
身近な虫が絡んだ死に至るケースとして最も多いのは「ハチ」で、年間20件ほど。続いて「ヘビ」が年間4~5件となっているそうです。ハチのケースの中でも保育園や幼稚園などで気を付けたいのは、「巣を刺激してしまい大量に刺される」パターンとのこと。例えば、遠足などに行く際は必ず保育士さんが下見を行うと思います。あるケースでは、「下見のときには大丈夫だったが、いざ行ってみたら実はハチの巣があった」など、見つけられなかったということもあるようです。
下見の際は少人数で行くため、ハチにとってもそこまでの刺激にならないものの、遠足当日はたくさんの子どもや保育士が来るため「刺激量が増えることが原因になる」と西海さんは話します。
そんなときの対処法としては、「30秒~1分くらい周囲の景色を観察することが効果的」とのこと。ハチの巣がすぐ近くにある場合は、たったそれくらいの時間でも5~10回程の往来をするため、周囲を観察すれば巣の有無を確認できるそうです。下見の際には、ぜひ実行してみてくださいね。
危険な虫の特徴と対処法
実際に身の回りにいる危険な虫の特徴や対処法を聞いてみました。毛虫(イラガ・チャドクガ)
住宅地でよく見られる身近な毛虫の一つが、イラガやチャドクガの幼虫です。園庭や近くの公園などでも見られるので、目にする機会が多いかもしれません。害のないものもいますが、毛虫は基本的には触らないでおくのが得策とのこと。【イラガの幼虫】
- 出現:7~10月頃。サクラやクリ、ウメ、ケヤキなどさまざまな木につく
- 症状:触れると痛みあり。数時間で収まるが、かゆみが残ることも
- 出現:梅雨時期・9~10月頃。ツバキ科の植物(ツバキ、サザンカ)につく
- 症状:直接触れていなくても、毒を持った毛が風に舞うことで被害を受ける可能性あり。ツバキ科の植物があるところは注意。痛痒い状況が2週間ほど続く。赤い発疹が出る
キイロスズメバチ
住宅地などでも現れる、毒針を持つ危険なスズメバチの一種。ゴールデンウイークくらいから戸袋などの閉鎖的な空間を利用して巣作りを始めることも。その後、大きな巣を作るために7~8月に開放的な空間に引越しをするため、今までなかった場所に新たに巣が見られることもあります。- 出現:5~11月頃。山地から住宅地まで幅広い環境を利用することができる
- 症状:刺されると強い痛みを伴い、体質等によっては命に関わることも。必ず死に至るわけではないが、刺されたところと違う場所に症状が現れるようであれば救急車を
セアカゴケグモ(外来種)
もともと外来種ですが、既に日本に「定着」し繁殖している毒グモです。たまにニュースになったりもしますよね。基本的にはおとなしい性格ですが、暖かい場所を好み、花壇の裏やブロックの裏などにも生息するため、不用意に手を入れて刺激したりしないようにしましょう。- 出現:関東には少なく、愛知県や関西地方などの暖かい地域に多い
- 場所:都心部、住宅地、ブロックの裏、サービスエリアなど
マダニ
日本全国どの地域の屋外でも見られるダニの仲間です。皮膚に取り付いて吸血をするため、薮などに入った際には注意が必要。そのような場所で活動をしたあとには、全身をチェックしましょう。脇や股などの皮膚が柔らかい場所が咬まれやすいため、お風呂などでチェックすると良いでしょう。- 出現:全国
- 場所:藪の中など
- 症状:発疹、感染症(この時期は新型コロナウイルスによる発熱と疑われる可能性もあるため、受診する際はマダニに咬まれた上で受診していることを伝える)。さまざまな感染症を媒介するため、咬まれた場合はその後の体調の変化にも注意しましょう
ムカデ
- 出現:北海道を除く全国(北海道でも一部分布記録あり)
- 症状:ハチに刺されたのと同じような強い痛みや腫れを引き起こす。体調によっては全身症状を起こすこともあるので、咬まれないように注意しよう
ヒラズゲンセイ
- 出現:西日本(関西や高知県など)
- 似たタイプの(毒の体液をもつ)虫:アオカミキリモドキ、ツチハンミョウ、アオバアリガタハネカクシ
- 症状:体液に毒があり、触ると皮膚炎を起こす
ヒアリ(外来種)
病院に行くか迷ったら
症状の違いを見分ける
虫に刺されたときの症状は「局所症状」「全身症状」に分けられますが、救急車を呼ぶかどうか迷ったときにはこの症状の違いをしっかりと見分けましょう。【局所症状】
- 刺された部分が腫れたり、痛くなったりする。
- 水洗いと冷却が基本の対処法。辛い場合は病院へ。
- 刺された場所以外に何らかの症状が出る。(例:息苦しさ、頭痛、蕁麻疹など)
- この場合は、アナフィラキシーショックが起こっていない場合でも病院へ。
エピペンの使い方
アナフィラキシーが発生したときに、症状の進行を抑えるために使うエピペン。食物アレルギーなどの対応で、子どもに処方されていることもあるかと思います。もしハチ毒に対してエピペンを処方されている子が、ハチに刺されてアナフィラキシー症状を出してしまったときは、必ず本人用に処方されたもののみ使用するようにしましょう。もしも他の子どもに使用した後に、処方された本人にエピペンが必要な症状が起こったら取り返しがつきません。薬と同様、取り扱いには十分に注意しましょう。使用する際は必ず手をグーにして握り、エピペンの先に親指を置かないようにします。焦って上下逆さに持ってしまい、誤って自分の指に刺してしまうという事故が起こる可能性があるので、落ち着いて確認してから使用するようにしましょう。
知ることが最初の予防に
今回は、身近で見られる危険な虫について、気を付けたい場面や症状を教えていただきました。どんな虫なのか、刺された場合どのような症状が出るのかを知っておくだけでも、その後の対応が変わってきます。子どもたちの安全を守り、楽しく戸外活動をするためにも、ある程度の知識を持っておいて損はありませんね。「危険な虫」オリジナルポスター無料ダウンロード!
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