データから見る保育士の給与
まずは保育士の給与について、他の職種と比較しながら、違いと特徴を見ていきましょう。(1)保育士の95%以上が女性
最初に、保育士という職種の特徴と言える「女性比率の高さ」の視点を押さえておきます。厚生労働省が2021年(令和3年)に発表した調査では、2021年(令和3年)時点の女性の雇用者数は2,717万人。労働力人口総数に対して45.5%と、男女比は5割に少しずつ近づいてきています。※参考:令和3年版働く女性の実情/厚生労働省
産業別に見ていくと、「医療・福祉」の女性就業者は654万人で最多、次いで「卸売業・小売業」が518万となっています。これらは、女性雇用者の総数と比べても、女性の比率が多い業界であると言えます。その中でも「保育士」は特に女性が多い職種の一つ。独立行政法人医療福祉機構が実施した2018年(平成30年)の調査では女性が95.8%と、圧倒的に女性が多い職種となっています。 ※出典:保育士の現状と主な取り組みついて/厚生労働省
(2)教育・医療・福祉に関わる職業との給与比較
この点も踏まえて、保育士の待遇について他の職種と比較しながら見ていきましょう。厚生労働省が2022年(令和4年)に調査した賃金構造の結果によると、「きまって支給する現金給与額(月額給与の額面)」について、保育士は男女計で26.68万円となっています。これに年間賞与を合計した年収換算は391.37万円で、これは全産業の平均である530.55万円よりも低い水準です。
職種(男女計) | 年収 | きまって支給する現金給与額(12カ月分)※ | 年間賞与その他特別給与額 |
---|---|---|---|
全体(正社員・正職員) | 530.55 | 430.20 | 100.35 |
保育士 | 391.37 | 320.16 | 71.21 |
幼稚園教員・保育教諭 | 399.47 | 320.88 | 78.59 |
介護支援専門員(ケアマネージャー) | 405.79 | 341.40 | 64.39 |
介護職員(医療・福祉施設等) | 362.93 | 309.00 | 53.93 |
看護師 | 508.13 | 421.92 | 86.21 |
小・中学校教員 | 739.72 | 557.52 | 182.20 |
※手取りではなく所得税や社会保険料などを控除する前の金額
※参照:令和4年賃金構造基本統計調査/e-Stat(政府統計ポータルサイト)
教育・医療・福祉に関わる職種の中で比較してみると、「小・中学校教員」が739.72万円と、全体平均よりも高い数字であることが分かります。これに続いて、「看護師」が508.13万円と2番目に高い数字になっています。
「小・中学校教員」は、年間賞与が全体平均よりも高く、年収全体を大きく引き上げているのが分かります。対して「看護師」は、年間賞与は全体平均を下回りながらも、現金給与額は全体平均に近い数字となっています。
「幼稚園教諭・保育教諭」と、「介護」に関わる職業2つは現金給与額、年間賞与ともに全体平均より低い数字となっています。
(3)年齢別に見た給与比較 -幼稚園教諭・保育教諭・介護職-
職業別の給与構造を詳しく見ていくため、前章で挙げた職業を年齢別に並べて比較してみましょう。まずは、「幼稚園教員・保育教諭」「介護」に関する2職種と比較してみます。
職種(男女計) | 保育士 | 幼稚園教員・保育教諭 | 介護支援専門員(ケアマネージャー) | 介護職員(医療・福祉施設等) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
区分 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 |
全年齢 | 391.37 | 71.21 | 399.47 | 78.59 | 405.79 | 64.39 | 362.93 | 53.93 |
~19歳 | - | - | - | - | - | - | 251.60 | 10.76 |
20~24歳 | 323.41 | 47.41 | 318.01 | 49.21 | 255.60 | 6.00 | 309.41 | 33.41 |
25~29歳 | 366.30 | 68.46 | 370.36 | 74.56 | 288.61 | 24.61 | 346.78 | 52.42 |
30~34歳 | 377.20 | 66.64 | 392.02 | 76.42 | 369.88 | 60.52 | 373.49 | 61.13 |
35~39歳 | 401.38 | 76.42 | 402.57 | 78.21 | 400.85 | 60.53 | 377.78 | 60.26 |
40~44歳 | 443.57 | 85.49 | 432.97 | 90.25 | 410.93 | 69.53 | 387.09 | 62.01 |
45~49歳 | 425.84 | 88.64 | 434.34 | 91.50 | 432.85 | 76.57 | 388.64 | 62.48 |
50~54歳 | 425.55 | 80.07 | 446.29 | 89.17 | 411.66 | 65.34 | 374.50 | 55.30 |
55~59歳 | 418.11 | 70.95 | 487.39 | 108.55 | 415.06 | 70.18 | 366.81 | 53.25 |
60~64歳 | 390.29 | 67.01 | 517.00 | 116.92 | 385.18 | 56.38 | 333.61 | 42.25 |
65~69歳 | 394.08 | 66.00 | 506.12 | 109.88 | 357.82 | 30.22 | 304.40 | 33.92 |
70歳~ | 504.74 | 93.26 | 617.96 | 142.88 | 341.59 | 18.31 | 268.28 | 18.80 |
※年収=(きまって支給する現金給与額×12)+(年間賞与その他特別給与額)の合計
※参照:令和4年賃金構造基本統計調査/e-Stat(政府統計ポータルサイト)
「保育士」は、年齢に応じて徐々に給与が上がっていくものの、上昇の幅は比較的小さいことが読み取れます。ピークを迎えるのは40~44歳の443.57万円で、他職種に比べて最も早いタイミングとなっています。
「幼稚園教員・保育教諭」は、49歳までは保育士の傾向と大きな違いはありませんが、保育士がピークを迎えた50歳以降も給与が上がり続けていることが分かります。また、「保育士」「幼稚園教員・保育教諭」ともに70歳以降で再び給与が上がっていますが、これは「園長」「施設長」などの役職者が数字を引き上げていると推測されます。
(4)年齢別に見た給与比較 -看護師・小・中学校教員-
続いて、年収全体が高い水準にある「看護師」「小・中学校教員」と比較していきます。職種(男女計) | 保育士 | 看護師 | 小・中学校教員 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
区分 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | 年間賞与その他特別給与額 |
全年齢 | 391.37 | 71.21 | 508.13 | 86.21 | 739.72 | 182.20 |
~19歳 | - | - | - | - | - | - |
20~24歳 | 323.41 | 47.41 | 400.35 | 46.23 | 385.89 | 59.01 |
25~29歳 | 366.30 | 68.46 | 477.04 | 76.72 | 466.08 | 93.00 |
30~34歳 | 377.20 | 66.64 | 478.87 | 78.31 | 630.13 | 168.97 |
35~39歳 | 401.38 | 76.42 | 505.83 | 90.63 | 681.51 | 137.67 |
40~44歳 | 443.57 | 85.49 | 529.74 | 96.54 | 793.06 | 195.10 |
45~49歳 | 425.84 | 88.64 | 565.36 | 103.60 | 885.37 | 230.53 |
50~54歳 | 425.55 | 80.07 | 566.38 | 105.82 | 953.13 | 236.73 |
55~59歳 | 418.11 | 70.95 | 578.45 | 109.01 | 1,001.59 | 297.79 |
60~64歳 | 390.29 | 67.01 | 483.11 | 70.31 | 810.15 | 190.95 |
65~69歳 | 394.08 | 66.00 | 393.94 | 44.50 | 645.25 | 196.81 |
70歳~ | 504.74 | 93.26 | 395.53 | 27.25 | 626.45 | 45.29 |
※年収=(きまって支給する現金給与額×12)+(年間賞与その他特別給与額)の合計
※参照:令和4年賃金構造基本統計調査/e-Stat(政府統計ポータルサイト)
「小・中学校教員」は、20~24歳の給与は他職種と大きな違いはないものの、そこから比較的高いペースで昇給していくことが読み取れます。特に賞与においては、保育士の年収が最も高くなる40~44歳の85.49万円に対して、小・中学校教員は195.10万円と、約2倍以上の違いがあります。
こうしてみていくと、職種によって給与の水準や上がり方、上り幅にはさまざまな違いがあることが分かりました。
保育士における待遇の特徴をまとめると、
- 給与の上がり幅が小さい(最大で400万円台)
- 他職種に比べて昇給のピークが早い(40~44歳がピーク)
保育士の待遇における課題点
他職種との比較から見えてきた保育士の待遇における傾向について、保育業界における構造の特徴や課題点を整理していきましょう。
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