ながと夢認定こども園
JR常磐線龍ヶ崎市駅からバスで約20分、閑静な住宅街の中に「ながと夢認定こども園」はありました。青々とした芝生が眩しい園庭には、ひときわ立派なクルミの大木。木陰に入ると、心地よい風が通り抜けていきます。園庭の一角にある大型遊具や砂場、鉄棒などで思い思いに遊ぶ子どもたちの楽しそうな笑い声が響いていました。今回案内してくれたのは、園長の田尻育子さん。これまで実に300もの保育施設の視察を重ねてきたという、とても研究熱心な園長先生です。園の環境作りにはどんな工夫がされているのか? またどんな狙いが込められているのか? お話を伺いながら見学をさせていただきました。
子ども目線で作られたエントランスの工夫
まずは園のエントランスからレポート開始です。子ども専用の入口で気持ちを切り替え
広くて木目調の床と壁が目に優しいエントランス。中に入ると、早速気になる仕掛けを発見しました。正面の入口から見て右手側が子どもたちの下駄箱エリア。動線としては、正面で靴を脱いで右に回り込むのか普通ですが、下駄箱エリアとエントランスを隔てている壁には、大人はかがまないとくぐれない高さの小さな入口が設けられています。 裏から見ると分かる通り、低めのゲートをくぐるとアーチ状の土間になっています。ここは、いわば“子ども専用”の入口。子どもたちだけが使える、もう一つの玄関です。「当初の設計段階では壁だったのですが、“子どもと大人の世界を分ける入口を作ってみよう”という狙いで作ることにしました」と田尻園長。
入口裏の周りをよく見ると、ステンドグラスのアーチの上には木が、横の方には動物たちがさりげなく描かれています。ゲートをくぐると、まるで絵本の中に入ったような世界観が展開されています。「子どもたちはみんなここを通りますが、親御さんとも“ここでバイバイ”という風に、気持ちを切り替えるきっかけになっています」とのこと。子どもたちにとっては、登園が楽しみになる仕掛けですよね。
“気持ちが落ち着く”子ども専用の小部屋
下駄箱コーナーの中を見ると、いちばん奥の一角にある子どもサイズの小さい扉が目に入りました。表札には「こどもるーむ」と書いてあります。 スライド式の扉を開けてみると、ちらっとヒマワリの絵と長椅子、テーブルが見えました。エントランスホールと下駄箱との位置関係は下にある図の通り。子ども専用の玄関だけでなく、下駄箱の奥には子どもたちだけの秘密の小部屋が隠されていました。 早速中に入ってみると、長椅子とガラスに木の実や花が埋め込まれた可愛いテーブルがあり、壁の全面には、四季の風景の中で生き物たちがのんびりと暮らしている様子が描かれています。背景や色使いも落ち着いたトーンで目にも優しく、穏やかな気持ちで過ごせる空間になっています。部屋を作ったきっかけについて、「当初は、園バスの待合所のつもりで作りました。しかし実際は、子どもたちにとって“居心地の良い場所”として使われています。また、ちょっと集団に馴染めない子にとっては“自分の場所”にもなっています。元々想定していなかった、さまざまな役割を持った大事なスペースになっています」と田尻園長。 部屋の外に向かって開いた丸窓からは、エントランスに出入りする保護者や先生の姿を見ることができます。「部屋の中にいる子が外から見えるように安全管理の目的で作った窓でしたが、逆に子どもたちは大喜びですね」とのこと。子どもたちにとっては、保育室とは違った自分たちだけの空間。ここから外を眺める子どもたちの気持ちになってみると、何だかワクワクしてきますね。 部屋の中に入ってスライド式の扉を閉めると、扉のあった壁面にアリさんたちの巣が現れました。子どもたちの好奇心をくすぐる、ちょっとした工夫ですね。描かれている絵は、すべて直接触ることができるのも特徴の一つ。ザラザラとした凹凸の触感が、子どもたちの五感を育てます。
「園の環境作りは、いかにスペースをアレンジするかだと考えています。子ども専用の玄関も小部屋も、ちょっとしたアレンジ。既に完成された建物でも、工夫次第で子どもたちが気持ちよく過ごせる環境に作り変えられるんじゃないかと思います」と田尻園長。ただし、なかなか大人が想像するような結果にならないこともたくさんあるようで、そこがまた面白いんだそうです。
アーチ型の段差はどう使う?
続いて、2歳児クラスの保育室をチェックしてみました。田尻園長によると、2歳児さんは、4月~9月生まれの子のクラスと、10月~3月生まれの子のクラスに分けているとのこと。「もともとは人数が多くてクラス分けをしたのですが、現場からはとても保育がしやすいということです。1~2歳までは発達の差も大きいので、この分け方が合っているようですね」。ちなみに、近くにある系列園の2歳児は、クラス分けをするほどの人数でないにも関わらずこの方法の導入を検討しているそうです。1~2歳児のクラス運営のヒントになりそうな取り組みですね。 保育室の環境構成で特に注目したのが、アーチ状に段差が付いた独特な形状の保育室。部屋の一角から1/4の円を描くように二重の段差が設けられていますが、なかなか他では見られないレイアウトに驚かされました。「もともと掘り下げができる場所だったこともあり、設計の段階で“じゃあ掘り下げてみるか”となりました」と田尻園長。 実際の使い方は、扇の要のところで先生がお話しをするのをアーチ部分に座った子どもたちが聞いたり、逆に下のフロアに子どもたちが座って、上の方をステージに見立てて出し物をしたりするそうです。日常的にも段差のところに座って絵本を読むなど、子どもたちは思い思いに“段差のある環境”を楽しんでいるとのこと。
「子どもたちにとっては、ちょっと座れるスペースがあって落ち着くようです。保育士にとっては布団が敷きにくいといった悩み(笑)もありますが、日常的に段差がある環境を経験するのも、子どもにとっては良いのかなと考えています」。なかなか他の園で取り入れるのは難しいですが、子どもたちが普段どういった過ごし方をしているのか、とても興味いと感じる環境でした。
環境作り&活動アラカルト
これまでご紹介した以外に、園内で気になった環境や活動を一気にお伝えしていきます。吹き抜け空間を利用して製作物を展示
園内を見学する中で目を引いたのが、2階まで吹き抜けになっている給食コーナー(食堂)。高くて開放感のある天井からは自然光が取り込まれ、何とも心地よい空間が広がっています。 1階から上を見上げると、ヒモと網を使って、子どもたちが作った製作物がオブジェのように飾り付けられています。製作物の展示は場所を取ってしまいがちですが、空間を立体的に使った工夫が光りますね。“一人になれる”リラックス空間
エントランスホールの正面にあった、絵本と長椅子が用意された休憩コーナー。もともとは園バスの待合所として作られたそうですが、「昼間でも、ちょっと集団に入れない子の居場所になっていたりします。事務所の目の前なので大人は見ているんだけど、子どもにとっては一人になれる空間になっています(田尻園長)」とのこと。「こどもるーむ」と同じく、子どもたちにとっては落ち着く空間になっているんですね。大人が落ち着けるカフェのような子育て支援センター
続いては、まるでカフェのようなカウンターと座り心地の良さそうなソファ、子どもたちが遊べるコーナーが併設された部屋をご紹介します。こちらは、地域の親御さんに開放されている子育て支援センターで、「育休・産休中の親御さんが、“ほっと一息つける場所”として提供しています(田尻園長)」とのこと。吹き抜けの高い天井と、落ち着いた色使いの室内が、リラックスできる雰囲気を作り出しています。和太鼓の音色と元気な声が響き渡る多目的ホール
元気な子どもたちの声が聞こえてきたので中を覗いてみると、多目的ホールで体操教室の活動中でした。曲線のあるデザインと、ステンドグラス風のガラス面から差し込む柔らかい自然光が印象的なホールでは、年長さんの和太鼓の活動や週1回の体操教室、課外活動は夕方の時間を利用して全部で5講座行われているそうです。外国の人とお話をする取り組みの狙いは?
年長さんの保育室で見付けたのは、『ミーツ・ザ・ワールド』というタイトルが付けられた活動のまとめ。子どもたちが、フランス生まれのグレゴリーさんに聞いたさまざまな質問の答えが分かりやすくまとめられていました。活動は週に1回、ゲストと子どもたちがZoomで会話をするとのこと。「初めて話す外国の人と挨拶や会話を交わすことで、子どもたちのコミュニケーション力を育てようというのが狙いの一つ」と田尻園長。活動については、家庭でも親子の会話のきっかけにもなっているそうで、いろいろな波及効果がありそうですね。
ながと夢認定こども園 https://ikushin-kai.jp/nagato
しらはね認定こども園 https://ikushin-kai.jp/shirahane
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