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子どもたちに「原体験」を!チームラボが手掛けた環境作りに注目【園レポート】

キッズラボ南流山園の2階に設置されたアスレチックネット
さまざまな園の環境構成を紹介していく「ほいくのカタチ」。今回は、先進的なクリエイター集団として知られる「チームラボアーキテクツ」が日本で初めて設計・監修したことで話題となった、「キッズラボ南流山園(千葉県流山市)」の事例をご紹介します。斬新な発想で作られた環境の中で、子どもたちがイキイキと育つ秘密に迫ります。

キッズラボ南流山園

キッズラボ南流山園の外観
JRなどが乗り入れる南流山駅(千葉県流山市)は、周囲に閑静な住宅街が広がる落ち着いた雰囲気の街。そこからバスで約10分、キッズラボ南流山園は、カラフルなU字型の園舎がひときわ目を引きます。エントランス前のウッドデッキの内庭には大きなふたつの砂場。園庭にはいくつもの盛り山や水たまり場が。ぽかぽか陽気の中、夢中になって好きな遊びを楽しむ子どもたちの笑い声が響いていました。

今回取材をさせていただいたキッズラボ南流山園は、先進的な取り組みで注目を集めるクリエイター集団「チームラボ」の建築部門であるチームラボアーキテクツが設計・監修を行ったということで話題となりました。ほいくis編集部でも、どのような保育環境が構成されているのか注目していた園です。

案内をしてくれたのは、園長の山本美里さん。大人でも思わずワクワクしてしまう園環境の中にどんな保育の工夫があるのか、お話を伺いながら見学させていただきました。
キッズラボ南流山園の山本園長


保育園の「当たり前」をくつがえす環境設定の数々

居場所は子ども自らが選ぶ多角形の保育室

乳児さんの保育室からレポート開始です。
キッズラボ南流山園の0歳児クラスの内観
まず驚いたのが、扉も廊下側の壁も全面ガラス窓になっているところ。自然光が入り、明るい色がアクセントになった保育室を鮮やかに照らしています。保育室の形は、よくある四角形ではなく、不規則な多角形になっています。形を活かし、乳児さんでも自ら自分でやりたいことを見つけ動けるよう、仕切りは設けていないとのことです。

当たり前を覆す保育室中央の手洗い場

キッズラボ南流山園の保育室中央に設けられた手洗い場
カラフルで目をひく手洗い場が、なんと保育室の中央に。ここでも「手洗い場は壁側」という、当たり前を覆されました。

使い勝手や子どもたちの姿をお聞きしたところ、「この場所ならこの場所で、子どもたちは馴染んでいきます。もちろん入園当初はいろいろあります(笑)。湖みたいに水浸しになってしまっても、その都度保育士が『あらあら』と言って拭いているのを見て、子どもたちも一緒に拭くのを手伝ってくれるようになります。自然と使い方を覚えていきますよ」とのこと。

何事においても子どもたちの「やってみたい」を否定せず、まずは受け止めること。保育士の余裕を持った関わりの中で、子どもたちが自然と環境から学んでいく。「子どもの力はすごいですよね」と笑顔で語る山本園長から、園が大切にしている保育理念が伺えました。

同じ形の物が一つもない園内

次に幼児さんたちが生活する2階へお邪魔しました。
キッズラボ南流山園の保育室入り口にあるクラス名の表札
開放的な空間で目をひくのは、カラフルな窓や天窓。見比べても、同じ色・形のものは一つもありません。また、独特な形が印象的なクラス表示の看板は、各部屋の形を表現しているそうです。一つひとつのモノの形の違いやこだわりに、思わず見入ってしまいました。子どもたちが生活する環境の中で、さまざまな違いを「発見、観察し、考える」ということも乳幼児期には大切な経験なのですね。
キッズラボ南流山園の保育室の天井にある吹き抜け窓
キッズラボ南流山園の保育室にあるカラフルな出窓

食への興味関心を育む充実した食育活動

食育活動に力を入れているキッズラボ。自分たちで野菜を育てたり、クッキングを楽しんだり、四季折々の行事食を味わったりと、乳幼児期から食べることを楽しみ、食への興味関心を育んでいます。
保育室でおやつを受け取るために並ぶ園児たち
この日はパフェ作りの日でした。「自分で作ったの!」「もう一回おかわりする!」など、友だちと嬉しそうに自ら作ったパフェを頬張る子どもたちの笑顔がはじけていました。

遊び方は無限大!2階中央スペースのアスレチックネット

キッズラボ南流山園の2階に設置されたアスレチックネット
おやつを食べ終えた子どもたちが、自慢の設備を紹介してくれました。2階中央のオープンスペースには、本格的なアスレチックネットが。園庭の大型遊具に設置されているものはよく見かけますが、最初から園舎の一部、しかも2階部分の吹き抜けとして組み込まれているのは全国でもここだけではないでしょうか。「縦横無尽に駆け抜けたり、トランポリンのようにジャンプしたり、ハンモックのように大の字になって空を見上げたりと、子どもたちは自由な発想でこの空間を楽しんでいます」と山本園長。
2階のアスレチックネットを園の中庭から見上げたところ
ネット越しに下を覗き見ると、真下にある砂場の様子がよく見えます。

恐る恐るネットの上に立ってみると、下の砂場で遊んでいた子どもたちから、「危ないからゆっくり降りてね!」「寝っ転がると楽しいよ!」と、遊び方のアドバイスをもらいました。実際には、大人が乗っても耐荷重としてはぜんぜん問題ないそうです。
2階のアスレチックネットから見える砂場で遊ぶ子どもたち
上で遊ぶ子もいれば下で遊ぶ子もいる。大人に決められた場所ではなく、遊びたい場所を自ら選べる保育環境を大切にしているとのこと。年齢に関係なく、いろいろな場所で遊ぶ友だちを見つけては「あっちに行ってみよう」「これをやってみよう」と、好奇心を高める仕掛けがここにありました。

まるで秘密基地!大人も子どももワクワクする絵本部屋

キッズラボ南流山園の絵本コーナー
続いて紹介するのは、まるで秘密基地のような絵本部屋。天井まで広がる絵本棚と、クッション性の段差が特徴で、中に入るととても落ち着く空間になっています。

段差に座ってひとりじっくり絵本を読んだり、段差を机にして友だちと一緒に図鑑で調べたりと、子どもたちは思い思いにこの空間を楽しんでいるようです。

どうやら自然と子どもたちが集まってくる空間のようで、「この絵本面白いよ」と自分たちのお気に入りの一冊を紹介してくれる微笑ましい姿も。

一つひとつの保育環境に、驚きと興奮がどんどん高まる中、その様子を見た山本園長がこう話してくれました。「大人がワクワクする場所は、きっと子どもたちはそれ以上に楽しいんだろうなと思います。普通の保育園さんとは違った設計を活かして、私たち大人がどう関わっていくか。子どもたち自らが、環境の使い方を学んでいけることを大切にしています」。子どもたちの姿をしっかりと観察しながら保育をしている様子が伺える話でした。

さまざまな体験を生み出す園庭

続いて、子どもたちが元気に遊ぶ園庭にお邪魔しました。

「決まり」のない自由な環境

キッズラボ南流山園の園庭で遊ぶ子どもたち
園舎の目の前に広がる園庭は、平らなところがあまり無く、微妙なアンジュレーションの丘がいくつもあります。丘から丘へ、走って登ったり下りたりする子どもたちの姿が見られました。「木登りをしたり、水たまりをジャンプしたり、ベンチの場所を変えたり、子どもたちが毎日いろいろなところで創意工夫しながら遊べる環境を大切にしています」と山本園長。確かに、先ほどまで子どもたちがままごとのテーブルとしていたベンチが、いつの間にか「リムジンだよ」と車に変身していました。「決まり」のない自由な環境で育つ子どもの想像力は計り知れません。

園庭にニワトリが!

園庭で放し飼いのニワトリを追いかける男の子
この園舎の目の前の園庭の隣に、実はもう一つの園庭がありました。なんと、こちらの広場には子どもたちと走り回る3羽のニワトリがいるではありませんか!

「開園時にひよこから育てたんです。毎日子どもたちに追いかけまわされながら、こんなにたくましく育ちました」という山本園長。子どもたちが畑に植えた苗をニワトリがつついてしまう対策を考えたり、産んだ卵を最初はうまく持てず割ってしまった経験から丁寧な扱い方を学んだり、ニワトリの体調を気遣ったりと、ニワトリと子どもたちのさまざまなエピソードが日々生まれているそうです。

生き物の飼育という「体験」を通じて、命の大切さや尊さ、思いやりの気持ちや責任感などが自然に育つ環境。大切なことは全て体験から生まれることを、こちらの園独自の環境作りから教えられました。

乳幼児期にたくさんの原体験を

キッズラボグループ代表の西原優博さん
最後に、同園を含めたキッズラボグループの代表である西原優博さんにお話を伺いました。

熱烈アプローチでチームラボとのコラボが実現

チームラボアーキテクツが園の設計・監修をすることになった経緯を教えてください

今の子どもたちが大きくなる20年後の世界を考えた時、子どもたちはどんどん減っていき、そして価値観は多様化していきます。その中で、僕らが考える価値観じゃない世界を今の子どもたちは生きていきます。その時どういう世界になっているかなんて分からないですよね。

でも、僕たちがやっている保育って、10年後、20年後を作っていく仕事です。だから、どういう世界になっていくのかを想像しながら園を考えなきゃいけない。

僕は元々チームラボさんに個人的にすごく共感していて、彼らが考える何かデザイン的な要素を取り入れた保育施設ができないかと本気で思い始めました。そして足しげく通ってラブコールを送り続けた結果、日本で初となるチームラボの設計、監修が実現した訳です。

コラボを通して何か新しい発見はありましたか?

都内で保育園を運営していると、真四角の部屋でいかに効率よく配置するかが大事で、その方が保育士が働きやすく、子どもたちも過ごしやすいんじゃないかと思っていました。しかし、チームラボからの提案は、遠回りしないといけないU字型の園舎や、保育室の中央に設置された手洗い場、でこぼこな園庭など。「一見すると非効率な環境の中にこそ、学びが溢れる」というコンセプトでした。

これは、自分が当たり前だと思ったものを全部壊される経験でした。それと同時に、「子どもも大人もワクワクできるような園舎にしたい」という、こちらの思いを見事に実現してくれたと感じました。やはり任せて良かったなと思いましたね。

キッズラボが大切にしている「原体験」

園の環境作りで大切にしていることは何ですか?

僕は田舎で育って、小学校の裏山で放課後ずっと遊んでいて遭難しかけたりとか、本当にいろいろな冒険を経験したことを今でも覚えています。その体験が、自分の中で何か礎を作っているんだなと感じています。そんな経験もあるので、子どもたちにも何かいろいろな体験をさせてあげたいと思うんです。

例えば、人工的に作られた遊具って大人の価値観がどこか入ってしまうから、それは園庭に設置せず、自然の中で遊べる環境を作るようにしています。遊び方は無限にあって、子どもたちは自然の中から学んでいきます。それは別に都会でもできるんですよ。散歩の途中でナメクジを見つけて飼って見ようと思ったり、見付けたイモムシが図鑑でどんな蝶になるのか調べたり。そういった毎日の「原体験」の中で、大人が想像もできないようないろいろな発見をしてほしいと考えています。

今年は農家さんと提携して味噌作りをしたり、田植えとか稲刈りにも子どもたちを連れて行こうと計画しています。

これからの時代を生きる子どもたちへのメッセージ

小学校までの数年間で、どれだけの体験ができるのか。子どもも大人もワクワクする環境作りに込められた「生きる力」を育む土台作り。今回の取材を通して、これからの時代を生きていく子どもたちへの深く熱いメッセージをひしひしと感じました。

これからのキッズラボ保育園の取り組みにも注目です。
キッズラボ南流山認定こども園【認可保育所】
https://kids-lab.co.jp/minaminagareyamaninteikodomoen/
設置主体:キッズラボ株式会社
https://kids-lab.co.jp/
  • 所在地:千葉県流山市木二丁目19番地の3
  • 代表者:西原 優博(保育士)
  • 園児定員数:0〜5歳児 80名
  • 開園時間:平日 7:00~20:00  土曜 7:00~18:00
  • 開園曜日:月~土曜日(休み:日曜祝祭日、年末年始)
<紹介動画>
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橋田美幸(はしだみゆき)

この記事を書いた人

橋田美幸(はしだみゆき)

フリーランス保育士/リズム運動講師/ メンタル心理カウンセラー
保育士歴17年。全国各地の 保育施設で乳幼児の発達要求にこたえるリズム運動の普及に尽力。
また保育士、子育て中の親御さんのメンタルケアも目的とした相談サービス『ヨリドコロ』の運営も行う。日々の活動を投稿しているインスタグラムは、フォロワー1万人超えで注目を集める。
リズム運動と相談業を柱に、たくさんの子どもたちと、関わる大人の『共育ち』を応援していく。

<Instagram>
https://www.instagram.com/mochi.hsp/?hl=ja

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