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発達障害のある子に『ぬり絵』を取り入れる目的と方法

使いこまれたクレヨンと色鉛筆
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんの連載コラム。発達障害の子どもとの『遊び』について解説するシリーズの今回は、「ぬり絵」を取り上げます。

1.ぬり絵遊びの発達

ぬり絵に取り組む子どもの手元
まずは、ぬり絵遊びの発達について押さえておく必要があります。一般的に子どものぬり絵遊びは次のような段階を経て発達します。

第1段階/2歳前半~

  • 形式:図に点を打つなどして、マーキングする。
  • 特徴:図の中を塗るという認識がなく、図の上をなぐり描きするだけで、ぬりすぎ、あるいはぬり残しが大変多い。

第2段階/2歳後半~

  • 形式:図の中にギザギザ線やぐるぐると丸を書くことが多い。
  • 特徴:図の中をぬることを認識し始める。ぬり残しは大変多いが、ぬりすぎはほとんどない。

第3段階/3歳~

  • 形式:図の中をぬることを理解し、ぬりつぶすことに集中する。
  • 特徴:ぬり残しが急減するが、ぬりすぎに注意を払わず、ぬりすぎが増す。

第4段階/4歳半~

  • 形式:図の中をきれいにぬることを意図してぬる。
  • 特徴:ぬり残しとぬりすぎが共に少なくなる。
※『発達障害幼児のぬり絵の発達に関する一考察』尾崎康子 とやま特別支援学年報2 2008年2 P43

2.ぬり絵遊びの機能

また、ぬり絵遊びには、次の5つの機能があります。

①腕や手指をコントロールする力が付く

姿勢が不安定ではぬり絵はできないので、まず座位の安定が必要です。

また、腕をスムーズに動かすことも必要ですし、クレヨンや色鉛筆を持ちながら描くには、手指をコントロールする力も要求されます。「はみ出さないように描こう」「ぬりつぶそう」「薄くぬる」「濃くぬる」など、緻密にぬろうとするならば、力の細かいコントロールやスムーズな動きが要求されます。

ぬり絵を仕上げたい、上手にぬりたいという気持ちでぬり絵に取り組む中で、座位を安定させる力や腕や手指をコントロールする力が育つことが期待されます。

②目と手の協応を育てる

ぬり絵に夢中になっている男の子
目と手が協応できるというのは、目の動きに手の動きを合わせられるということです。

ぬり絵では、ぬる方向を見ながらぬり絵の紙面と線を見て、線から出ないように色鉛筆やクレヨンを使う必要があり、そのためには、目の動きに手の動きを合わせなくてはなりません。

ぬり絵で目の動きに手の動きを合わせる経験を数多くする中で、目と手を協応させることができるようになることが期待できます。

③集中力が身に付く

自分が思ったようにぬろう、はみ出さないようにぬろうと思えば、自然に集中します。ぬり絵の紙を注視すると他の刺激が入りにくくなることも、集中できる要因でしょう。枠の線の太さ、枠の小ささ、複雑さなどによって難易度が高くなると、集中度はさらに高まります。ぬり絵遊びは子どもの集中力を育てる機会になります。

④達成感や自己肯定感を育む

ハンバーガーのぬり絵
ぬり絵遊びは、完成がわかりやすくはっきりしているので、「できた!」「完成した!」という達成感が得られます。また、自分で絵が描けなくてもぬり絵ならば、子どもは満足できる絵を「自分で」完成させられます。大好きなものの絵を自分で完成させたときの達成感は大きいはずです。

「上手くぬれるかな?」「完成させられるかな?」と不安があるような子どもにとって、不安を乗り越えて完成できた、素敵にできた達成感や満足感は、子どもが自己を肯定的に捉える機会になります。

⑤創意工夫や目標に向かう計画性を養う

どの色を使おうか、どこから、どのように色をぬろうか、と自分で考えて工夫し計画してぬっていく中で、子どもたちは創意工夫や計画性を養っていきます。その子らしい創意工夫や計画性を十分に発揮できるように、ゆったりとした時間を補償しましょう。

3.発達障害のある子の場合のぬり絵遊びのポイント

これらの、ぬり絵遊びの機能を踏まえて、保育者がサポートする際のポイントを4つの視点から見ていきましょう。

①失敗への恐れのある子への対応

自閉症スペクトラム障害の子どもの場合、「線からはみ出たらどうしよう」という不安が強い子どもが少なくありません。興味はあるけれど、はみ出てしまうのが怖いのです。

ぬり絵を始めても、わずかに線をはみ出しただけで「ギャー」とパニックになる子どももいます。

そのような子どもにとって一番安心なアプローチは、保育者がぬり、子どもはそれを見て楽しむ方法です。何色でぬるか、どこからぬるかなどを子どもに尋ねながら、ぬり絵を仕上げていくのも、子どもがぬり絵に参加するひとつの方法です。

保育者が手を添えるのを子どもが嫌がらないなら、「一緒にぬる」のも良い方法です。手を添えてもらってでもぬり絵ができあがったという経験は、子どもの大きな喜びになることも多いです。

他にも、ぬり絵の線を極端に太くする方法もあります。こうすると、はみ出ることが起きにくくなります。

子どもの様子を見ながら、適宜これらの方法を組み合わせることで、ぬり絵に向かなかった子どももぬり絵遊びができるかもしれません。

②衝動性や集中力への配慮

お絵描きをしている子どもたちの手元
衝動性が高い子どもの場合、最後まで完成させるのに必要な自己制御の力が育っていない、周囲の視覚的刺激や聴覚的な刺激に意識が向いてしまう、などの理由で、ぬり絵を完成させられない、上手くいかないといったことが重なって、ぬり絵遊びを嫌がる場合があります。

そのようなときは、気が散りにくい環境を工夫してあげることで、ぬり絵遊びを楽しめるようになることがあります。

極端に小さいぬり絵を提案することも考えられます。子どもが見てもササっとできることがわかるので、意欲的に取り組めることがあります。

③座位の不安定さや腕や手指の操作の不器用さへの配慮

筋緊張が低かったり、体幹が不安定だったりすると姿勢が安定せず、ぬり絵をしたくてもできないことがあります。

身体が安定するように、きちんと足底がつく工夫や体幹やでん部が安定するように椅子に工夫をします。

また腕や手指が不器用だったり、力が入りにくい子どもの場合は、綱引きのような活動で手指の力を付けたり、手指で捻る動きが入るおもちゃで遊ぶなどが効果的です。

また、保育士が手を添えることも有効です。

④興味の幅について意識する

中には自由に絵を描くのは好きだけれどぬり絵は嫌い、という子どももいます。

遊びは自分から自由に楽しく遊ぶものです。ぬり絵が嫌ならぬり絵にこだわらず、描画を楽しむと広く捉えて、自由に絵を書く活動を補償してあげたいものです。

3.ぬり絵遊びに取り組む際の注意点

続いて、ぬり絵遊びで注意したい点を3つ挙げておきます。

①子どもが自由に楽しめる環境をつくる

カラフルなクーピーペンシル
ぬり絵遊びでは、子どもが自由に楽しめる環境が大切です。保育者の固定概念があると、子どもが、思いもつかない色を選ぶと注意したくなります。

しかし、ぬり絵は遊びです。保育者の考えを押し付けることなく、子どもの発想を尊重してほしいと思います。

②枠からはみ出るなどの事態への反応

「枠からはみ出てしまうかもしれない」ということは、子どもに緊張感を通り越して、時には恐怖に近い感覚を感じさせてしまうことも考えられます。

そのような感覚にとらわれている子どもに対して保育者が、「きちんとぬろうね。よく見てね。」のようなことばがけをすると、子どもはもっと緊張してしまいます。

「楽しいね。」「お~すてきじゃない!」などのように、子どもがぬり絵を楽しめるような関わりやことばがけを意識して、その時期その時期の子どもにできる楽しみ方で十分に楽しめるようにしたいです。

③汚すことで怒られないように工夫をする

クレヨンを持ってお絵描きをしている子ども
ぬり絵に夢中になると、机や服のことなどを忘れてしまって、結果、あちこち汚すことがあります。

シートを敷いて机が汚れないようにする、汚れてもいい服に着替える、腕まくりをするなどの工夫や対策をしましょう。

最後に

失敗するのが嫌でぬり絵を拒否していた自閉症スペクトラムの子どもが、お母さんに手を添えてもらって、大好きな新幹線をぬる場面に居合わせたことがあります。

ぬり絵ができあがったときの子どもの表情を私は忘れることができません。「大好きな新幹線を描けた!」という驚きと喜びがあふれる笑顔でした。

皆さんも日々の現場で、子どもたちとそのような驚きと喜びの時を共有できるよう願います。

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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