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砂場遊びの意義とポイント|発達特性のある子どもの遊び

砂場遊びの意義とポイント|発達特性のある子どもの遊び
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラムです。前回から、発達障害の子どもとの『遊び』について、解説しています。 >>連載の記事一覧はこちら 

発達障害の子どもとの遊びシリーズ。今回は、「砂場遊び」です。

砂場遊びの機能

砂場で砂遊びをする子どもたち
外遊びの定番、砂場遊び。年齢を問わず、様々な遊び方ができるため、子どもたちの人気の遊びです。

砂場遊びには、主に次の7つの機能があります。

①感覚刺激

砂場遊びでは、さまざまな感覚刺激をうけることができます。
触覚刺激:砂を手で触れる、裸足で歩く、水を流し込んだ砂を触るなどのときに、皮膚を通して感じる刺激
視覚刺激:乾いた砂と水を含んだ砂の色の違いなどの視覚刺激
重さの感覚(固有覚):片手で砂をつかんで持ち上げた時と両手で砂をすくいあげたときの重さの違いなど、重さを感じる感覚刺激

発達特性のある子どもは、他の子どもが理解し、楽しんでいる遊びを理解したり、楽しむことができないことがあります。

しかし、砂場遊びの楽しさのひとつは上記のようなさまざまな感覚刺激を味わうところにあります。その楽しさは、他の遊びが楽しめない子どもでも十分にわかります。そのような子どもにとって「楽しさがわかる」砂場遊びは、とてもおもしろいのです。

②粗大運動の発達

デコボコした砂場を歩く、大きな砂山を登る、砂場で走る、ジャンプする、バケツに砂や水を入れて運ぶなど砂場での遊びをするには、体のバランスをとる力や手や足の力が必要です。

また、砂場で遊ぶときは、立つ、歩く、運ぶ、しゃがんで掘るなど、様々な姿勢をとりますし、姿勢を変えたり、同じ姿勢を保持することも必要です。

発達特性のある子は、身体の筋緊張が低い、体幹が不安定、身体のコントロールが難しいことがありますが、砂場遊びでは、子ども自身が楽しい、もっとやりたい、という気持ちをもちながら、身体のコントロールや体幹の強化に必要な経験をたくさんすることができます。
砂場で道具を使うことを覚える

③「道具を使う」経験

砂場の遊びでは、素手を使う場合と(手で砂を掘る、水を加えてこねて団子を作るなど)道具を使う場合(スコップで砂をすくう、すくった砂をバケツに入れるなど)があります。

今は、手を使うのがいいか道具を使うのがいいかなど判断を重ねていくうちに、子どもは砂場で遊ぶ中で「道具を使うこと」の意味を学びます。

④情緒的安定 

滑り台は滑る、ジャングルジムは登るなど大抵の遊具は使い方が決まっていて、違う遊び方をしようとすると、あぶないからと禁止されてしまいます。

しかし砂場では、他児とのトラブル、砂を食べる、砂を投げるなど以外は基本的には自分の思いついた遊び方が認められることが多いです。

子どもたちは「だめ」と否定されることなく、思い思いの楽しみ方ができ、穏やかな気持ちで遊ぶことができます。

⑤ことばの発達

子どもの心が楽しさや喜びにあふれているとき、子どもが注目していることにピッタリあったことばが聞こえるとそれは、子どもに強い印象を残し、子どもの心に定着します。

表面がツルツルの泥団子ができたとき、「表面、ツルツルだね」と声をかけられた子どもには、「表面」「ツルツル」ということばがぐっと染みこむのです。

楽しい経験の中でことばを聞くことは、ことばの発達にとってとても大切です。

⑥コミュニケーションや社会性の発達

子どもの遊びは、単独遊び→並行遊び→共同遊びと発達します。

制約の少ない砂遊びでは、多様な遊び方ができるので、自由な発想でイメージを共有しながら、協力しながら、仲良く遊ぶことが比較的しやすいのです。

発達特性のある子の中には、黙々と一人で遊びたい子どももいますが、中には、周囲の子どもの遊び方を観察し模倣する子どももいますし、共同で砂遊びをしたい子どももいます。

発達特性のある子はなかなか共同で遊ぶことが難しかったりしますが、共同の遊びがしやすい砂場遊びは、そのような子どもが共同での遊びを経験し、その楽しさを知るのにとても適しています。

⑦想像力

想像力は、人の気持ちや目標、夢、アイデアなど目の前にはないものを頭に描く力です。想像力を働かせることで、子どもは人の気持ちを理解し、また、夢にむかって自分を鼓舞し、がんばる力を得ます。

遊び方が多様な砂遊びは、子どもの想像力を育てる上でもとてもよい活動です。

地域の山や川、基地や新しい街、時には海、月や火星までも想像しながら遊ぶこともできます。自由な発想で目標や夢を描き、砂場でそれを実現する。砂遊びを通して子どもは想像力を育てることができます。

発達的視点からの砂遊びの段階づけと関わり方 

砂場で砂遊びをする子どもたちと見守る保育士
保育者は、子どもの遊びの段階に応じた関わりをします。どの段階においても大事なのは「子どもの邪魔をしない」ことです。

ステップ1. 感覚刺激を楽しむ

子どもの行動:砂に触れる、サラサラと落とすなどの触覚遊びや砂をじっと見るなど視覚刺激を楽しむ
保育士の関わり方:生活場面では集中できない子どもも、触覚、視覚系の「わかりやすい」刺激には興味を示し、一定時間、興味を維持し続けられることがあります。

子どもの邪魔をしないように見守りに徹し、子どもが保育士に共感を求める視線を送ってきたら、おおげさに反応せず、穏やかに微笑み、うなずくという応じ方をします。

ステップ2. 素手で砂で遊ぶ

子どもの行動:砂を掘る、砂を高く盛るなど、砂で遊ぶようになる
保育士の関わり方:この段階の子どもの中には、対人意識が芽生えたり相互的な関わりを求める子どももいるので、子どもの邪魔をしないように、慎重に子どもの表情や行動を観察しながら、「掘れたね」、「高い!」、「よいしょ、よいしょ」など、子どもがその活動をより楽しめるような声がけをするのもよいでしょう。

ステップ3. 道具を使って砂遊びをする

子どもの行動:シャベル、バケツ、ジョウロ、皿などの道具を使って遊ぶ、穴を掘る、山をつくる、水を混ぜる、団子をつくるなどさまざまな楽しみ方をする
保育士の関わり方:子どもが道具の使い方への興味関心を示す場合は、子どもの遊びを邪魔しないようにしながら、本人が使っていない道具を使って、保育士が新たな砂遊びのモデルを示してみるのもよいでしょう。

ステップ4.  想像力を働かせた砂遊び

子どもの行動:砂山やトンネルを作る、街や月に見立てる、泥団子を使っておままごとなどごっこ遊びをする、木の枝で砂地に絵を描くなど
保育士の関わり方:子どもが嫌がらなければ、子どもの活動を共に楽しむ、喜ぶ共感的な関わりや声かけは可能です。子どもから保育士への声かけには、丁寧に対応したいです。

例えば、「見て見て、川ができたよ!」と言ったら、「本当だね。川だね」「一生懸命作ってたね」、子どもによっては「この川はどんな川か教えて?」などさらに想像力を刺激するような質問をしてみましょう。

ステップ5. 想像力を働かせた砂遊びでの協同遊び

子どもの行動:ステップ4の活動を他児と協同しておこなう。小さい子どもは自己抑制の力が未熟で、道具の取り合いや他児が作ったものを壊したりなどが頻繁に起きますが、大きくなると、例えば街を作るというテーマを共有し、協同しながら、役割分担をしながら遊ぶこともできるようになります。
保育士の関わり方:複数の子どもが関わると、物の取り合いや叩く、砂を投げつける、砂の作品の破壊などが起きやすくなります。保育士は、それらが起きないように未然に防ぐ努力をし、仲良く遊ぶための仲介役を果たすことが必要です。

発達特性のある子の砂遊びの注意事項

砂場で遊ぶ保育園児

 1. その子が望む関わり方を考える

(1)保育士との関わり
子どもが遊んでいるのを見ると、保育士はどうしても関わりたくなってしまうかもしれません。しかし、子どもが砂遊びに集中したいという思いを強く持っているとき、保育士が関わっていくことは集中の妨げになります。

遊びは自由に、楽しくが基本です。子どもの様子を見ながら、関わり方を調整するよう意識したいものです。

(2)他児との関わりへの配慮
他の場面ではなかなか同じ場所で遊ぶことが難しい子どもでも、砂場では他の子どもと同じ場所で遊べることがあります。しかし、発達特性のある子の場合、砂遊びに集中したい、自分のペースで遊びたいという思いが強いことがあり、そこへ他の子どもが近づくと、その子が何もしなくても、「自分の作品が壊されてしまう」という思いから、近づいてきた子どもに、大きな声を出したり、突き飛ばしたりすることがあります。

そうならないためには、発達特性のある子が集中して砂遊びをしているときには、他の子どもを近づかせない工夫や、保育士の方で子どもの叩いたり突き飛ばすなどの行動を確実に止められるような体制をとる必要があります。

2. 子どもが砂を食べないように見守る

発達特性のある子に限らず、小さな子どもは、砂を口に入れることがありますが、特に発達特性のある子の場合、異食といって、食べ物以外のものを口に入れることがあります。

砂には細菌や寄生虫が含まれていることもあるので、子どもが砂を食べないように十分に配慮したいです。

砂遊びは発達特性がある子も楽しく遊べる活動です。ぜひ、取り入れてみてください。

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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