前回から取り上げてきた発達障害の子どもとの遊びシリーズ。今回は、「ボール遊び」を取り上げます。
1. ボール遊びのやり方
人数別でのボール遊びのやり方についてご紹介します。
(1)一人で遊ぶ場合
色々な大きさのボールを
- 運ぶ
- 投げる
- 受け取る
- 蹴る
- ターゲットに投げいれる
- ターゲットに蹴り入れる
- ボールを集める
遊びが考えられます。
(2)2人以上で遊ぶ場合
2人以上が対面してボールをやり取りして遊びます。
上記を基本に
- 2人以上でボールを運ぶ
- ドッジボール
- より簡単な転がしドッジボールなど
を行います。
※配慮するポイント
柔らかい、両手で持てる大きさのボールを選び、ゲーム性がある遊びのときは、十分なスペースを確保するなどして怪我をしない配慮をします。
2.ボール遊びの意義
様々な身体の使い方を学ぶ
① 視覚機能の発達を促す
発達特性のある子どもの中には、ターゲットとするものを目でじっと見る、追う経験に乏しい子どもがいます。
これらの力は、生活動作や学習や運動をスムーズにおこなう上で重要であり、この力が弱いと、例えばシールを貼る、はさみを使う、本を読むなどが難しくなります。
ボール遊びでは、自然と「じっと見る(固視)」「転がる、バウンドする、だんだん近づくなどの軌道を目で追う(追視)」経験をたくさんすることができます。
② 様々な運動経験やモノを操作する力を育てる
発達特性がある子どもの中には、身体をコントロールしながら動かすことが苦手で、その結果、身体に過剰な力みが入り、動作がぎこちなくなる、モノを自由に操作できない子どもがいます。
例えば、箱にモノを出し入れすることができなくて、おもちゃを出すのに箱を一気に逆さまにしたり、おもちゃをしまうのに勢いよく投げ入れる「しかなく」なったりして、その結果、「乱暴な子」と誤解されてしまうことがあります。
ボール遊びで持つ、運ぶ、転がす、投げる、入れる、蹴る、つくなどの様々な動作をたくさん経験することは、身体のコントロールや力加減を覚えることにつながります。
また、ボール遊びを繰り返すうちに、ボールの動きを理解し、自分とボールの位置関係を把握して受け取るにはどう動いたらいいかを判断し、行動する力が身についてきます。
この経験は、状況を良く見てそれに応じて動く、という認知面の発達を促します。
ボールの性質や目的に合わせて、自分の行動を調整していく経験は、やがて社会に出て出会う他の場面でも、環境や状況に応じて行動を調整していく力につながります。
人との関わりの中で、人への意識を高める、やり取りの楽しさの経験を積み上げる
①人への意識を高める
子どもの中には、「ボール」には関心があるが、対面する「人」への意識は希薄である場合が多くあります。
「人」への意識は、ことばや関わり、そして、遊びや社会性の育ちにとってとても大切なことです。ですから、遊びを通じて「人」への意識を育てたいのです。
ボールを転がす前に、ボールを顔の横で停止させて、子どもが必然的に保育士の存在を意識する機会を意図的に作ってみましょう。
また、例えば、子どもが転がるボールを見ている時に「コロコロコロコロ」「ゴロゴロゴロゴロ」など楽しい擬音を出して保育士の存在を子どもに注目してもらう、などの工夫をしてみるのもいいでしょう。
このような経験を重ねることで、子どもはボールだけではなく、保育士に意識を向けるようになっていきます。
② やり取りをすることや やり取りの楽しさを経験する
「やり取り」が成立するには、発信者、受信者ともに、
- 相手を意識することができ
- 相手に発信・受信するタイミングがわかる
ことが必要です。
発達特性のある子どもの中には、相手に向かってボールを転がすことが難しい子どもがいます。
人への意識が希薄なために、相手を意識し、相手を目標にすることができないので、どこに向かって転がすかがわからないのです。
しかし、ボールのやり取りという、「やり」―「もらい」活動を繰り返すことで、子どもがだんだんと「人を意識する」ことができるようになることが期待できます。
人を意識した上で、相手の受け取りやすいタイミングでボールを転がす、相手がボールを転がすタイミングがわかり、受け取るなど、「やり取り」に必要なさまざまな力をつけることができます。
また、「やり取り」の中で人のことばを聞く力、人に伝える力も育てることができます。
ボール遊びで「やり取り」が楽しい、相手との時間を共にするのが楽しいと感じることができたら、それは、他でも人とやり取りしてみたい、関わってみたいという意欲につながりますし、一緒に遊んで楽しいという共感性の育ちにつながっていきます。
ボール遊びを楽しめるように工夫する
最初はボール遊びができない子どももいます。
ボールを口に入れようとしたり、持たせても「ぽいっ」と投げてたりしてしまう。他の刺激に意識が向いてしまい「今はボール遊びをしている」ことを忘れてしまうことも多いです。
しかし「ボール遊び」ができるようになると新しい「楽しいこと」が増えるわけですし、また、ボール遊びには上記のような様々な意義があります。
ですから、根気強く、関わりを重ねて、子どもが「ボール遊び」でのやり取りを楽しいと感じることができるように工夫をしてください。そして、関わる保育士も子どもとの時間を共に楽しんでほしいと思います。
3.遊び方のポイント|具体的な声かけや関わり方の留意点
①子どもの注目を得る
関わる人は、子どもと視線が合う高さまで体を低くします。
そして最初に「〇〇ちゃん~」などと子どもの名前を呼びます。その後、「おーい」と、子どもの注目を得ることばかけをします。
そして、子どもが保育士へ注目したら、「よく見たね~」と伝えます。
②ボールをじっと見ることができる時間を十分にとる
子どもがボールや保育士を注視する時間を十分に取ります。
③子どもへ呼びかけ、応答を待つ。子どもからの呼びかけを引き出す、応答する。
遊びの中で、人からの働きかけのことばに意識を向けたり、スムーズに必要な応答ができたりするようになると、他の場面でも、それができるようになることも多くあります。
だからといって「ボール遊び」のとき、それらの力をつけるトレーニングのような関わりはしないでください。
ボール遊びは楽しい!だから、先生の声を聞く。楽しい!だから、応答する!を目指したいです。
ボール遊びでのやり取りの例
①子どもへ呼びかけ、子どもからの応答を待つ
声かけの例
- 保育士:「ボール転がすよ。いい?」
- 子ども:「はーい。」
子どもの応答は、音声言語でなくてもかまいません。手をあげる、うなずく、視線を保育士に向けるなど、子どもがその時表出しやすい方法での応答を大切にしましょう。
子どもの中には、呼びかけから応答まで、時間がかかるときもあります。子どもからの応答を「ゆっくり待つ」こともとても大切です。
②子どもからの呼びかけを引き出す、子どもの働きかけに応答する
子どもからの呼びかけを引き出すために、呼びかけの方法を教える、合図の仕方のモデルを示すことを考えます。
音声言語が出ない子どもの場合、例えば、次のようなステップを踏んで、ボールを転がすときの合図の方法を獲得してもらい、保育士が子どもの合図に応答し、ボールのやり取りをすることができるようにしていきます。
STEP1 黒子役の保育士Aがモデルを示す
- 子どもの横で、保育士Aが手を挙げて対面する保育士Bに合図をし、Bに向かって対面する保育士にボールを転がす
- 子どもはその様子を見る
STEP2 保育士の補助でやり取りをする
- 子どもがボールを持ち、保育士Aが手を挙げ、子どもがそれをまねする
- 保育士Bは子どもの挙手に呼応して「はーい」と応答する
- 保育士Aが補助して、子どもが保育士Bに向かってボールを転がす
- 保育士Bは「ボールを・・・・キャッチ!」とことばを添えながらボールをキャッチする
STEP3 保育士の補助を減らす
保育士Aの挙手の合図を少しずつ減らし、子どもが自発的に挙手し、ボールを転がせるようにする
子どもが挙手で合図をしたら、対面する保育士は子どもの挙手への応答であることが子どもにはっきりわかるように応答することが大事です。
そうすることで、子どもは、自分の挙手の意味が対面する保育士に伝わったことを実感します。やり取りができたという実感がもっとやりたい、楽しい、人を意識することにつながっていきます。
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